2023年5月に読んだ本まとめ

2023年5月に読んだ本を多少の備忘録とともにまとめるやつです。


本多孝好「dele2」

死んだ依頼人の託したデータを秘密裏に削除する会社のお話。
短編である2編はいずれも不穏な展開ながらも、ラストで優しい気持ちになれる素敵な物語でした。
「チェイシング・シャドウズ」は、祐太郎の妹である鈴にまつわるエピソード。
1巻目からほのめかされていた物語の核心が、ついに描かれたという感じです。
妹の死の真相を探るために走り回る祐太郎が、危なっかしくてハラハラさせられました。
最後はそこに繋がるのかという驚きもあり、とてもおもしろかったです。
寂しいラストになった上で、ここからさらに続刊があることに驚いています。


暁佳奈「春夏秋冬代行者 暁の射手」

夏の事件で四季との繋がりを得た、朝をもたらす暁の射手が主人公。
神の力を持ちながらも平穏に暮らしていた主従が突然の悲劇に見舞われ、深い絶望の淵から這い上がる疾走感はものすごい読書体験でした。
愛する人を救うためとはいえ、その手段をとるのは果たして正しいのか? という理性的な疑問はありながらも、それでも貫きたい花矢の強い想いに心を打たれます。
とにかく濁流のように暴れまわる感情の嵐が、改めてこの作品の魅力だなと再認識。
なんだかんだありつつ、最終的に花矢の両親のほのぼのオチがいちばん気に入っているかもしれません。


原作・西尾維新、作画・岩崎優次「暗号学園のいろは 第2巻」

相変わらず読み応えが凄まじい。言葉遊びの雨あられ。
凍博士のワンポイントレッスンから細かいやり取りまで全部読んでいたら、普通の漫画の倍くらいの時間がかかりました。
マダミス編で各クラスメイトたちのコスプレをしあっているのが、それぞれどれになるのかを考えるのも楽しいですね。
朧さんは怖いキャラなのかと思いきや、そこここで笑いの沸点が低くてかなりかわいく見えてきました。
特には言及は無かったものの、濃姫さんのXワード、貴族にしては文字が崩れ気味だったのって、もしかしてそういう?


ジョージ・オーウェル「一九八四年〔新訳版〕」

いわゆるディストピア世界を描いた作品。
ジャンルとしてそういうものがあるのは知っていましたが、1冊の長編小説として読んだのは初めてでした。
世界観が徹底されており、傑作と称されるだけの作り込みの深さが感じられました。
ジュリアとの密会を繰り返すシーンはディストピアならではの展開で、ワクワクします。
一方、管理社会のあり方を疑問視しているうちはまだしも、ウィンストンが本格的に党によって翻弄される様は実に恐ろしく、終盤は身の毛もよだつ展開で凄まじい読書体験でした。


杉井光「楽園ノイズ6」

ピアニストという蛮族がいる、というフレーズがかっこよくて痺れました。機会があれば読んでみたいです。
凛子と華園先生というふたりのピアニストが激突するこの巻は、音楽というジャンルの中では特異に思えるほどに熱く激しい物語でした。
一方で真琴はというと、今巻は全体的にスランプ気味。
ありとあらゆるものを自分の音楽のステップアップに利用しようとしてしまうあたり、音楽バカの真琴らしくてよかったです。
ツッコミの精度で調子の良し悪しが計られる真琴くん……。
さて、次は夏休みと思われますが、いよいよ水着回……なのでしょうか?


野崎まど「タイタン」

めちゃくちゃ良かったです。
AIがすべての仕事をしてくれる世界を舞台に、「働くこととは何か?」を問いかけてくる作品。
AIを相手に心理学のカウンセリングをするというあたりがかなりSF的でワクワクするのですが、次々に予想外の展開が待ち構えていて、物語的にも非常におもしろい。
そのうえで成果とコイオスが対話を繰り返し成長していく様は興味深く、微笑ましい。
最後にたどり着く「働くこと」への結論も鮮やか。
SF小説として極上の読書体験でした。
いや本当に、野崎まどさん、素晴らしい仕事でした!


伊坂幸太郎「AX アックス」

ベテランの殺し屋でありながら恐妻家という、表裏ふたつの顔を持つ「兜」が主人公。
些細なことでも妻の機嫌をうかがう兜の、平穏でのんびりとした日常が、殺し屋シリーズとは思えないほどまったりとしていて、とても楽しく読めました。
人からは情けなく映りながらも、妻や息子のことを心から想う兜の姿はとても素敵でした。
そして最終章では、一気に物語が加速していきます。
巻き込まれている登場人物の方からしたら訳の分からない急展開でしょうが、俯瞰で物語を追いかけてきた読者からするとものすごく感動的なラスト。



個人的な今月のお気に入り作品トップ5

第1位/春夏秋冬代行者 暁の射手

第2位/タイタン

第3位/AX アックス

第4位/楽園ノイズ6

第5位/暗号学園のいろは 第2巻