2022年のおもしろかった小説

2022年に読んだ中で、おもしろかった小説のベストテンです。
今年読んだ作品の中から、なので必ずしも今年発行の作品とは限りません。

なお、ライトノベルのベストテンは別で記事を立てますので、こちらは一般文芸のみとなります。


第10位

本多孝好「dele」

これはおもしろかったですねえ。
依頼人の死後に任意のデータを削除する仕事を中心にして、その依頼人の歩いてきた道を知ったり、不思議な謎があったりと、読み応えのある部分が多かったです。
最初のエピソード「ファースト・ハグ」はサブタイトルの付け方が秀逸で、とても気に入りました。
お話が好きだったのは「ドールズ・ドリーム」で、お母さんの意図が明かされるシーンはとても切なくて泣けました。
祐太郎の幼馴染の遥那や、圭司の姉の舞といった女性陣が魅力的だったので、続刊以降で活躍する場面が見れたら嬉しいなと思ったり。
圭司はけっこう冷徹にデータを削除するような立場なのかと思いきや、意外と祐太郎の説得とも言えない説得に揺れてデータを見せてくれててちょっとおもしろかったです。


第9位

東野圭吾「虚像の道化師」

物理学者湯川を主人公とするミステリ、ガリレオシリーズの短編集。
この作品では、物理学的なトリックの驚き以上に、関係者の心の機微などが胸を打つ短編が多かった印象でした。
個人的に好きだった作品は、透視マジックを得意とするホステスが殺害される事件「透視す(みとおす)」。
それと、戦力外通告を受けたプロ野球選手が主人公の「曲球る(まがる)」も、かなり好きでした。
短編によっては湯川がお茶目なところを見せたりするのも、おもしろかったですね。


第8位

夏海公司「はじまりの町がはじまらない」

サービス終了間近のMMORPGのNPCが自我を持ち、世界の終了を避けるためにプレイヤーを増やすべく奔走するお話。
なるほど発想からおもしろく、設定から期待する通りの物語が読めて楽しかったです。
最後の最後には大きな驚きも待ち受けていて、SFとしての完成度の高い、非常におもしろい作品でした。
壮大なオチを読めただけでもかなり価値のある1冊だったと思います。
ヒロインであり様々な奇策を打ち出す町長秘書のパブリナがかわいかったです。やはり毒舌クールビューティーの仕事のできる女はかっこいい&かわいい。


第7位

知念実希人「生命の略奪者 天久鷹央の事件カルテ」

天久鷹央の中でも、よりミステリ色の強いカルテシリーズの作品。
今回のテーマは脳死判定による臓器移植。
本来助かるはずだった生命を奪っている今回の事件の犯人には、読んでいてかなりの憤りを覚えました。
臓器移植への考え方や捉え方が人や宗教観によって変わるという点は、一度しっかり考えるべきテーマかなとも思いました。
一連の事件の謎の構成がうまく、ミステリとしても読み物としても秀逸でした。鷹央の成長が随所で感じられて良かったです。
いつになく協力的な成瀬刑事なのに、なかなかどうして報われないのがかわいそう……。
とてもシリアスな場面なのにメイド服を着てる鴻ノ池がかわいかったです。


第6位

武田綾乃「響け! ユーフォニアムシリーズ 立華高校マーチングバンドへようこそ 前編・後編」

「響け! ユーフォニアム」シリーズの番外編で、久美子の中学時代の同級生、梓が主人公のマーチングバンド強豪校の物語。
本当にすごい。
泣きたくなるほどしんどい努力や、自分が嫌になるような友達とのいざこざや、それらを乗り越えた先に待っている輝き、青春の全部が詰まってました。
あみかとの関係が悪化し、芹菜とのトラウマに苛まれる梓の姿は、特に印象的です。
自分が酷い人間であることを認めたくない梓の気持ちは、読んでいて痛いくらい共感しました。
梓をすくい上げてくれた未来先輩の存在は、本当に大きいです……。
思いをぶつけ合った芹菜との顛末は、すごく感動しました。青春に全力をかけるのって、羨ましいですね……。


第5位

今村昌弘「魔眼の匣の殺人」

屍人荘の続編ということで、一筋縄にはいかないミステリだとは思っていましたが……なるほど今回も特異な舞台背景を生かした作品でおもしろかったです。
未来視による死の予告が推理の取っ掛かりにすらなる変わり種のミステリですが、クライマックスで大きな驚きも待ち構えており、素晴らしい構成でした。
探偵役の剣崎比留子がかわいいのも、このシリーズの大きな魅力ですね。
気難しい教授の師々田は第一印象があまり良くなかったのですが、誰にも等しく厳しくあり、息子を大事にしており、やや抜けたところもあるかわいいおじさんで良かったです。


第4位

米澤穂信「Iの悲劇」

住民のいなくなった寒村を蘇らせるIターンプロジェクトにまつわるミステリ。
簑石にやってきた住人たちは悪い意味で個性があり、様々なトラブルが起こる一方で、市役所側も何を要望されても予算が無くて何もできない辺りが妙にリアル。
解決してもなんとも後味の悪いエピソードが多い中、どうにか簑石を良くしようと奔走する万願寺の語りは読みやすくてよかったです。
人懐っこい後輩の観山がかわいくて、物語の清涼剤になっていました。
そんなまさかなオチが待つ「浅い池」と、微笑ましいエピソードが一気に崩壊する「重い本」が個人的に好きです。


第3位

竹宮ゆゆこ「あれは閃光、ぼくらの心中」

凄まじい作品でした……。
15歳で家出をした嶋と、彼を拾ったホストの弥勒。
そんなふたりの奇妙な同居生活を描いているのですが……とにかく溢れかえる感情の描写が圧倒的でした。
ピアノから逃げ出した嶋が、最悪な人生をぼんやりと生きてきた弥勒が、互いに影響を受けあって悶えながら這い進んでいく臨場感が素晴らしかったです。
序盤から中盤にかけてはだらだらと共同生活を送り、終盤に入ってからは一気に物語が進み、そこからはもうのめり込むように読んでしまいました。
物語の構成もうまく、そこにつながってたか!と唸らされます。
自分はそういう素養が無いのと、決してそういうテーマの作品でもないのでアレなのですが、BLとかお好きな方にはもしかしたら結構刺さる関係性の作品なのかもしれませんね?


第2位

竹宮ゆゆこ「応えろ生きてる星」

めちゃくちゃ良かったです。
本当に竹宮ゆゆこさんは、魅力的で、だけど仕草や態度が残念で、なのに一緒にいると楽しくてやっぱり魅力的な女性を描くのがうますぎます。
失恋した主人公の前に謎の女性として登場する朔がとにかくかわいく、ふたりで過ごす時間が読んでてこっちまで楽しくなるほどのめり込んでしまいました。
朔の正体が明かされる場面はあっと思わされますし、そこからさらにクライマックスにかけての勢いも好きです。
この作品は恋愛小説であると同時に、終わってしまった夢の物語でもあります。
だからこそ、夢を諦めそうになっている立場の人間が読むと、刺さるものがありましたね……。


第1位

杉井光「この恋が壊れるまで夏が終わらない」

めちゃくちゃ凄かったです。
生まれつき12時間だけ時を戻すことのできる能力を持った主人公が、先輩の死を止めるために何度もタイムリープする話です。
なぜ先輩は何度も死ぬのか? なぜ先輩の死を止められないのか? という不思議な展開が気になり、どんどん先を読み進めてしまいました。
そんな中で些細なことが未来に影響を及ぼしていたりと、驚きもありました。
恋物語としては切ないラストなんですが、喪失感以上のあたたかさが感じられる素敵な作品でした。
とにかく読み物としておもしろく、切なくて感動的で、終わり方も含めて最高です。



まとめ
第1位/この恋が壊れるまで夏が終わらない
第2位/応えろ生きてる星
第3位/あれは閃光、ぼくらの心中
第4位/Iの悲劇
第5位/魔眼の匣の殺人
第6位/響け! ユーフォニアムシリーズ 立華高校マーチングバンドへようこそ 前編・後編
第7位/生命の略奪者 天久鷹央の事件カルテ
第8位/はじまりの町がはじまらない
第9位/虚像の道化師
第10位/dele

来年もたくさんの素敵な作品に出会えますように。