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初の鑑別所生活 第五話

俺は車に揺られ鑑別所に到着した。
手錠を外される。
氏名、生年月日、住所を言わされ、本人確認をされる。
なにか変なものを持ち込んでいないか、留置場でされるような検査もされる。

服は支給されるみたいだ。
服のサイズを聞かれたり、足のサイズを聞かれたり。
確か、全て青っぽいジャージみたいなものだった気がする。
中学とか高校で着るようなそれだ。

なにやらかごに色々入ったものを持たされ、部屋に案内された。
手錠をはここの中ではされないみたいだった。
青いジャージをきて、教官と部屋まで歩く。
留置場とは違い、広い建物だった。
いく扉いく扉、すべて重い扉になっており
全て厳重な鍵がかけられていた。
部屋に到着した。
すでに鑑別所内は就寝間際の時間らしく、
廊下はすでに暗かった。

窓には鉄格子。
第一印象としてはすごく狭いだった。

部屋に入ると、ここでのルールや決められた日課、タイムスケジュールなどを説明された。

創作活動というものが、あり
絵日記みたいなもので自分の人生を振り返ってみよう。
みたいなものとか。
色んな書類を毎日書いたり、とかしないといけないみたいだ。
なんか小学生の気分だった。
風呂は週に2回。一回20分をタイマーで計られる。
留置場と一緒だ。
ゆっくり入れたもんじゃないし、週に2日はだいぶきつい。
夏なんて最悪だ。
俺の初の鑑別所が、夏だったか、冬だったかは覚えていないが
夏はちっちゃい扇風機を部屋に貰えるが、夜は消される。
冬は厚着をしてしのぐ。
あまりいい環境ではなかった。
ただ、留置場と違うのは、飯がマシになったことだ。
留置場の飯は食えたものじゃなかったが、鑑別所の飯はまだマシだった。
留置場に比べたらむしろうまいと思った。
話が少し逸れたが、
鑑別所のルールのもう一つに、他者と会話をしてはないけない。
笑い合ってもいけない。
というルールがある。
【鑑別所】というのは、成人でいう裁判、少年で言うところの【審判】というものを受けるまでに、この少年はこのまま外に出していいのか。
少年院に行ってもらわないと行けないのか。
というのを鑑別するところだ。
そのため、そのルールを守れているかどうか。
というところもよく見られるんだ。

だからみんな、よくルールは守る。
いい子ちゃんの振りをするんだ。
そんなので鑑別して、外に出したところで
同じことを繰り返すのは、目に見えてるんだけどな。
絵日記とかでも全て観察されている。
ちゃんと書きましょうというのが、ルールだ。

あと、週に一度。
【運動】に参加することができる。
鑑別所の建物の中心に吹き抜けの運動できるスペースがある。
そこで、筋トレやボール遊びなど、決められたルールの中で教官が仕切り、運動することができる。

朝から、夜までの流れをざっと説明もされたが、一度探してみないとわからない。
鑑別所の初めての夜、初めての就寝を迎えた。

就寝前、部屋の電気が暗くなり、曲が流れ出す。
メロディだ。
あれはなんだったかな。
ゲド戦記の。
テルーの唄か。
あのメロディが流れた。
すげー悲しく、虚しい気持ちになったことは忘れない。
外で聴くといい唄なんだろうが。
鑑別所で聞くと切なすぎる。
今でも忘れない。

やはり、俺は泣いていた。
気付けば泣いていた。
廊下を教官が巡回している。
「どうした?寝れないのか?」
いや、大丈夫です。

俺は静かに泣いた。
疲れていたからか、さすがに眠れた気がする。

鑑別所での初めての朝を迎えた。
曲が流れる。
この時の曲はなんだったかは覚えていないが、それで毎回目が覚め、
「起床ー!!!」
教官の一言で、鉄扉の前で正座し、教官を待つ。
教官がきて
「おはよう!!」
と言われる。
俺はいい子を演じ、おはようございますと返す。
全ては少年院送致を免れるためだ。

鑑別所は四角形になっていて、東西南北それぞれに部屋が並んでいる。
東の1の部屋、東の2の部屋というように、全て
の少年への教官の挨拶が終わると、清掃の時間になる。

お茶漬けカラーみたいな布団を綺麗にたたみ、シーツも綺麗にする。
こうしてください。
というような手本のとおりにやる。

そして掃除をする。
これも常に見られている。
普段の生活のあらゆるところが、俺の審判の結果へ繋がると考え、すべてをきっちりやった。
トイレもぴかぴかだ。

順序は正確には記憶が間違っているかもしれないが、次に生活点検みたいなのをされる。

教官が各部屋にはいり、外でたって待たされる。
掃除ができているか。
布団を綺麗にたたんであるか。
変なものを隠していないか。
全て見られる。
俺は初めの点検で、色々指摘を受けた。
自分では綺麗にしているつもりのものを、全て指摘された。
厳しいなと思ったが、素直に受け入れた。
全ては審判のため。
それしか頭にはなかった。
鑑別所にいる期間は通常1ヶ月だ。
そこから審判を受け、どうなるかの処分がでる。

犯罪の内容的に俺は、少年院送致が決まっていたようなものだが、【試験観察】という処分を狙っていた。
これは一時的に様子見で外に出し、その後共犯とつるんでいないか、悪さをしていないかを確認され、もう一度審判を行うというものだ。

全てはそのためにやっていた。

次にラジオ体操がある。
部屋にあるテレビで、ラジオ体操が流れる。
それにそって、狭い部屋でやるんだ。
これがまた恥ずかしい。
1人でやるもんだから、なんともないんだが、
教官が回って見てくる。
やってらんなかった。
だけど、全ては審判のため。
俺はしっかりやりきった。

朝食が食器口に配られる。
それを食べる。
その後創作活動で、絵日記をつけたりと時間を過ごした。
ここもきっちりやった。
過去の自分を、振り返るのは正直嫌だった。
生まれた時のこと、親への気持ちなどを振り返ると自分のやってきたことに後悔するからだ。
だけどやりきった。

その後は色々と指示されていたことをやりながら、一日を過ごした。
夜、日記をつける時間がある。
その日記の内容も全て見られる。
良いように見られるように書くことが、俺は得意だった。
どうすれば、いい印象になるのか。
そんなことを考えながら日記をつける。
俺は反省しているのだろうか?
反省してねぇよなこれ。なんて思いながらやっていた。
今思えば、反省なんかしてなかったんじゃないかと思う。

夜には1時間、テレビが見れる。
いつぶりのテレビだろうか。
外にいた頃にはテレビなんて見なかった。
だけど捕まってから、テレビなんて全く存在すらなかったし、外と繋がれるのは面会くらいしかなかった。
そんな状況になって初めてテレビを見れた。
すげぇ嬉しく感じた。
早く外に出たい。
そんなことしか考えてなかったけどな。

実は留置場にいたころ、親が面会にきてくれたんだった。
俺は久しぶりに会った親に、
どんな顔をすればいいか分からなかった。
親は泣いていた。
俺も泣いた。謝った。
こんなことになるなんて思ってもいなかった。
全ては俺が悪いが、その時は本当に後悔していたんだろう。

鑑別所にも面会きてくれねぇかな。
そんなことを思いながら今日も眠りについた。

俺の鑑別所生活はまだまだ続く。
すんなり審判に行けるはずもなかったんだ。
俺は隠していることがあるって、言ってただろ?
留置場の取り調べの時、喋ってねぇこともたくさんあった。
鑑別所には警察が取り調べしにくることもできる。

俺は全てがバレたんだ。
素直に言っていれば、このまま1ヶ月過ごして審判を受けれたのによ。


つづく。


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