(シンポジウム記録)メタ観光シンポジウム vol. 6「メタ観光DX 〜スマートシティ meets メタ観光〜」
https://www.youtube.com/live/OAbKNGRKjHI?feature=share
■ 日 時 2022年 12月23日(金)19:00 – 21:00
■ 場 所 YouTube配信(エリアLOVEWalkerチャンネル)
■ プログラム
1. 挨拶 牧野 友衛(代表理事)
2. 解題 真鍋 陸太郎(理事)
3. パネルディスカッション
パネリスト 鈴木 昌幸(岡崎市)
下山 紗代子(一般社団法人リンクデータ)
中尾 文宏(角川アスキー総合研究所)
牧野 友衛
コーディネータ 菊地 映輝(理事)
4. まとめ・告知 玉置 泰紀(理事)
オンラインシンポジウム第6回は『メタ観光DX 〜スマートシティ meets メタ観光〜』というテーマのもと開催された。パネリストは、岡崎市総合政策部デジタル推進課戦略係長の鈴木昌幸氏、一般社団法人リンクデータ代表理事の下山紗代子氏、角川アスキー総合研究所戦略推進室副室長/主任研究員の中尾文宏氏の3名が務めた。
代表理事である牧野 友衛からの挨拶ならびに理事の真鍋陸太郎からの解題が行われ、それを受けてパネルディスカッションがなされた。パネルディスカッションのモデレーターは、理事の菊地映輝が務めた。パネルディスカッションでは、まずパネリストの3名から自己紹介を兼ねた話題提供が行われた。
まず鈴木氏より、現在岡崎市が取り組むスマートシティとデータ活用について発表がなされた。岡崎市は、徳川家康の生誕地であり、令和5年1月から放送されている大河ドラマ『どうする家康』に関連した施設が岡崎城付近に設置される。また、人気Youtuberグループ東海オンエアは岡崎市で誕生し現在も市内で活動を行っている。そうした観光資源を有する岡崎市では現在スマートシティ化に取り組んでいる。岡崎市では、空洞化が進んでいた中心市街地に対して再整備を行い、居心地の良い空間の実現を目指しているが、その際に用いられた仕掛けの1つがスマートシティである。まちなかに人流を生み出したり、交通渋滞を解消したり、エリア内の過剰な人手を防いだりといったことをスマート技術の導入やデータ活用を用いて実現しようとしている。発表の中では、市が運営するサイクルシェアの経営をデータ活用で改善したこと、大河ドラマや地域イベントにどれくらいの集客が見込めるかという観光需要の推計、自前でスマートシティ関連アプリを作るのではなく、既に世の中で使われているアプリにデータを提供し、そこで得られたユーザーデータを地元の事業者が活用する試みの3つの事例が示された。
次に下山氏からは、社会においてデジタルの力を有効化するためには、情報がきちんとデジタル化、すなわちデータ化されている必要があり、その上でデータを社会変革に活用すべきだという主張がなされた。もともとバックグラウンドを分子生物学やバイオインフォマティクスに持つ下山氏は、それら領域においてはデータ共有が前提となっているのに対し、社会においてはデータ共有が進んでいないとして、誰でもオープンデータを公開できるようなプラットフォームの運用や、国や自治体の保有データの活用を支援するシステム開発、デジタル庁での社会基盤となるデータ整備、横浜市でのシビックテック活動とマルチに活動を行っている。スマートシティに関しては、バルセロナ市と神戸市が2016年から行っているWorld Data Viz Challengeというデータ可視化ワークショップでの自身の発表作品の紹介や、バルセロナ市におけるスマートシティシティの取り組みの紹介を行った。
最後に中尾氏からは、角川アスキー総合研究所において自身が担当するツイッターのトレンド解析プロジェクトの事例が共有された。同社ではツイッターに投稿されたユーザーのツイートをビッグデータ解析し、まちの個性や文化といった魅力を把握したり、トレンドの指標化を試みたりしている。ツイートの中に含まれる観光名所やグルメ、イベント情報などを元に、どのようなキーワードがトレンドとして人気になっているかという研究を中尾氏は行っている。中でも、観光に関しては、エリアマーケティングやまちづくり開発に活用できるデータ抽出を行っているという。具体例として、2022年のゴールデンウィーク時の東京の山手線沿線エリアに関するデータをもとにした渋谷、新宿、丸の内の3つのまちの特色比較や、全国各地にあるブランド茶とどのような単語が共起するかといった分析が示された。
3名のパネリストによる話題提供終了後は、代表理事の牧野とコーディネータの菊地も交えたディスカッションが行われた。まず話題となったのはスマートシティとメタ観光との接点である。鈴木氏は、岡崎市におけるスマートシティ化は、都市内の人口密度をモニタリングしながら持続可能で健全な都市再生を進めることにあるとし、そのためには人や車、建物の密度に加えて、メタ観光におけるメタタグのような観光コンテンツの密度も把握する必要があると指摘した。また、その際の観光コンテンツは、観光を仕掛ける側が提示するものではなく、観光客が自ら選択し個人に最適化されていることが重要だと主張した。下山氏は、すみだメタ観光祭の事例も引き合いに出しながら、まち中に存在する人々の感情といった定性データまでも含むメタ観光のメタタグデータについて触れた。必要な時に必要なデータを取り出せるようにするためには、通常時からデータとして蓄積されている情報量は多ければ多いほど良い。メタ観光におけるメタタグが他分野のデータと連携しやすいように設計された上で位置情報に結びついており、なおかつデータベースのような形でFindable(発見可能)な状態にあれば、スマートシティで期待されている災害対応なども含む様々な用途での活用や、多地域間・多分野間の連携に利用できるとの期待を述べた。中尾氏はメタ観光における、新しい観光資源を作るのではなく、既存のものを新たな文脈で観光に結びつけ楽しむという観光価値の考え方に感銘を受けたという。また、観光の提供側ではなく旅行者側が観光の楽しみ方を決めていくという姿勢は、自身が携わるツイッター解析において、少数だがとがった場所の楽しみ方をしているユーザーの存在を発見することにも通じるものがあると述べた。同様に、ツイッター解析からわかるまちの新しい楽しみ方の発見と、過去のメタ観光シンポジウムで提示された、アーティストなど多様な人々がメタタグのキュレーターとして自身の着目するまちの楽しみ方を提示するという考え方とをリンクさせ、新しいまちの楽しみ方を一緒に発見していきたいとも述べた。
ここまでのパネリスト3人の話に対して、代表理事の牧野からの応答も行われた。鈴木氏の話に対しては、岡崎市でもメタ観光マップを作ることで、まちの魅力を可視化して観光客に選んでもらう体験が提供できるだろうことが示された。下山氏の話題に対しては、メタ観光においては、可視化の手段として分かりやすく地図を作成しているだけであり、本質は全てのデータが緯度経度情報を持ったデータベース作成にあるという点を指摘した。そして、すみだメタ観光祭の事例では、これまでデータベースにまとめられていない領域のデータ化や、それらデータを集めたデータベースの作成を行いたいという意図があったと述べた。中尾氏のツイッターでのビッグデータ解析に関しては、すみだメタ観光祭において可視化されていないまちの魅力を見つけることが困難であった経験を持ち出し、ツイッターのようなリアルタイム性があるネット上のデータは新たなまちの魅力に繋がる事象の発見に最適であることを指摘した。その上で、通常の観光で捉えている以上に多くのまちの魅力が存在することを、データによって証明したのがすみだメタ観光祭であるとして、中尾氏の活動とメタ観光との共通点を見出した。
ディスカッションの中では、欧州のスマートシティでは人間中心というコンセプトに基づいた議論や実装が行われているが、日本では技術中心にスマートシティが考えられている部分があることが下山氏から指摘された。その上で、メタ観光の考え方や岡崎市の事例は人間中心に考えられており、こうした事例を踏まえながら、日本におけるスマートシティを失敗させないための今後の方策が考えられるべきだという主張がなされた。この話題に関連して、個々人から発信されたデータが集まることで、本来想定していた以外の使い方も出来るようになることが議論された。それは、下山氏がスマートシティとメタ観光との接点の中で述べた、個々人の感情をも含むメタ観光のデータが、防災などの観光以外の領域でも活用できるだろうとした話題に通じるものである。鈴木氏や牧野もそうした点に賛同し、まちづくりにおけるメタ観光データの活用可能性を大いに見出していた。中尾氏も、現在は一人一人のツイートが社会全体に影響する時代であるとした上で、ツイッターでのビッグデータ解析は、「今知りたい情報」をキャッチアップするにはすごく有効であり、それは観光トレンドだけでなく災害時などでも有用であると述べた。
話題は、鈴木氏から出された「全体最適」と「個別最適」という2つの概念をもとに、個別最適状態からスマートシティが目指すべき全体最適の状態にいかに持っていくか、その際の合意形成はどのように行うべきかにも及んだ。下山氏は、全体最適と個別最適は相互に排他的なものではないとし、個別最適が尊重された上で、各個がうまくファシリテーションが行われた状態で全体最適が迎えられるのではないかという投げかけを行った。その上で、中尾氏の発表中にあった渋谷、新宿、丸の内の3つのまちについてのポジティブなツイートとネガティブなツイートの割合に注目し、いずれのまちにもポジティブとネガティブ両方の側面を見出す人がいることを指摘した。そして、合意形成を行うためには全員がフラットに意見を言いやすい場が必要であり、そこではネガティブな意見も言えることが重要だとした。その意味において、ツイッターというプラットフォームはネガティブな意見を言いやすく、行政はそうしたSNS上のデータ分析に力を入れるべきだとも主張した。牧野はすみだメタ観光祭で実施したワークショップや観光会議イベントを取り上げ、そうした場に住民に参加してもらうことで、自分たちが認識していなかった自らの地域の観光的魅力を知ってもらい、それが住民のシビックプライドに繋がれば観光客を受け入れる土壌が地域に誕生するという合意形成のあり方に期待を寄せた。
ディスカッションの最後では、それまでの議論を受けて、牧野から改めてメタ観光とスマートシティとの関連性が述べられた。今日においては、人々は自身が好きなものや選考した情報にしか触れなくなるという危険性がある。そうした中でメタ観光は、なにが観光であるかを定義することなく、観光に関連付けられそうな大量のデータを全部レイヤーとして提示してしまうような取り組みであり、それを通じて自身が選考していなかった他者が価値を認めるレイヤーの存在にも気付けるという利点がある。そのためには、まずデータが存在することが大事であり、その点をまちの様々な魅力の掘り起こしから実現すること。そうした取り組みを、スマートシティの枠組みの中でも行っていきたいと牧野は述べた。