音楽で生きてはいかないけどさ、
いつだってふと机を弾く指は、一度でもピアニストを志したプライドで。最高にかっこいい音をこの手で奏でるのがやっぱり好きで。音楽じゃ生きられないけど、僕には音楽しかない。
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幼い頃、将来の夢に「ピアニスト」と書いていた。ただ、本気でなれるとは結構早い段階で思っていなかった気がする。同じ教室の子たちがめちゃくちゃ上手かったのだ。
それでも、合唱コンの練習では一目散にグランドピアノに駆け寄ったし、大学で暇な時間ができれば、お気に入りのピアノがある器楽練習室を借りた。ドレスを着てライトを浴びて、かっこいい曲を弾いて、拍手をもらうのが大好きだったし、今でもそうだ。
なんだかんだで、鍵盤の前はずっと私の居場所だった。
その意識がふいに机を、膝を、空を弾く。
辞めた筈のピアノ、机を弾く癖が抜けない
ねぇ、将来何してるだろうね
音楽はしてないといいね
困らないでよ
ヨルシカ 『だから僕は音楽を辞めた』。
その歌詞にどきりとさせられるのは、私のその「癖」が、空虚なプライドによるものだからに他ならない。
そう分かってもなお、聴きながら指が動く。
曲中で自由に駆け回り続けるピアノの音が、やたらとかっこいいのだ。
同音連打が続くAメロの裏でも、最後のサビに入る前に「間違ってないよな」を問い続ける裏でも、ピアノは一箇所に留まれない。
そして、2回目のサビの後の間奏で今まで「裏」であったリミッターが外れる。オクターブをまたげない人の声に代わって、2オクターブ上まで駆け上がる。
それは、「音楽を辞める」人の音とすれば、最後の足掻きのようで、どうにも意思が強くて、どきどきしてしまう。
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わたしは、音楽とは何も関係ない仕事をしている。
音楽じゃ生きられなかったけどさ、またきっと舞台には立ちたいし、今日も鍵盤を弾くように、パソコンのキーボードを叩いている。
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