【第20話】〜何を思いながら空を見上げていたんだろう〜
お互いの名前を教えあったところで、「マリン」という声に振り返ると、あみが走ってやってきた。
久しぶりに話すし、ほんとだったらなんて言おうとか気まずさもある状況なのだけど、この緊急事態でむしろ二人の状況はさておき、あみも自然に合流した。三人で校長室を背に歩き出す。
「本村先生を探す」マリンがいうと、「どうやって?」と二人。
そうか、と本村のことを何も知らないことに気づく。
トボトボとグランドを歩きながら、マリンはふと空を見上げた。
やっぱり空は灰色で、今にも落ちてきそうなほど重そうに曇っている。
マリンは、高島の教室のベランダを見た。いつもそこに本村がいた場所だ。
本村は何を思いながら、空を見ていたのだろう。そんなことを考えながらグランドを抜けて校門を出ようとすると、男に呼び止められた。
「先生のことだけど」と彼は言った。
それが本村のことだと、なんとなく三人とも感じて、警戒する。
「先生ってなんのことですか? 私たち急いでるので」
すると男はマリンたちの表情に何かを感じたのか、待って、と近づいてきた。こざっぱりとした服装に短髪。何の仕事をしているのか、スーツは着ていないものの落ち着いていて、ある程度しっかりした立場のように思えた。なんていうか、ちょっと、お金持ちっぽいというか。
それに……三人はキョロキョロと辺りを見回したが、隠れて撮影されたり、そんな様子はないようだった。
「もしあいつを探してるなら」とその男はメモを渡してくれた。
スマホじゃなく一枚のメモを渡すだけ、そこに書かれたきっちりとした筆跡の文字に、なんとなく信頼できる気がする。
「ここにいるかもしれない」という言葉を信じて、受け取ると三人は走り出した。
少し走ったところでマリンが「あれ、今の人ってどこかで……」と後ろを振り返った時には、もうその姿はなかった。