【第11話】 新しい場所なら、きっと見たことない自分に会える
ステージに上がって思い切り叫んでいる人たちがなんだか楽しそう、と思ったのは事実だ。だってなんだかみんな達成感に満ちた顔をしているのだ。
だけど、じゃあ自分が同じようにやってみるかと言われると、話は別だ。そんなことできない。隣にいるアキを見ると、彼はまたしても両手をクロスさせ×を作っていた。ほら、やっぱり彼だって同じだ。
なのにキラーAは、「そう? 二人とも上がりたそうだけどな」と言うのでマリンは思わず、「なんで? どこがですか?」と語気を強めてしまった。アキも目をまん丸に見開いて×のNOサインを出している。
それを見て、ククッと楽しそうにキラーAが笑った。
「本当によく似てるね」
なんだかからかわれている気がして、マリンはまたちょっと悔しくなった。この人には、どこか最初から見透かされているような気がする。
「ここに来る人は、みんなどこかへ行きたいって思ってるんだ」とキラーAが言った。
「どこかへ行きたいって、なんで思うのか。どうして今の場所じゃダメなのか。新しい場所に行けば、きっと見たことない自分に会えるって思ってるからじゃないかな」
マリンがキラーAの顔を見ると、さっきまでと違って真剣な表情をしていて驚く。彼の言葉は、マリンが答えを探していた何かに灯りを照らしたような気がした。
「そうかもしれない」先にそう呟いたのはアキだった。
マイクの音がキーン!と響く。ステージが騒然としていた。