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【第27話】-今日のことを、忘れない-

歌舞伎のお面をつけた男がマイクに向かった瞬間、ああ、本村だ。
とマリンはすぐにわかった。
その声はアキの時と同じようにどこか安心感があったけれど、あの時よりさらに頼もしく、力強かった。

ラップを披露した後、間奏になると盛り上がる客の前でそのお面をスッと外す。「え、本村先生だよ!?」「なに、なに!? 今のラップ本村先生?」
生徒たちが騒ぎ出した。

再び一緒にステージにあがったマリンは、本村の思いを受けとっていた。
「学校を辞めた先生だけど、このステージに立ってくれているのは教師だからだ。先生にとってラップはきっと、教師だからこそやる意味のあることなのかもしれない」あの時と同じだった。

去年の、SCREAM!!でステージに上がった時と同じ、体の底から気持ちが湧き上がってきて、吐き出さずにはいられないような、そんな心のきらめき。
でも今回はリアルな世界だ。現実に、毎日通う高校の文化祭のステージ。
それはまったく違うものだった。
想像していたよりも何倍も、すべてが熱い。

みんな盛り上がってくれている。マリンが歌うことなんて、本村とあみしか知らない。本村と一緒に、あみの作った曲を歌う。
高島でさえマリンの歌を聴くのは初めてだった。
あみと二人、ステージの脇で見ていた高島は、「え、やばいこんな歌……」と何度も繰り返した。
あみは誇らしかった。
あみは逆に本村のステージを見るのは初めてだった。マリンや高島がこの場に呼んだ理由がわかった。
二人は頷きあい、生徒たちの歓声に胸を張った。

「めっちゃいい曲」
誰が作ったかわからない曲に素直にそう反応している生徒たちをみて、あみは喜びが込み上げてくる。

「今日のことを、ずっと忘れない」
一つの曲が終わり、まだ荒い息遣いのマリンが言った。
あみも高島も同じことを思っていた。
本村にとっては、何より嬉しい一言だった。
最後の曲のイントロが流れたとき、本村はグランドの端で見守る男の存在に気づいた。

「あれって……」そう思った瞬間マリンがマイクから離れそっと言う。
「あの人、この間先生の居場所を教えてくれた人です」
ドクンっと本村の心臓が高鳴った。
なぜならその男は、高校時代の友人によく似ていたから。