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【第5話】-鼻歌の声がずっと残っていた-

突然肩を叩かれてマリンが振り返ると、同じ高校の制服を着ているものの、全く知らない女子の顔があった。
切れ長でスッキリしているけれど、意思の強そうな瞳が目をひく。「?」イヤホンをとったまま、不思議そうな表情のマリンに、彼女は言った。

「私が作った曲、歌ってくれない?」

声をかけてきたのは永瀬あみという同じ学年の生徒だった。
初対面だと思っていたけれど、あみは何度もマリンを見かけていたらしい。

「何度か鼻歌うたってる声が聞こえて」
「鼻歌って、私が……?」

駅で電車を待っているとき、マリンは無意識のうちにイヤホンで聴いている音楽に合わせて鼻歌をうたっていたようだ。
外では歌わないように気をつけていたつもりだったのに。
「その歌声がずっと残ってたんだ」とあみに言われると、ちょっと照れくさくなって今度はマリンがきいた。

「私の曲って、自分で作ってるの?」

あみは幼稚園の頃からピアノを習っていたが、中学になって与えられた曲を弾いているだけのレッスンに飽き、次第に好きな曲を耳コピして弾くようになった。
そのうち、自分で曲を作る方が楽しくなったのだけど、歌は苦手で、誰か他に歌ってくれる人がいればと、ずっと探していたのだと話してくれた。
「私は、逆だったな」
マリンは言った。