【第13話】〜気づかないうちにいろんな種を蒔き、水をやりながら進んでいる〜
ライブハウスのフロアは、客や関係者でごった返している。
控え室でお面をとり、衣装を着替え出てきた本村が、ドリンクのカウンターで水をもらっていると、「そこは水なんだ」と笑いながら高島が声をかけた。
「先生、すごかったよ」
本村はそう言う高島の表情から、本当に心の底からそう思ってくれているのだとわかって、嬉しくなる。
「きっと高校時代の先生も満足してると思うよ」という高島は、自分もやりたいことに真剣に挑戦してみようと思ったと続けた。
「やりたいことって?」と聞くと、
高島は「マンガ」と短く言った。
漫画家になりたいってことなのだろうか、などと想像しながらそうか、と本村も短く返す。
「そうかってそれだけ? もうちょっとなんかないわけ、頑張れとか、そんな夢みたいなこと、とか」
笑いながら高島が言った。
そんなのないよ、本気でやりたいことならもちろん応援する。と言いながら、本村は初めて高島の心の芯を聞けた気がして嬉しくなる。
自分は今の高島くらいの頃、まだはっきりとした道を見つけていたわけではなかったし、そんな生徒たちがほとんどじゃないかと思う。
でもみんなきっと、気づかないうちにいろんな種を蒔いているんじゃないだろうか。それぞれそこに水をやりながら進んでいく。
ある時、その中のどれかに光が差して、蕾が出ている。
それに気付けるかどうかなのかもしれない。
「高校時代の先生も満足してると思うよ」
家に帰って高島に言われた言葉を噛みしめる。
そうだろうか? 「高校時代の自分か……」
あの頃を思い出すと、必ず一人の友人が思い浮かぶ。
かつての友人モリヤは、今どうしているだろうか。