【第10話】〜伝えたいものがだれかに届くこと 〜
初めてアップした動画にコメントがついた瞬間、マリンは思わず声を上げてしまった。
タブレットの前で一緒に見ていたあみも嬉しそうに微笑む。
〈めちゃいい声! それに楽しそうに歌っているのが伝わってくる!〉
顔は写してなかったのに、聴いてくれた人がそう感じてくれたのが嬉しかった。
「やっぱり、マリンに声をかけてよかった」
あみがそう言ってくれて、「あみの曲のおかげだよ! 私、こんな達成感初めて!」
マリンが興奮気味にそういうと、あみも頷いた。
これまでマリンは周りほどSNS を使っていなかった。
なんとなくみんな、最初は楽しく始めたはずがそのうちそこから友達関係などが崩れたり、教室で顔を合わせているのに、実はスマホの中では全然違うやりとりがされていたりして、そういうのを知るとなんだか怖かったから。
だけど今初めて、SNS にハマる気持ちがわかった気がした。
何かに反応をもらえるのって嬉しい。
多分ライブとか、人前で歌えたりしたら直接それを感じることができるのだろうけど、今はそれも難しいし、ネットを通じてとはいえ、伝えたいものが人に届くのって想像してた以上の充実感がある。
ていうか、リアルな世界では絶対に聴いてもらえないような遠くの人まで、届けることもできるんだ。
「もっと、曲あげよう!」「もうすぐ文化祭があるよね、そこで――」
盛り上がったマリンがそう言いかけて、二人は顔を見合わせた。
「あ、それはまだ早いか……」「だね……ライブはもうちょっと先かな」
でも、あみと一緒に歌を作っていると、どんどん世界が広がっていく気がする。
あみは、マリンが歌いやすいようにキーを変えてくれたりアレンジを加えてくれたり、まだ一緒に始めたばかりなのに、マリンの声や歌い方を理解してくれていた。
この先もずっと、あみと音楽をやっていけたら――。
マリンは、好きなことを誰かと一緒にできることの嬉しさを噛み締めていた。
だから、そんな時に突然受信したあみからのメッセージを、すぐに受け止めることができなかった。
「ごめん、もう一緒にできない」