【第14話】〜近づく雷鳴〜
校長室にやってきた高島は、仰々しく額縁の中に飾られた校訓をぼんやりと見ていた。
『強い心、自律、友愛』
「なんで呼ばれたかわかりますか?」
ぼんやりと口の中で校訓を読み上げていた高島に、校長がそう話しかけた。
特に真面目な生徒というわけでもないが、これまで目立たない地味な生徒であったことは自覚している。というより、入学がコロナの最初の緊急事態時と重なった自分たちの学年は、正直目立つ生徒、というのもそんなにいないような気がする。
だとすると、わざわざこんなところに呼び出されたということは……。
「ライブハウスに行ったというのは本当ですか?」
やっぱりそうか。本村の、どこか過去の人間が現代の日本を憂いているような姿やラップは、本村の意図に反して、SNS などで話題になっていた。
「歌舞伎とラップって合うんだけど!」
「すごい迫力! また見たい!」と。
高島は嘘をつくほど悪いこととも思えず
「はい、本当です」素直に答えた。
「深夜に? 未成年が?」校長の語気が強まる。
深夜……いや、そんな時間ではなかったはずだ。
嘘をつく気はないけれど、事実は伝えておきたい。
訂正しようと口を開きかけると、校長はさらに、なぜそんなところに行ったのかと問いただした。
なぜと言われれば、それは100%本村のステージが見たかったからなのだが、それは言えない。
高島が「校長先生、でも時間は深夜ではありません」そう言ったところで、廊下をせわしなく走る足音がして、焦ったようなノックの音が響いた。
「本村です」
なんで先生が来たんだ? 先生も呼ばれたのか?
でも先生の顔は隠れていたはず……。
ていうかそもそもなんでバレたんだ? 誰か同じ学校のやつでもいたってこと……などとグルグルと高島が考えていると、入ってきた本村はいきなり
「僕の責任です。僕がライブハウスに出演していました」と校長に言い放った。