【第9話】〜怒りのような、焚きつけているような〜
『昼は地味な英語教師。だが、夜になると立場を隠して街をパトロール。
秩序を荒らす者には時には制裁を。と、人知れず街の平穏を守っている男――』
高島は、そんな漫画を描いてはネットに投稿していた。
昔から絵を描くのが好きで、勉強しようと机に向かっても集中できない時に、自分の分身のようなキャラクターをノートの隅に描いていた。
すると、不思議とやる気が出たのだ。
そのうち、キャラクターを描くだけではなくストーリーも考えるようになった。どんどんのめり込むようになり、今では机に向かうというと漫画を描いている時間の方が長い。
ネットで投稿すると、いい反応をくれる人もいて、それは正直勉強していても得られない喜びだった。今描いている主人公にはモデルがいないわけではない。というより後から似ていると気づいたのだが、本人に知られたら怒るかも知れない、そう思って本村には言えてなかった。
ある夜、いつものように高島がタブレットに漫画を描いていると、メッセージを受信した。いつも漫画にリアクションをくれる相手だったが、今日は漫画の感想ではなく、QR コードのようなものが添付されていて“SCREAM!!”と書かれていた。
メッセージのタイトルを読んで首を傾げる。「招待パス?」
送り主は、実際に会ったことはなく本名も知らなかったが、いつも漫画を読んでコメントや、直接感想をメールしてくれたりする相手だったこともあり、高島は恐る恐る、パスを使って“SCREAM!!”の扉を開いた。
入り口では年齢などを登録するのだが、外見も選べるようになっている。
高島はアバターを作るのに漫画でキャラクターを描く時みたいな気分になって、夢中で『ここでの自分の姿』を作っていると、突然中から大歓声が聞こえてきた。急いで中に入る。
それは初めて見る光景だった。誰かのライブというわけではないのか、客席から順番にステージに上がってマイクに向かって叫んだりしている。
「なんだこれ……?」
でも、DJ らしき人が流している音楽に不思議とそのマイクの声たちは合っている。その時だった。歓声がグワッと大きくなってステージには一際目を引く姿があった。
それは歌舞伎の隈取のお面をかぶった男で、マイクを持つと、ラップを始めた。観客の誰もが彼のマイクから流れてくる言葉に惹きつけられた。
それは今の若者への激励のようでもあり、自分たち大人へのメッセージのようでもあり。お面の下の素顔はわからないものの、妙にその青と赤で描かれた表情にマッチしているのが不思議だった。
怒っているような、何か焚き付けてくるような……。
「あれって……」
高島がステージから降りた男に声をかけようとすると、男は去っていってしまった。