【第3話】-何がリアルかわからなくなってる気がする-
「先生の後ろ姿、なんかぜんぜん教師っぽくないね」
高島は教室を抜けて、ベランダにやってきた。そこからグランドを通って帰っていく生徒たちを見ていた本村の隣にくると、そう言ってニヤリとする。
「じゃあ何に見える?」と聞く本村には答えず
「またラップやればいいのに」とニヤリとして言った。
「そんな簡単にいけばいいんだけどさ」
ベランダの柵にもたれ空を仰ぎながら本村が言うと、今度はぷっと吹き出した。
「笑ったな」
「すいません。なんか前にもこんなことあったなって」
「え?」と聞く本村に、「あのときは逆だったけど」と高島が言う。
そういえば、と本村は思い出した。2年の秋頃だったか、同じように高島と二人、ここで話したことがあった。
「やりたいことをやるって、ほんと簡単じゃないですよね。最初からみんなに受け入れてもらえるわけないし」と言う高島を、本村はベランダの柵にもたれたまま見た。
あれから数ヶ月しか経っていないのに、高島の表情はすっかり変わった気がする。今はこっちの方がすねた子供のようだ。
「だからもっと、本当に先生のやりたいことをやってよ」そう言って、グランドに向き直る。
それに、と前置きして「俺たちはある意味、リアルに慣れてないっていうか、何がリアルだかわからなくなってる気がする」と言うと、
高島は、本村を残してまた教室を通り出ていった。
また一人になった本村は、そのまま空を見ていた。雲に覆われていてもこの時期の力強い太陽は、雲を突き抜けて光を漏らしていた。