【第10話】 ステージで叫んだ人たちは、みんな晴れ晴れとした表情だった
しばらくたって、制服の男子が作ったバツの意味がわかってきた。どうやら今日のイベントは、バンドが出てきてライブをするのではないらしい。
DJが流す音楽をバックに、集まった人たちが次々にステージに上がっていく。そして順番にマイクを持つと、好きなことを叫んでいた。これはお客さんもステージに上がる人も境のないイベントなんだ。
中には、マイクを持たずにただ絶叫しているだけの人もいる。それもありのようだ。
マリンは、その様子をしばらく呆然と見つめていた。ステージで叫んだ人たちは、みんなすっきり、晴れ晴れとした表情で降りていく。それが不思議だった。
大きな音で音楽が流れていて、なんて言っているのかはっきりとわからなくても、そんなことは関係ないようだ。一度降りて列に並び、またステージに上がる人もいる。
唯一、ずっとステージの上にいたDJが、休憩とばかりに音楽をかけたままステージを降りると、マリンたちの方へとやってきた。
「どう? 仲良くなった?」DJというのはキラーAなのだった。
「はい」とも「全然」とも言えず困ったマリンと男子は同じタイミングで顔を見合わせる。その様子を見てキラーAはプッと吹き出した。
お互いを紹介してくれ、その男子はアキと言う名前だと知る。
「なんか二人、似てるね。気が合うんじゃない?」と男に言われて、一言も話してないのに? と思ったけれど、そういえば一言も話さなくても隣にいて違和感がなかった。
「どう? 二人もステージ上がってきたら」キラーAがそう言うと、
「いえ、ムリです!」マリンは、今度は心から即答した。