【第4話】-歌が上手い人って、こんなにいっぱいいるんだな-
「あ、本村先生またベランダに出てる」
学校から帰ろうとグランドを通っていたマリンがふと空を見上げると、校舎のベランダに出ている本村が見えた。
そこからマリンと同じように空を見ている。
最近本村が教室のベランダにいるのを時々見かける。
その表情があのとき、SCREAM!!でのステージの後とは違っているようでちょっと気になっていた。
あの時、歌うことを見つけたとき、先生も同じように何かを見つけたような感じがしていたけれど、今は何だか、また雲がかかってしまったのな……。
本村の様子を見ていて何となく思う。
でも、見つけたからといってすぐにやれるのとは違うと言うことは、マリンも感じていた。
やりたいこと=歌うことを形にしたいと思ってはいる。
だけど、具体的にどうしたらいいのか考えてみると、なかなか気軽に人前で歌うこともできない今はいろいろ難しい。
何かのカバー曲を撮ってアップしてみようか。
そう思って動画を見てみると、すでにあまりにもたくさんの人がやってて、別に真似でもいいのだけど、何となく躊躇してしまう。
「歌が上手い人って、こんなにいっぱいいるんだな」
あらためて思う。誰かに聞いてもらおうと動画や録音をアップしている人がこんなにいると言うことは、思っていてもしていない人を含めたら、どれだけの歌声があるんだろう。
別に歌を歌うだけなら、いくらだってできる。でもそれだけじゃ足りない。
やっぱり誰かに伝えたい、聴いてほしい――。
そんなことを思いながら、学校帰りの駅で電車を待っていると、音楽を聴いていたマリンの肩をトンと叩かれた。
イヤホンを取りながら向き直る。同じ制服を着た女子生徒だった。
「?」
彼女はマリンに言った。
「私が作った曲、歌ってくれない?」と。