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伊地知虹夏とは付き合えない

にじかちゃんは誰とでも友達一歩手前までは仲良くしてくれる。しかし、友達一歩手前から友達までのハードルが高い。
勇気を出してご飯を誘ってみても、僕の緊張を感じ取って、なんとなく気まずくなりそうだなって気配を嗅ぎ取ると、さりげなく今後も2人は困るというメッセージ付きで断られてしまう。

「あ〜、今日はちょっと予定あるんだよね〜、またみんなで遊ぼ〜」

にじかちゃんは誰にでも優しい。でも、ちゃんと距離の取り方を分かっているから、簡単には流されない。
僕の押しが弱いだけかも知れないが、無理に押してもやはり上手くかわされてしまうことは目に見えているし、器用なことは出来ないからどうしようもない。

ただ逆に、スマートで女慣れしたイケメンにはその一歩を許してしまった後の危うさを感じる。
[これが、BSS(僕の方が先に好きだったのに)の対象として解像度が高い原因だろう。]

口が上手く、経験が豊富な男に迫られると、そのスルースキルを発揮することが出来ず流されてしまうのだ。一度流されてしまうと、持ち前の性格の良さとコミュ力の高さで、自然に相手のことを理解しようと思考して行動するため、どんどん親睦が深まり、実は脆い部分があるというイケメンのギャップに落ちてしまうのだ。

にじかちゃんは決して面食いではないし、オタク君を内心下に見ているようなこともない本当の天使だ。だから、僕にふとした時に見せてくれる笑顔は屈託のないものだ。人間不信な僕にさえもそれが伝わってくるから僕は彼女に恋をしていた。

十数年後のある日、イオンモールでベビーカーを押すにじかちゃんを見かけた。彼女は僕の存在に気づくと、

「わ〜、久しぶりだね〜!」

あの笑顔を見せてくれた。彼女は僕のことを覚えていてくれていた。でもきっと、僕の誘いを断った気まずさは覚えていない。


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