「原油安で産油国通貨は下落する」という都市伝説
(2020/04/25執筆)
折からの原油急落が話題となっていますね。
これから産油国通貨は大丈夫なのでしょうか?
産油国通貨とは、ブラジルレアル、メキシコペソ、ロシアルーブルなど、原油生産への依存度が高い国の通貨のことです。
§ 原油価格と産油国通貨、年初来チャート
年初来のチャートを見ると、原油先物価格は70%下落しています。
産油国通貨の対ドルレートは、高いものから順に、
米ドル
カナダドル
ロシアルーブル
メキシコペソ
ブラジルレアル
となっています(米ドルはドル指数を使用)。
おおむね原油生産への依存度が高いほど、その国の通貨は下落している印象です。
たしかにアメリカや中国も産油国ですが、中国は原油輸入国なので、原油価格が低下した方が有利です。
中国は管理相場制なので、通貨はあまり関係ないですが…。
アメリカはどうでしょうか。主要産油国であるサウジアラビア、ロシアと比較してみました。
・アメリカの原油事情:
長らく原油輸入国であったが、シェールガス革命を経て、2019年以降、輸出国に転じる。
アメリカの原油生産に占めるシェールガスの割合は60%以上(2017年時点)。
米シェールガス企業の採算ラインは企業によって異なるが、1バレル40~50ドル程度。
・サウジアラビアの原油事情:
原油輸出国。国家財政を原油輸出に依存しており、国家歳入の約7割を原油収入が占める。いいかえれば、国家歳入は原油価格に大きく左右される。
原油価格(WTI)80ドル程度を前提として、国家予算を組んでいる。
財政均衡を維持するために必要な原油価格は1バレル80ドル。
・ロシアの原油事情:
原油輸出国。原油価格(WTI)40ドル程度を前提として、国家予算を組んでいる。
財政均衡を維持するために必要な原油価格は1バレル55ドル程度。
さて、原油価格低迷はアメリカの国益に反するとはいえ、あくまでアメリカは建前上、市場原理を重視する国である点に注意が必要でしょうか。
すなわち、ロシア、サウジに対する外交努力を通じて原油減産を目指すより、経済活動を再開することで需要増加を目指した方が、原油価格上昇への効力が大きく、国是に叶うといえます。アメリカが経済活動の再開を急ぐ背景には、原油価格を押し上げたいという思惑も絡んでいそうですね。
§ 原油価格と産油国通貨、過去のチャート
過去のチャートと比べてみると、今回の原油暴落はどうも不自然に見えます。
こちらのチャートは、2014~15年の原油急落時です。
ロシアルーブル、ブラジルレアルが、原油に連動して値下がりしています。
こちらは2008年リーマンショック時。ドル以外の産油国通貨は、やはり原油価格にしっかり連動しています。
こちらが2020年現在のチャートです。上の2つと同じく、2年間で表示しています。
過去のチャートと比べると、原油価格と産油国通貨が乖離しすぎています。
この状態が何ヶ月も続くとは考えづらい。
そうすると、原油価格が上昇するか、産油国通貨が下落するか、いずれかです。
もし原油価格が今後しばらく低迷を続けるのであれば、米ドル以外の産油国通貨は下落するのではないか?
もちろん、当時とはロシアやブラジルの財政状況が違うとか、別の見方もあるでしょうけど…。
私の考えは単純すぎるかな~?
この記事終わり。
§ 参考資料
●世界の原油生産量
出典:キッズ外務省
●サウジアラビア出典:日本経済研究センター、経済百葉箱、第129号、2019年
●ロシア出典:経済産業省、通商白書2019年版、ロシア
●その他
・独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構「石油市場の現状と背景、注目点」
・日経新聞(2020/4/22付)「産油国通貨が最安値圏 原油安でCDSも上昇 政府系ファンドの売りに警戒も」
・ペギオの投資ブログ
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