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Klagen Fisherman氏の曲で打線組んでみた

今回はフィールドレコーディングの技法を駆使しつつ、特異な音風景を創り出す現代ピアノ奏者・Klagen Fisherman氏の楽曲で打線組んでみました。

1番(遊)permanent vacation
駅ピアノと構内「ぴーんぽーん」音の即興的掛け合い。
通行人の足音、咳払い、構内アナウンス……街頭録音において忌避されがちな要素を採り入れ、静謐なノイズ音楽として成立させている。傑作。


2番(中)evacuation
ピアノ+ストリングス+ノイズ。「ぴーんぽーん」をはじめとするノイズ音が繊細な手際で配置されている。「permanent vacation」の室内版か。


3番(三)boulevard
ピアノ+「ぴーんぽーん」。前景化されたピアノの質感が好み。列車音を合図のようにして、無造作に終わる感じも良い。「ぴーんぽーん」楽曲で上位打線を固めたいので3番を任せる。


4番(右)"A song of clouds or a war", 「くものうた」
ピアノ、ストリングス、ノイズ環境音など。6分超の力作。
久石譲的なエモーショナルなフレーズを反復しつつ、立体感のある音像が丁寧に作り込まれている。胸を掻きむしられているはずなのに、妙な心地よさがある。


5番(一)"like or dislike", 「すき、とか、きらい、とか。」
ピアノ、環境音(生活音、子供の声)、DAWシンセ、リズム。
まったく意味が分からない。実験的なのに佇まいが上品である。なにか新しいものが生まれているような気もする。
氏の作品には珍しく、リズムが明確なのでダンサンブルである。この曲には一塁ベース上で踊ってもらいたいので、5番ファーストでの起用となった。


6番(捕)an entrance ceremony
環境音+不規則なリズム。木または石をトンカチで叩いたような乾いた響きと、打ち込みによる電子的なリズムが並走する。ピアノを基調としつつ、生活音などの音素材をDAWで味付けしたものか。

環境音をPCに取り込み、エフェクトをかけすぎると電子音楽みたいな不自然な音色になるが、この歪んだ音色に発振器由来のシンセ風の音を重ねると「アコースティックから電子音楽」という横軸が見えてくる。ここに「日記系から作り込み系」という縦軸を組み合わせるとき、驚くべきことに本曲は原点付近に位置すると思われる。私は何を言っているのだろうか。


7番(左)typography
ピアノ独奏の音色が柔らかくて歯切れ良い。
ミニマルなフレーズに細切れの伴奏がずれたり、ユニゾンしたり、せわしなく動く様子がチャーミングである。
ジョン・ケージなら「米大統領の演説原稿をタイプライターの代わりにピアノ鍵盤で演奏してみた」とかやりそうだなあ。


8番(二)YURIKAMOME 0112
ピアノ+ゆりかもめ環境音。私事だが、氏を知った日、私は偶然テレコムセンターにいた。この曲もまた同駅にちなんでいる。


9番(投)最後が最初
子供はお気に入りのフレーズを何度も口にするが、ときに親を辟易させるそのしつこさがミニマルミュージック的な反復として提示される画期的な楽曲。「前衛芸術×家族愛」という斬新な掛け合わせに挑んでいる意欲作。
本作から「保育所で前衛音楽は流せる」という驚きを受け取る者もいるのではないか。

大変申し訳ないが、代わりの投手などいないので、この曲には試合の最初から最後まで先発完投してもらいたい。大丈夫。この曲は100年経っても、へっちゃらだ!

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