アイアンメイデン「戦術論~Stratego」エディの禁じ手!?
ついにアイアンメイデンの新譜「Senjutsu 戦術」が発売となった。
敢えて日本語とされた「戦術」の名前の由来、アルバムコンセプト、そしてこの上なく豪華なファンクラブ限定の「FC Limited Box」の素晴らしさ。ファン冥利に尽きる日々を過ごしている。
「戦術」収録の曲、Strategoは、戦時中の軍人将棋の発展形と言われるボードゲームに由来する。先日公開されたStrategoの公式映像を見た海外のファンからも、将棋の話題が出るようになった。
筆者はこどもの頃、祖父から手ほどきを受け、駒のうごきを知っている程度だが、今一度ルールをさらいつつ、Strategoの映像をじっくりと見返してみた。
将棋ルールのおさらい
海外のファンには、チェスとの比較で説明するとわかりやすいようだ。
将棋のルールは周知の方も多いとは思うが、ここはお付き合い願いたい。
駒の種類は将棋が8つ、チェスが6つ。
インドのボードゲーム、”チャトランガ”が共通のルーツだが、
将棋にはチェスにないユニークな特徴が、二つある。
一つは、とった駒を自分の戦力に出来ること
二つ目は、敵陣に入った後は「成駒」として”パワーアップ”、
駒本来の動きに加え、活動域が広がること、だ。
駒を取ったら再利用できる
映像は「死」の旗印を掲げた黒陣、「命」の旗印を掲げた白陣、生死の闘いを示唆しつつ始まる。
黒陣の飛車が白陣に攻め入るものの、白陣の敵将に切られ絶命。
その後サムライに生まれ変わり、今度は白陣側の飛車として黒陣に攻め込んでいく。将棋では取られた駒は取った方が自陣の戦力として再利用可能な一方、チェスは敵に取られたらおしまい。それ以上盤に乗ることはない。
このチェストのルールの違いを知らないと、映像の意図は解りにくそうだ。
冒頭に歌詞の一説を引いて、このルールを示唆しているのだが。
For I have not a mortal soul
Death is my future to be reborn
敵陣に入るとパワーアップする
さらにストーリーを見ていこう。
再利用され白陣側の飛車として黒陣に攻め込むと、飛車は龍王に「成る」。ビデオでは飛車は敵陣、エディの陣地に入った後、龍として空を飛ぶ描き方がされており、RPGでのパワーアップにも通ずる、将棋の特徴が反映されている。
気になる点は二つ
このビデオで、気になる点は二つある。
一つは、飛車が龍王に変幻し攻め込んできた時、黒陣の王将エディが回想するシーン。飛車がかつての黒陣の戦力だったことを思い起こし、エディが裏切りものとして怒る点だ。憎しみを込めた敵将渾身の一撃に、龍王は絶命してしまう。
奪った駒を自陣の戦力に出来る、このチェスにはない特徴はどうやら裏切りに見えるらしい。
そして、二つ目。
ラストシーン、盤上の対局。白陣「命」側の王将に、黒陣のエディが黒の龍王で王手をかけるシーン。この龍王は、先ほど取った元飛車の龍王。
黒陣飛車⇒ 取られて白陣飛車⇒ 黒陣で打ち取られる、という紆余曲折を経て、今は黒陣の飛車になっている。
将棋のルールでは取った駒を打つときは「成駒」から始めず、「生駒」から始めるきまりだ。
エディは「龍王」でなく「飛車」で王手を取りに行く、それが正しい一手なのである。
フィクションに対し、細かい指摘は野暮というものだろう。しかしカバーアートやFC Box他が完璧な考証であるだけに、この「禁じ手」は残念に思うばかりだ。
「”持駒”を打つときは必ず”生駒”」
祖父の手ほどきが、何十年を経てメイデンの新譜レビューに繋がる。6歳の手習い事始めの時は、夢にも思わなかったのだが。
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