The 100 Best Albums of the 2022 パート4
49 Black Magnet - Hermetix[Body Prophecy]
2022年は凡そメタルアルバムに似つかわしくないアートワークが散見されたがブラック・マグネットもその一つ。オクラホマからナイン・インチ・ネイルズが持ち得なかったパワー・エレクトロニクスの「新たな側面」をオルタナティブ/インダストリアル・メタルという手段で実現した快作。
48 Bear Bones, Lay Low - Mirage Dissociatif[Apariciones Compiladas (compilation tracks)]
ベネズエラのドローン/エクスペリメンタルアーティスト、ベアボーンズ,レイローの新作はアートワークが表すような密林から生成したドラスティックな世界をプログレッシブでエレクトロニックな水蒸気を多く含んだ新緑を蝕みながら重々しく蠢く傑作。
47 Sownbones - Leaf House[Helpless]
ホーリー・フォーンのメンバーであるライアン・オスターマンのソロ名義ソーンボーンズの新作。牧歌的な情景を彷彿とさせるサウンドからドラマティックなほどの展開を見せるシガー・ロスから遠く離れたまだ誰にも踏み荒らされていない廃墟に温暖な風が静かに流れる。
46 Yamaoka - TAKE 02[Long Takes]
北海道出身のエレクトロニック・アーティストYamaokaによる新作。美麗な反復の襞の先の源泉には幾重ものギミックと領域を有している。主調音に派生的性質の音を単に重ねた寸毫な可動ではない耐久性をもった傑作。
45 Vieux Farka Touré & Khruangbin - Diarabi[Ali]
マリのヴュー・ファルカ・トゥーレとヒューストン出身のクルアンビンの共作。マリのソンガイ族が口頭伝承で継承してきたソンガイ音楽と後期ツイン・シャドウにみられるサイケデリックさ、アーバンを特徴づけるBPMに変化したダブで「静かに」目的のない運動体による合理性、瞬間的快楽、喧噪を暴いた傑作。
44 Deli Kuvveti - A tide to wash us off[Machines Have Their Own Agenda]
シアトル在住のデリ・クヴェティによるアルバム。オウテカの「Confield」を彷彿するラディカルな暴力性に誘発され新たに自生した折り重なる自然のノイズが、マージナルな連関を帯びて浮き上がる。
43 Lynyn - puffling[Lexicon]
シカゴ在住のIDMアーティスト。エイフェックス・ツインや数々のダブ・テクノの先駆者を継承しながらコナー・マッキーは自らの名義ライニンでティアーズ・フォー・フィアーズに見られるヴォイス性をハードコア・ブレークスとして拵え直したサウンドを生み出した。
ex Current Value - Transscript[Platinum Scatter]
ベルリン在住のミニマル/テクノ・アーティスト、カレント・ヴァリューの最新作。動的なアップテンポさが抑制されて代わりに静的なミニマライズな音が躍動する今作で、またニューロ・ファンクが変異しつつある。
42 Pale Sketcher - Rollercoaster[Golden Skin]
ジャスティン・ブロードリックのソロ名義ペール・スケッチャーの新作。
リフレックス・レコーズからリリースされるはずだった「Golden Skin」を含んだアルバムで懐かしさとシューゲイズの伸展の契機にある今のシーンに合致した傑作。
ex King Stingray - Let's Go
アリエルピンク以降確実にインディーサーフの波が来ていると感じさせたのがオーストラリア出身のバンドであるキング・スティングレイのこの楽曲。2000年代に纏っていたエモとサーフで極限化したエネルギッシュさが特徴。
41 Sault - Higher[11]
間違いなく2022年がターニング・ポイントの年となったロンドンを拠点
に活動する匿名の音楽集団ソウルトの新作はこの年だけで7作品にわたるリリースを果たしそれぞれに異なる性質、異なるスタイルを有している。その中でも「11」は2019年あたりから動き出したサイケデリック・ソウルに基点に構成されgpsオペルやネオソウルに彼ら独自のパースウェイジョンを提示した傑作。
40 朱婧汐 & Chace - 祝福[永无止境的告别]
Cポップの発展の過程で顕になったマンドポップに新たな要素とキャナライズを規定した雲南省出身の朱婧汐(アキニ・ジン)新作「永无止境的告别」で、前2作に無かったインダストリアル性を加味させた結果ソフィー以後のポップ性に現時点のチャイニーズ・ポピュラー・ミュージックの視点を置いた重要な作品。
39 99LETTERS - Saisenbako (賽銭箱)[Kaibou zukan]
「雅楽テクノ」と呼ばれるジャンルを確立した大阪在住のアーティスト99レターズによる新作。「Kaibou zukan」は、メイブ・フラッティが室内サウンドにインセイン(狂気)性を見出したのに対し、99レターズはテクノに土着のインセインを吹き込んだ傑作。
38 Boris - 終章 a bao a qu -無限回廊-[fade]
2022年はボリスが際立つ年だった。「W」、「Heavy Rocks」そして「fade」と立て続けてリリースされたアルバムはどれも異なる性質でありながら相補的にインプリケーションされた傑作群の数々に圧巻。
37 Yutaka Hirose - Fluctuation[Trace: Sound Design Works 1986-1989]
2019年に「Nova:Soundscape 2」をリイシュー、2022年には「Nostalghia (ノスタルジア)」をリリースした広瀬豊氏が同年に1986〜1989年に録音された楽曲のコンピレーションアルバムをリリース。2つの構成に分かれた楽曲群は「Nostalghia (ノスタルジア)」とシームレスな関係性を示している。
36 V.C.R - Minnie Lives[The Chronicles of a Caterpillar: The Egg]
ロサンゼルス在住のアーティストV.C.Rがシングル「Blue」をマシューデイヴィッドが設立したLeaving Recordsからリリースした後に間を置くことなくリリースされたファースト・アルバム。コズミック・ソウルと名付けられたこのアルバムは、アコースティックギターやファンクの狭間に潜むスペキュレイティブ・フィクション的世界で構成されている。
35 Voice Actor - Sent from my Telephone
ヴォイス・アクターの109曲から成る「Sent from my Telephone」は悲劇に立ち遭う人間の感情、幸福を追い求める感情といった形式化されず絶えず内面化され続ける情感をポエトリーに託した傑作。
34 Daou - Misgivings[Sanctuary]
ベイルート出身のアンビエントアーティストであるジョルジュ・ダウの珠玉の作品。単なる反復の数珠繋ぎではなく一回性のノイズ、一回性の短音が多分に含まれる。従来のテープ・ミュージックがコンヴァージョン(回心)した先の音を示したような傑作。
33 Kendrick Lamar - Auntie Diaries[Mr. Morale & The Big Steppers]
ケンドリック・ラマーが最もアンビエントに接近した作品だと思う。あまりそうした方面から評価されていないようだが、エモーショナルな楽曲群と明暗を明らかに分けた実験的なアルバムで間違いなく傑作。
32 Julia Sabra & Fadi Tabbal - All The Birds[Snakeskin]
レバノン在住のジュリア・サブラとファディ・タバルによる共作。歪みの中でのコーラス、ピークアウトするメロディの先のノイズといったドラスティックさで人々の行動に宿るパーソナリティの変容を現代的ダイアロジックな手法で提示した作品。
31 Danger Mouse & Black Thought - Aquamarine[Cheat Codes]
ブラック・キーズのプロデューサーでも知られるデンジャー・マウスがブラック・ソートと共にリリースした新作「Cheat Codes」は、間違いなくこれまでのリリースの中でも突出した傑作を生み出した。ロランジュとクールキースの共作にも通ずるアブストラクトなヒップホップアルバムの名盤。
30 Big Thief - Blurred View[Dragon New Warm Mountain I Believe in You]
ブルックリンのバンド、ビッグ・シーフの超大作は20曲という楽曲の多さに比例した仕掛けがたくさん仕組まれている。一聴すると表面的には牧歌的に見えるスタンダードな楽曲の背後で「Blurred View」のようなR&Bでもなくヒップホップとしても見なされなかった残滓が唐突に卓越性を帯びたような楽曲群が満載の傑作。
ex Rolling Blackouts C.F. - Saw You at the Eastern Beach[Endless Rooms]
ローリング・ブラックアウトC.F.の新作からニュー・オーダーかと見紛うテイストの楽曲が収録されているのだがよく耳を澄ますと60年代に流行したサーフ・ロックに連なるポップでメロディアスな要素が含まれている。
29 Dominic Voz - Home[Right to the City]
ポートランド在住のアーティストであるドミニク・ヴォズのセカンドアルバム。コラージュのテクスチャーを何層にも丁寧に縫いながらマウス・オン・マーズの「Autoditacker」にみるような柔和なグリッチサウンドに露悪的な嫌がらせを施した怪作。
28 Nia Archives - Luv Like[Forbidden Feelingz]
ロンドン在住のデハニー・ニア・リシャーン・ハントによるプロジェクト
であるニア・アーカイヴの新作はアートワークにも描かれるブラジル国旗に象徴されるジャンル、バイアーノをジャングルや90年代的ドラムンベースを回顧としてのプロセスではなく未来に向かって投射した。
ex RONA. - Feel It Too[Closure EP]
メルボルン在住のアーティスト、RONA.によるEP。シンセ・ポップやシンセウェイヴの渦にプログレッシブでミニマルなハウステイストが新鮮。
27 Mavi - High John[Laughing So Hard, It Hurts]
シャーロット在住のラッパー、マヴィの新作。前作のドラムレスな作風と異なり古典的で頑強なジャズラップに重心をおいたアルバムで昨今の表層的なサンプル・ドリルやジャージーを主体にしたヒップホップとの差を見せつけた傑作をリリース。
26 Klein - haha hehe business[Star in the Hood]
ロンドン出身のアーティスト、クラインの2022年内リリース2作品目となる「STAR IN THE HOOD」は、「裏切り」や「嫉妬」といった学問では応えきれない感覚や領域を音を以って触知できるものとして応え、顕した作品をリリースした。
25 Purelink - One for the Angels[Puredub]
シカゴで結成されたアンビエント・ダブグループ。ピュアリンクのファースト。従来のダブ・テクノを圧縮しアンビエントにおいて強固な静寂を基点にアクセントの有無を明確にした歪なダウンテンポを展開したという点で、フロリアン・T・M・ザイジグとジョン・ダニエルによるUntと双璧をなす。
ex Unt - Zlep[Clips of Perspective]
ジョン・ダニエル(フォレスト・マネージメント)とフロリアン・T・M・ザイジグによるプロジェクト。こちらはピュアリンクと同じアンビエント・ダブに属しながらインダストリアルやダブ・テクノの持つ瞬間的享楽に永続性を持たせた。
24 Katia Krow - Ishtar[Julfar]
ドバイ在住のドローン/ノイズ・アーティスト。カティア・クロウがアルバム構成におけるノイズの占める割合が前作とかけ離れた度合いで拡大させているところに、よりドラスティックな作風へとシフトする契機として機能した作品であることは間違いない。
23 Elucid - Spellling[I Told Bessie]
アーマンド・ハマーのメンバー、イルシッドのソロ名義による傑作。ドラムレスなヒップホップやゼロのようなスポークン・ワードを多用した作品が増えたことやマテリアル・ガールの登場によって注目されたのではないだろうか。かつてのヴェイングローリーなスタイルのライミングから狂熱的、巨視点なライミングへ移行してきている。
ex Joeyy - From
シェッド・セオリーのメンバーであるジョーイの新曲。マッシヴ・アタックの3Dが持つウィスパー・ヴォイスとスリープ・トークをプラグというジャンルに落とし込んだ結果忘却したはずの暗闇が再度立ち現れた。
22 Pontiac Streator - Purp Thread(feat. Ben Bondy)[Sone Glo]
フィラデルフィアを拠点に活動するポンティアック・ストリーター新作。「セレクト・ワークス」シリーズとは異なりテクノやトランスを全面に出した構成になっており静的な側面との差異が行われている。動的な面が立ち現れた事で出来た静的な面との境界線を示す音に期待したい。
ex Keeley Forsyth - Land Animal (Ben Frost Remix)
マンチェスター在住のキーリー・フォーサイスの楽曲「Land Animal 」をベン・フロストがリミックスした。リミックスとして非常に完成度が高いのはおそらくベン・フロストの持つ打製由来のラウド性がキーリーの楽曲にくっきりしたコントラストとして機能させたからである。
21 Synalegg - b3ll[hArm0nii tanD3m]
パリを拠点に活動するシナレッグのファーストアルバム。グリッチやIDMのもつ個人の中にしか内面化されずに一般化されることがない経験や情感をテクノやトランスといった一つの値(高揚)を導き出すまでの代替可能な豊かなロジスティックスとは異なり非個人化(デインディヴィジュアライズ)することで聴く者にとっての公的な共時性をもたらす介在者としてこのアルバムは機能している。
ex µ-Ziq - Magic Pony Ride (Pt.1)[Magic Pony Ride]
マイク・パラディナスのサウンドは、「Lunatic Harness」以後に音の相貌が一変する契機になっているように思うが、この楽曲では初期の遊び心が戻った一曲。