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アフロビーツ・プロデューサー列伝【P.Priime】~Great Producers of Afrobeats #02~


Ẹ Káàsán!(ヨルバ語でこんにちは!)
アフリカ音楽キュレーターで、4月からオンラインでヨルバ語を勉強する予定のアオキシゲユキです。

東京外国語大学の「オープンアカデミー」の講座案内を見ていて、本当は欧州ポルトガル語を勉強しようと思っていました。大学生の頃にブラジル・ポルトガル語を勉強していたんですが、本国のポルトガル語とブラジルのそれとは若干の違いがあって、アフリカで通じるのは本国ポルトガル語のほうだということ、そして何よりアフリカ音楽フリークにとっては世界最大級の音楽イベントである「AFRO NATION」の開催地がポルトガルだということ、オープンアカデミー受講の理由はこの2つからでした。

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(AFRO NATIONのこのラインナップ、ヤバすぎでしょ。)

しかし、申し込み完了ボタンを押す直前になってなぜか一旦キャンセルしたくなり、もう1回全ての講座を見直してみようと思ったんですね。すると今度は「ヨルバ」という3文字を発見。これに呼ばれたのかと納得しました。

皆さん、ヨルバ語って知ってますか?
私のようにアフリカ音楽、特にナイジェリアをメインに様々なアーティストの音楽やバイオグラフィを掘り下げていくと、必ずと言っていいほど「ヨルバ」「ハウサ」「イボ」というナイジェリア三大民族の存在に触れることになります。その中のヨルバ人の皆さんが使っている言語がヨルバ語です。ちなみに東京外国語大学の講座には「ハウサ語」もあったんですが、ヨルバ語を選んだのは極めて簡単な理由。「Ibeyi」というキューバ系フランス人の双子の姉妹デュオがいて、自身のルーツであるヨルバカルチャーから影響を受けた彼女たちの音楽がめちゃくちゃカッコよくて好きだったので。

というわけでこの春からはヨルバ語を学びながらポルトガルにも思いを馳せて、行けるなら「AFRO NATION」行くしかないなぁと企む今日この頃です。

さて、それでは本編スタート。
前回のLONDONさんに続いて今回もAfrobeatsのスゴ腕プロデューサーを紹介する「アフロビーツ・プロデューサー列伝」#02をお届けします。


プロデューサー名【P.Priime】

プロデューサータグ・・・
「P.Priime!(ピィプライム!)」
「P!(ピィ!)」
「Giddem!(ギデム!)」

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P.Priime、本名Peace Emmanuel Oredopeは2002年3月生まれの19歳(2022年2月執筆時)。彼こそ今ナイジェリアで一番ホットなティーンネイジャーかも知れません。名だたるビッグネームとも仕事をこなし、数多くのヒット作品を持つ売れっ子プロデューサー。まずは彼の代表的な作品をご紹介していきましょう。

Fireboy DML「Like I Do」


Cuppy Ft. Zlatan「Gelato」


Olamide ft. Omah Lay「Infinity」 


WizKid「Anoti」

この4曲だけでも相当なキャリアですよ。私が羨ましがっても仕方がないですが、生まれ変われるならP.Priimeになりたいです。

バイオグラフィへと入っていく前に、P.Priimeのプロデューサータグ(サウンドロゴ)に触れておきましょう。
初期は「P.Priime!(ピィプライム!)」というフルネームのタグを使用していることが多く(前述のFireboy DMLのLike I Doの歌い出し直前)、割と最近は「P!(ピィ!)」「Giddem!(ギデム!)」の両方を使うパターンが多いかなと思います。(Olamideの「Green Light」だと開始6秒でまず「P!」が入り、その後18秒のところで「Giddem!」が入ります。)

ちなみにこの「Giddem」の意味は調べてもわからず。Burna Boyのアルバム「Outside」に同名の曲がありますね。もし「Giddem」の意味をご存じの方がいらしたら教えてください!

ちなみにこのBurna Boyの「Giddem」、プロデューサーはChopstixです。

ラゴスのEjigbo(エジグボ)で育ったP.Priimeは幼い頃から聖歌隊の一員として音楽に触れ、ピアノ、ドラム、ギター、サックス、トランペットなどの5つの楽器を演奏していたそうです。中学卒業後に妹のノートPCを借りてFL Studioを使うようになり、Youtubeのチュートリアル動画を観てトラック制作やプラグインソフトの勉強をしつつ、兄が開いたスタジオへ足繫く通って周囲のエンジニア達からも学びながら音楽制作の道へとのめり込んでいくことになります。

ある時、P.Priimeは友人のプロデューサーに届いた「Sarz Academy」なる団体からの手紙に強い関心を持ちます。それはアカデミーから送られてきた合格通知でした。「Sarz Academy」とは、ナイジェリアの有名プロデューサーであるSarzが設立した非営利のプロデューサー養成スクールです。

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当初は自分がアカデミーに受かるとは全く思えなかったP.Priimeですが、友人に背中を押され応募してみたところ、何千もの応募者の中から見事選考をクリアし、アカデミーの一員になることができたのです。2018年8月。彼が16歳の時に起きた奇跡でした。
「Sarz Academy」ではこれまで知らなかった音楽制作スキルと音楽ビジネス全般に関する学びを得ることができただけでなく、音楽での成功を目指し共に学ぶ仲間との繋がりや、何よりSarzという父のような偉大な存在(P.PriimeはインタビューでSarzのことを「Dad」と呼んでいます)に触れることができたと語っています。

その後のP.Priimeは、とあるアーティストとのセッションの際にまだ新人だったFireboy DMLと出会ったり、アカデミー時代の仲間であるCake(彼女は現在P.Priimeのマネージャー)を通じてZlatanOlamide(ナイジェリアの超ビッグなラッパー)達と出会い、Olamideに関しては彼の11枚目のアルバムとなる「Carpe Diem」で、なんと12曲中7曲のプロデュースを担当することになっていきます。

Olamideのこのアルバムは名盤です!Pick upしたこの「Loading」もP.Priimeのプロデュース。もしかすると彼がAmapianoに取り組んだ最初の曲かも。

そして最近のP.Priimeの作品でいうと、やはりReekado Banksの「Ozumba Mbadiwe」が群を抜いていい仕事だと思います。

Reekado Banksは元々Don Jazzy率いるMavin Recordsの所属アーティストでしたが、2018年の終わりに5年間在籍したMavinを去ることを表明。その後は自分のレーベルBanks Musicを立ち上げたものの、Mavin在籍当時のようなヒットはなかなか出ずの状態でした。そんなタイミングで起きたP.Priimeとの化学変化がこの曲です。

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Reekado Banks

この「Ozumba Mbadiwe」は、2020年10月に起きたレッキ料金所での軍による発砲事件から1周年になるのを忘れさせない為にリリースされた曲です。
この事件は、これまで長い間一般市民への無差別な暴力を繰り返してきたナイジェリア警察の特殊部隊SARS(対強盗特殊部隊)に対して、一般市民が組織解体を求めるデモ活動(#EndSARS運動)をレッキ料金所で行っていたのですが、2020年10月20日、ついに軍兵士がデモ参加者に向け発砲、少なくとも12人の死者が出たとして世界中で大きなニュースとなりました。

哀愁ある美しいメロディとAmapianoフレーバーが取り込まれたリズムが特徴的なこの曲、タイトルは事件があったレッキ料金所へと繋がる道路「Ozumba Mbadiwe Avenue」から引用されています。そしてミュージックビデオの中ではまず、1:22のところでツールゲートの上にイエローのメッセージボードが出現、おそらく「#EndSARS」のデモで亡くなった方たちだと思いますが、たくさんの名前と共に「Remember their names」の文字、続いて1:47のところではナイジェリアをイメージさせる緑色の上に飛び散った血と「GIANT OF AFRICA?」という問いかけ、そして最後は「WE’LL NEVER FORGET」のメッセージ。そしてサビの部分で何度も繰り返される、

~I'll be on Ozumba Mbadiwe~    

Reekado Banks "Ozumba Mbadiwe "

という歌詞。
当初はこうした内容を全く知らずに単純に「いい曲だな」と思ってたんですが、曲のことを詳しく調べ始めてからこのサビの歌詞に辿り着いた瞬間、私は涙腺が崩壊しました。
ぜひミュージックビデオでReekado Banksの想いを感じ取って貰えたら嬉しいです。そしてこの曲に関してはP.Priime本人がトラック制作のメイキング動画で解説をしていますので、ぜひそちらもチェックしてみてください。

実はこの「Ozumba Mbadiwe」、最新のRemixではなんとFireboy DMLがゲスト参加!これはもうP.Priimeならではのコラボレーション!しかもFireboyは自分のパートとコーラスで自身の最新ヒット曲「Peru」のverseを差し込んでます(won ni won wa mi I'm in San Francisco Jammingのパート)

武装集団に狙われているビデオの冒頭部は、原曲の背景から推測するに、反政府メッセージを込めた曲をリリースした為に政府を敵に回したReekadoが命を狙われてる、という設定にも見えなくもない内容です。

そしてもう1曲、P.Priimeがプロデュースを手掛けた楽曲でまさかの組み合わせをご紹介します。
パリ生まれラゴス育ち、フランスを拠点に世界的に活動するナイジェリア人シンガー・ソングライターのAṣa(アシャと読みます)が2021年12月にリリースした「Mayana」という曲です。

これまでのAṣaの楽曲は、どちらかというと彼女のスピリットともいうべきジャズやソウルの影響が大きかったのですが、ここにきてAfrobeatsを取り入れた新曲をリリースしたことがまず最初の衝撃、そしてプロデューサーがP.Priimeだったことがセカンドインパクトでした。最初に音源を聴いた時はAṣaのサポートバンドが演奏したトラックだと思ってたんです。P.Priime指揮のもと、大ベテランとも言えるAṣaとの制作は一体どんなレコーディングだったのか、詳しく知りたい1曲でもあります。

そして今年2月18日にリリースされたAṣaの最新作「Ocean」も引き続きP.Priimeとのタッグ。前回の「Mayana」で相当手ごたえがあったようですね。


さて、今回はナイジェリアの若手大本命プロデューサーP.Priimeをご紹介しましたが、皆さん如何だったでしょうか?
今回P.Priimeについて詳しく調べた中では、まずはやはりSarzが設立した「Sarz Academy」の社会的意義の大きさが注目点だと思います。こうしたサポートがあることによって若い世代にはチャレンジの機会が生まれ、その才能が発揮されることでナイジェリアの音楽業界は層を厚くしながら、同時に高く成長していくことができるわけです。
そしてもうひとつはReekado Banksの「Ozumba Mbadiwe」ですね。これは私にとって忘れられない1曲になりました。ちなみに歌詞について補足なんですが、ビデオの中の「GIANT OF AFRICA?」は、ナイジェリア政府に対する非難のように聞こえますが、隠喩でBurna Boyを非難しているんじゃないかという話もあります。ただ、ここでは彼ら2人のBEEFに対する見解はさておき、あくまで純粋に曲のメッセージを大切にしています。 

今回ご紹介したP.Priimeが手がけた楽曲はSpotifyのプレイリストにまとめてあります。お好きな時間にぜひお楽しみください。


次回も注目のAfrobeatsプロデューサーを取り上げたいと思っています。
最後までお読み頂きありがとうございました!
アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキでした。


<今回の参考文献はこちら>


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