村木厚子さんのこと
公益社団法人 日本フィランソロピー協会は、田中克人さんがやっていた「国民政治研究会」の発展した形で1990年にスタートした。初代会長が、僕の師であり友であった、故・林雄二郎さんだったので、長く親しみのある団体である。毎年「まちかどのフィランソロピスト賞」という顕彰活動をしている。大企業の社会貢献ではなく、無名だけど、地道に社会貢献活動を続けている人や、独自の行動で社会貢献をしている人たちが選ばれる。いかにも林さんらしい、発想である。
2012年の授賞式に出席したことがあり、日本各地でいろんな人が社会に尽くしていて、誰もが本来持っている善意というものに触れて胸が熱くなった。その時の特別賞が、村木厚子さんだった。2010年、検察庁は石井一議員の障害者郵便制度悪用の口添えを捏造し、厚生労働省局長の村木厚子さんを逮捕した。村木さんは、獄中生活の中で、犯罪者の中に多くの障害者がいることを知った。悪い奴がいても、普通は、逮捕までの事件は引き起こさない。引き起こしてしまうのは、むしろ日頃、いじめられていて、どうしても我慢が出来なくて一線を超えてしまうような子が多いと聞いたことがある。そして、村木さんは、官僚である自分でさえ、刑事の誘導尋問や、威圧的な駆け引きに心が折れそうになるのに、あの子たちは、検察の取り調べに耐えられないだろうと思い、この事件の国家賠償金を、そうした受刑者を支援するために寄付をした。
官僚というと、冷たく機械的に法律に従うだけの人間と思っている人が多いだろう。しかし、実際の官僚と付き合うと、企業社会の人間よりも、人情と正義感に溢れた人たちが、すべてとは言わないが、確かにいるのである。村木さんの、受賞のスピーチを聞いていて、人を信じることを教えてくれる人が、誰よりも偉大だと思った。
法律を整備することよりも、法律を運用する側の人間教育を行うことの方が遥かに大事である。政府や企業に面倒を見てもらわなくても、みんなで相互に助け合いながら生きていける社会を、僕は望んでいる。
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