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岩谷宏ロック詩集(Bryan Ferry)

ANOTHER TIME ANOTHER PLACE

今日も君の部屋では
針がまわる円盤をなぞるのか
それは ぼくとおんなじだ

しかし だからといって
シラケてしまってはいけない
ままならぬこの世の
かったるい構造を通して しかし
ぼくは いつも はっきりと
君の姿を見とどけているつもりだ

そのうち

そう
「そのうち」ということを
ぼくらは信じなければならぬ
愛がこの世の唯一の権力となる日が
そのうち絶対に来るんだと
信じていなければならぬ

いつか
どこかで
そのときこそ
ぼくらが本当に過ごせる場所
本当に行ける場所
ぼくときみとの
本当の出会い

あの無神経な錆びついた刃で
ズタズタに切り刻まれちまった今のぼくだが
それに今は
ぼくは君をチラッと見て
君もぼくをチラッと見るだけだが
でもぼくは ここに こうして
ちゃんと信じているのだ
それを言いたいためにぼくは
この歌を吹き込んだんだ

いつか
きっとどこかで
ぼくときみと一緒に
人間の愚かな過去を
優しく笑い合える


 ONE KISS

今が今
ここがここ
そしてあと1時間かそこらで
私はホテルに帰り
あなたは家(うち)に帰る
今は確かに
お互い見つめ合っている
しかしこれは
それほど確かなものか
近ごろでは自信が持てない
コンサートという名の口づけ
それだけのことか?
口づけ、歌
それはねぇ
私にも口ぐらいあるもんねぇ
  失われた恋
  失われることが
  最初から確定している恋
  それを私は
  毎晩こうやって繰り返す


ALL NIGHT OPERATOR

この暗く静まった世界に
この、へだてられた世界に
(それぞれ)一人っきりで
今宵も終夜起きつくし
心と心をつなぐ仕事が発生するのを
期待しているあなた
私は今
そのようなあなたに
せつなく呼びかける
私にもっといい線を
つないで下さいと

たしかに肉声というやつは
感情的でよくない、しかしもう
書けるようなことは
書き尽くしてしまったのです

こんなにたどたどしくしか言えないけど
私の中に今あるうながしは
すごく強く、しっかりしたものなのです
だから、あなた
私と最高に真剣に対応して下さい
そしてこの想いを
伝える手伝いをして下さい

これは最後の望み
最後のきずなです
落ちる寸前の橋です
だから私は受話器を置かずに
あなたのコールを待っています

でもこれもあなたにとっては
いろいろ沢山聞くレコードの内の
一枚(ひとつ)にすぎないのでしょうか
レコード棚を埋めている
ひとにぎりの空しいためいき達
またその受け手である人達の
孤立したためいき達
でもあなたは違います
あなたは遅番(深夜番)の電話交換手で
だからあの沢山の欺瞞と欺瞞との間の
ほんのわずかなすき間にある真実を
あなたには確かに読みとれるはずです

ほとんどの人がいたずらに
夢ばかり見(追っ)ているこの世界で
でも私に今
あなたの目の奥に確かに見えるのは
息(いき)をしている交換台
複雑なつなぎ方がひと目で解る一覧表
もう、そういう具体的な
はっきりしたもの

だからこの私をも
もっといい線につないで下さい
あなたはまたこの私が
こうやって例によって自分の歌に
のめり込んでしまったと
感じているのだろうか
私が私の歌に隠れてしまったのなら
あなたが電話交換手であることも
忽然と消えてしまっているのです


LOVE ME MADLY AGAIN

あなたはまだ、町で目立とうとしているの
だれかに会うとまた
そそくさとした情事を重ねるの?
そういう屈曲の多い変化の多い影の道は
いつまで歩いてもまだまだ沢山いくらでも
なにかがありそうな気がするんだよな

言わなくてもいいよ
  話さなくてもいいよ
  ありのままを見せてくれればいい
  そして少くともこの私は
  もっと本格的に愛してくれればいい

あなたはまだ、なんか派手なこと
突飛なこと、目新しいことに
いちいち気を奪われるの?
私もそうできるといいけどねぇ

いいよ、聞きたくはない
  私も一見、いろいろ趣向を凝らすが
  私は全然違うんだよ
  一緒にしないでほしい
  あなたにももしかして一度くらいは
  記憶があるでしょうあの激しい恋を
  いまもう一度
  この私にささげ尽せ!

私に安易(イージー)な恋をするな
しっかりしたのがいい
愛なんて私にとっては
てんでラクなことで
そうやってこれまでも
沢山々々の恋(ホール・ロッタ・ラブ)が
そそくさと終っていった

もう話すな
  私の目の前に
  全身で立て
  おしゃべりというやつは
  もっとも安易(イージー)な行為だ
  もう、こんりんざい
  口をつぐめ!
  私を愛しぬけ!

恋というやつは
そんなに思ったほど情熱的でしたか
リアルでしたかそれとも
一種の幻想みたいでしたか

答えなくていい
  私は違う
  この今度は違う
  もう一度あの狂おしい愛を
  おまえの中に
  完全に呼び起こせ!

へだてられ
 お互いの消息も確かでない今
 しかしことさら会うこともなく
 すでに障壁は壊たれ
 すべての想いはもつれたきり
 もはや一言(ひとこと)も語らず
 ただ
 狂おしく
 もういちど
 私を愛し貫け(つらぬ)け!

私とあなたをつなぐ線を
 だれかが引いてくれはしない
 あなたにも私にも引けない
 世界は空間であり
 空間は距離で構成されている
 距離を無視しようというのは
 白人的エゴというものだ
 愛するのはいと容易(たやす)く
 ところが終らせるのはすごく難しい
 書き上げたラブレターなんか
 破ってしまいなさい
 そして私を
 もっと本格的に愛しなさい

そしてあなたがその時を
 正しく見付けたときには
 どこかでほんのしばらくの間
 絹のようになめらかな愛撫を交そう
 鏡と鏡を合わせ
 窓に窓を重さね
 あなたの中で
 あなたに、もう、あなたがいなくて
 私を愛しぬき
 愛しつづけなさい、ずっと


IN YOUR MIND

あなたの心の中で凍結している鐘の音に
耳を澄まし、それにしたがえ!
ひりひりとした、結晶したうずきに
それだけにしたがえ!

それはあなたがもっと若かった日には
手なずけられなくて困ったほどの
優しく、至上に受け身で
しかも燃え立つような想いだった

いまあなたの回りは見渡すかぎり
なにもない広い野だ
すべての過去はみずからをすでに
地中にほおむってしまった

今ではもう
問うて途方に暮れることはない
答えもあらかじめ解っている
今のあなたの心の奥底では

もしも今のあなたが元気な盛りで
いろんなものに心を奪われて
まるで
夏の庭園をぶらついているとしても
私のことをセンチメンタルだ
などと言ったら後悔するぞ
あなたが今気にしているいろんな人は
あなたがぶらついている夏の庭の中でさえ
それぞれが恋人を見付け
究極的な友人を得るのです

あるいはもしも今のあなたが
年月に押し流されてしまった人でも
家づくりにばかり凝る理由はない
あなたの哲学、あなたの人生観とやら
私の上に勝手に投影させているかもしれないもの―
それは、ガタガタに揺すぶれ
売り払え!
あなたが最初にタネを播いたもの
そして育てたもの
それはしっかり刈りとれ、収穫せよ
そしてから眠れ

いまや予測だの期待だの
イデオロギーだの宗教だの
そういうもっともらしい預言者達は
顔はしなびているしおまけに
ベールをかぶって曖昧さのみ
それでもなおあなたはいじきたなく
「新しいこと」とやらのギラギラした
ヴィジョンをしまいこんでたりして

ほら川がゆるやかに
いくつもの牧場(まきば)を経めぐって
海に流れてゆく
どの栄光の道もこのように
段階的な小さな変化を経ながら
ついに落ちてゆくのです

ああ、やっと笑ってくれましたね
その今の笑いも、そして
あなたが経験したいくつもの苦しみも
(外に(外で、外から)ある(あった)のでなく)
あなたの中で書き記されたのです
そして、この詩(うた)も


ROCK OF AGES

ステージに立つ立場ってのは
今でも相変らずかっこ良いんだね
こちらはもう長年さんざん聞いて
いまや冷たくどっしりなっちゃった

いまや一人ぼっち
パーティーはとっくに終ったし
空しさも噛みしめた

いまやそういう同じ次元に
ちゃんと居てくれて
悲しみを分ち合ってくれる
音楽屋さんでないと
イミないなあ、だって
ロックは私に触れて(キョリがなくなって)
私は冷たい岩(ロック)になってしまったのだから

だからこれからはもっと
普遍的な賛歌が必要だし
全体的な変化が各地各人いっせいに
始まる必要がある



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橘川幸夫
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