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書評「まっ直ぐに本を売る」(石橋毅史・著) ISBN-13 : 978-4908087042
石橋毅史くんから、「ロッキング・オンの時代」を読んだという手紙と、彼が今年出した「まっ直ぐに本を売る」(苦楽社)が送られてきた。「トランスビュー」という、直販で運営してきた、小さな出版社についての本である。トランスビューの社内の風景が、遠隔カメラで中継されても分からないだろうくらいに、細かく確かに描写されている。いつもの石橋くんの取材記事だ。
「本を出したい」という人は増えてこそすれ減ってはいないだろう。「本を売りたい」という人も増えてこそすれ減ってはいないだろう。印刷費は、70年代に比べて大幅にやすくなった。DTPも業者に頼むことなく、出来てしまう。写真もイラストも自由自在だ。なのに、なぜ、出版業界が沈没寸前なのか。
みんな、既存のシステムや制度を勉強しすぎるのだと思う。既存の出版社のスタイルを踏襲しすぎるのだと思う。トランスビューの事例を見れば分かる。既存の制度に自分たちの要求をして、その要求が通らなければ、自分たちでシステムを作ればよいだけの話なのだ。本を読みたがっている人が、減っているとは思わない。ただ、既存のルートで生産される本の内容に飽きているだけではないか。
出版業界が沈没するのは、他の業界のプレイヤーが、誰もこの業界に新規参入しないことからも、魅力のない業界だということが分かる。かつて、ポーラ化粧品やアメリカ屋靴店が、書店業界に参入して、良い書店を展開していたが、いつのまにか売却してしまっていた。
「ロッキング・オンの時代」でも書いたけど、僕のところに「ロッキング・オンに入社したいので紹介してくれ」という人が大勢来た。みんな断った。ロッキング・オンに入ろうとするな、自分で、ロッキング・オンを作れ、と。なんで、創刊という、こんな面白いことを、みんなやらないのだ。不思議だ。
「まっ直ぐに本を売る」(石橋毅史・著)は、業界関係者しか読んでいないと思う。そうではない、普通の人が読むべきだ。読者から読者でないものに変わるために。
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