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岩谷宏ロック詩集(David Bowie)
「Rock'n Roll Suicide」
時間とは、たばこを空に
してゆくだけの能なしだ
きみ(ぼく)は さっきから
ばかみたいに
つぎからつぎへと
たばこを口におしこみ
またゆびにはさみ
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
をくりかえす
きみ(ぼく)は もはや
ロックをきく自殺者だ
きみはもう
完全にバカのりするほどには若くなく
しかもロックの意味するところを
全身で理解できるほど成長してはいない
時計は
ほかならぬきみの方が
うたいだすのをしんぼうづよく待っている
きみにはもう食べたいものはなにもなく
これまであまりにいろんなものを
アタマの中にほうりこまれて
いまや拒絶反応をおこしている
つまり
きみは いま
ロックをきく自殺者
調子のいいビートが
きみのアタマの中の
からっぽの大通りをはしってゆく
しかし
夜明けがきたらきみも
家へ帰らねばならないではないか
そのときに
太陽が照っても
もうきみには影がないこと
ミルクをたくさん飲んでも
精液を排泄することがあっても
それがきみの心まで支配しないことが必要だ
つまり キミが いわゆる
”自然である”ことは
たましいの用語からすれば
ずぼらで不親切で怠慢だということなのだ
愛 などを絶対視してはいけない
きみはそれほど孤独ではない
きみはいつもきみ自身を意識しているが
それはあまりにも不公平じゃないか
きみはきみのアタマをかかえこむが
もっと、目を 外へ向けた方がいい
きみはそれほど孤独ではない
きみがだれであれ
なにをしている人であれ
どこで いつ生まれた人であれ、キミの
くるしみの本質
痛みの本質は いま
みんなと同じであるはずだ
それは、だから
ぼくのものとも同じだ
だからぼくがロックをやることは
きみの痛みを救うことではなく
ぼくの痛みの中にきみが
きみの痛みの中へぼくが
入ってゆきたいと叫ぶことにほかならない
きみはだからけっして孤独などではない
ぼくと一緒にターン・オンしようではないか
きみは痛みだから
きみはとてもすばらしい ぼくはきみの
せめて手ぐらい
にぎりたい
Starman
あれは何時ごろだっただろう
ラジオのDJがハタと鳴り止んで
かわりにへんな音がきこえてきた
そしてなぜかぼくには
それは宇宙からの声だとわかったのだ
そうさ!!
もう 地球の上空には
スターマンが待機している
彼はぼくらに会いたがっている
彼はぼくらに会いたがっている
彼がまだ地上におりてこないのは
ただ ぼくらの
未成熟をおそれてのことだ
きみのまちの上空にもすでに
スターマンが待機している
東京だったらテレビの2チャンネルで
彼の姿をみることができる
しかし
彼は
きみがきみのこころを
完全にあけわたし
きみが完全に
とろけてしまうまで
姿をあらわしてはくれないだろう
きみがまだ
大人たちのことを
両親や先生や上役のことを
すこしでも気にしているかぎり
彼はおりてこないのさ
もう
地球の上空には
スターマンが待機している
パパやママに教えてはいけないよ
そして毎晩こっそりと
ぼくのステージを見においで
Let's Dance
Let's Dance
きみの赤い靴をはいてブルースを踊れ
踊ろう、あのラジオの曲に合わせて
踊ろう、顔を照らすライトと共に
人ごみを通り抜け、だれも居ない部屋へ行こう
逃げると言うのなら ぼくも一緒に逃げる
隠れると言うのなら
二人で隠れたい
ここでこのままきみが
ぼくの胸に泣き崩れ
花のように震えるとしたら
それはぼくにつらすぎる
踊ろう、凶運がさし迫っているのだから
踊ろう、安心な日々は今夜で終りなのだから
目と目をひたと見合わせたまま
踊ろう、月の光の下で
この、厳しい月の光の下で
きみは赤い靴をはいてブルースを踊れ
踊ろう、ラジオでかけている曲に合わせて
踊ろう、さあ、じっとぼくの目を見て
からだを揺すろう、月の光の下で
この、重苦しい月の光の下で
ROCKN’N ROLL WITH ME
DIAMOND DOGS
かろうじて調子を合わせたフリをして
生きている僕の正体を
何万人ものあいつらに見破られたとしても
冷たい黙秘の態度をとれるだろう
僕にはきみがいるからです
僕とロックしてくれるきみがいるからです
優しい心はますます無造作に
け散らされて行く
もうなにも見えない
音の中にもなんにもない
僕は息切れしそうに苦しい
しかし、もう迷ってはいない
突破口ははっきり見えている
あそこから脱出すればよいのです
ロックを聞いていると僕は自分が
このままで正しいのだと思える
それに すばらしいきみがいる
ああ 最近僕はわけもなく
泣けてきて泣けてきてしょうがない
Future Legends
(未来の伝説)DIAMOND DOGS概念訳
………そして、死が世界をおおった。わずかばかり残った屍体がぬかるみの路上で腐ってゆく。関りを断って貧しくひっそりと隠れ棲んでいた者達の建物のシャッターが、いま、ほんの数インチ開いている。また、窃みによって生き続けてきた者達の丘、その上からいまミュータントの赤い目が下の方にひろがる飢餓の都市を見つめている。
――そこにはもう自動車がなく、鼠のように大きな蚤が猫のように大きな鼠たちの血を吸い、およそ一万の奇形化人種がいくつもの小群族に分裂して、
いまや廃屋と化した摩天楼群の、一番高いのを争っている。――また一方で
は、かつてひ弱な人間達がもの欲しげにうごめいた大通りで、一群の犬たち
が店々のウインドウを襲い、ミンク、銀狐などの高級毛皮や宝石類を襲う。
毛皮は足を暖めるために、そしてエメラルドやサファイアは自分達のグルー
プのバッジとして……。――いまや、毎日がダイヤモンド・ドッグスの年だ。
「ロックなんか手ぬるいぜ。むしろ、
もうジェノサイド(みな殺し)だァ」
Diamond Dogs
(よくみてごらん、犬しかいない、という歌)DIAMOND DOGS概念訳
居心地のいい酸素テントから
きみはもうとっくに外に引っぱり出されているんだ
ごまかしちゃいけない
ここは戦場さ
きみだってきのうなんか
最新式の受験参考書なんか買ったじゃない
そうだよ
目をこすってよく見た方がいいよ
ここにはもう人間なんか生きてやしない
どぶ板の上をちょこちょこ走り
腐肉をあさる犬の群
生もみじめ
死もみじめ
ただただ極度に無責任に
都市を跳梁して生きるのみ
そういうふうにきみも
覚悟を決めた方がいいぜ
Sweet Thing
(女が男をセックスにさそう歌だよ)DIAMOND DOGS概念訳
ビルの廊下でしたって
だれもとがめはしないわ
都市ってそ~ゆ~ところなのよ
ドアのカーテンを破って
中の人にも見せてやりましょうよ
みんな心の底では
痛みのようなものを感じるはずよ
それはステキなことじゃない?
そう、私はこわいの
淋しいの
こうして今あなたを誘惑するのも
広場のまん中に走っていって
叫び声をあげるかわりなの。
心配しないで
とってもいいことよ
Candidate/Sweet Thing Reprise
(未来人候補生の、みじめな現状の歌)DIAMOND DOGS概念訳
後悔してるの?
無茶なことしたって?
だめよ、もう諦めなさい
いまさら自分をごまかすことなんか
できはしないでしょ
そうよ
欲しいのなら
いまとりなさい
いまつかみなさい
むつかしくはないのよ
高くはないのよ
やさしいことよ
もうあともどりは出来ないのよ
気持のいいことよ
お金はいらないわ
こんなこと
お金をもらうほどのことじゃないもの
私のこと気づかってくれて
とても嬉しいわ
こんなにいいことがもしも
二人の不幸の原因になるというのなら
いいの、わたし
あなたと一緒に死刑になったって
手に手をとって
流れに飛びこんだんだから
この安っぽいたわいない望みが
私たちにとっては
唯一至上の望みだったんだから
そうよ
覚悟を決めるべきなのよ
Rebel,Rebel
(子供にむかってのアジ)DIAMOND DOGS概念訳
子供たちよ
反抗できるのはせいぜい
きみたちだけなんだから
はたち以上の大人は今
もうぜんぜんダメなんだから
精一杯反抗して
きみたちが
未来社会の基礎をつくるんだ
そうだよ、やるべきなのだ
学校
に対しては
登校拒否を
貨幣制度に対しては
万引を
性の観念に対しては
×××を
でもこんなこと書くと
ロッキングオンも
「未成年教唆」で
とっつかまっちゃうかなあ
ヤバイなあ
だァめだなあ
Rock'n Roll With Me
(ロックしか納得できるものはない、という歌)DIAMOND DOGS概念訳
必然的に世をすねて
斜に構えて生きてきたぼくだけど
本当にいいものに
たったひとつ出会ったなあ
それはロックそして
いっしょにロックしてくれるきみ
そうさ
ロックの中にいるときだけは
生きてて良かったと思うんだ
きみとロックで結ばれてるときだけは
生きることは正しいと思えるんだ
優しさがなんの役にも立たない今の時代で
どうやって生きてったらいいのか
かいもく解らない世の中だけど
ロックだけはなぜか
すごくたしかな手がかりのような
気がするんだ
We Are The Dead
(なんにもできないぼくらは死人だという歌)DIAMOND DOGS概念訳
単に仕事の関係で知り合ったにすぎないけど、ぼくはふと、あなたの目の奥
をのぞいてみたい気がしたのです。あなたも、ぼくと同じことを考えてる人
かもしれない、という気がして。
つらい毎日。まるっきり不本意な毎日の生き方。死んでるのと同じなぼくた
ちだ。
(でも、いつかはきっと、こんなバカげた世の中なんかひっくり返ると思う。そうだよ、ぼくらの子供達を信じよう。)
ぼくらはいずれとっつかまって、牢屋にぶちこまれ、ゴーモンを受けて、転
向させられるかもしれないけど、しょうがないよ。いますでにぼくらは、死んでるのと同じなんだから。
1984
(いますでに一九八四年、世の中は凍結してる、という歌)DIAMOND DOGS概念訳
ここ数年ロックびたりで
ゴキゲンなぼくらだったけど
実はすでに
一九八四年になってるのかもしれない
気をつけろ
やつらはきみをつかまえて
きみの頭の中に
空気をつめこもうとしてるんだ
さからってもムダかもしれない
あせってもムダかもしれない
あのバカな大人たちが
そのバカさかげんのすべてを
きみに強制的に押しつけようと
がんばっているのだ
だからいますでに
一九八四年だ
ああ、乗り物が欲しい
逃げ出せるための乗り物がほしい
一九六五年頃の
希望と活気にあふれていた
あの時代がもう一度ぼくはほしい
Big Brother
(メサイアの出現を希求する歌)DIAMOND DOGS概念訳
ゴミやバラについて語るな
自分の花をたたきつぶせ
割れ裂けよ
そして
鋼鉄のように
無機的な強さを身につけよ
罪を犯したときから
すべては本当に始まるのだ
世を救え
七つの大陸を救え
「人間」を糾弾せよ
勇敢なアポロとなって
人間を恥辱の自覚の泥沼に
全員死滅させよ
つまり、きみ自身が
絶対に肯定的な存在になれ
でもわからない
だからといってどうしたらいいのか
いまのぼくにはわからない
そんなことは
まるっきりつまらないことのようにも
思えるし
ほんとに
ど―したらいいのかわからない
がいこつ家族の歌
(ワレワレの貧相な現状をずばりうたった歌)DIAMOND DOGS概念訳
ぼくらは死人ですらない
もはや骸骨
がいこつになると
だれがだれだが
よく見分けもつかない
だれがだれを愛してるのか
愛してないのか
そんなこともわからない
みんな兄弟みたいで
なんだかコッケイで
なんだべさ
コレワ?
そう
ぼくらがいこつ
がいこつ家族
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