泣くぞ すぐ泣くぞ 絶対泣くぞほら泣くぞ
綴るかぁ。綴らねばなぁ。今日の日を綴らずしていったい他に何を綴るというのか。そんな気がしているんだ。え、何があったって?聞いてくれる?聞いてくれるの?聞いてくれちゃったりするんですか?でも、そうだなぁ、みんなにはどこから話せばいいのかなぁ?どこから聞きたい?たとえばさ、この話があのスクエニの最高傑作と名高いFF-Xのシナリオくらいの長さだったとして、あのシナリオの本当の終わりが「すべてを超えし者」を倒すことだったとしよう。その場合はさ、じゃあどの辺からにする?おれは全然ビサイド島やポルト=キーリカのあたりから話し始めたっていい。それはちょっと…ていうならミヘンセッションのあたりにする?ルチルさんかっこよかったよな。それでも長い?じゃあ聖ベベルあたりからでもいい。エフレイエ強くてドン引きしちゃったよな。でもまあそんな所から話してたらこの夜が明けちゃうか、永遠のナギ節なんていつまで経っても来ないぜって?うるせぇよ笑。それじゃあさ、単刀を直入して快刀で乱麻を断つかのごとく話しちゃおっかな。いや無理だな。出来るだけ具体的に書こう。ザナルカンドくらいから。こんな経験をするのはこれで最初で最後かもしれないしさ、だから、ぜんぶ話しておきたいんだ。
おれは今日、社会通念上の「父」というやつになった。まだ出生届は出していないから、戸籍的にはもしかしたらまだ違うかもしれないのだけど、続柄的には「父」になった。同時に自分の「子ども」が誕生した。表象的な性別をその意味合いに含めるのであればそれは「娘」と呼称する対象だ。ところで、「父」という漢字の成り立ちを調べると、なんか棒をもってる人間の象形で、もともとオノを持つ男性を意味していたらしい。たしかにDQ8ではグレートアックスを道具として使用すると竜巻が出るという仕様だったから、おれのグレートアックスからも竜巻が出て、その因果律としての現象だったのかもしれない。でも、あの瞬間おれが見たものには、因果律の中に留めていいようなものでは無い、奇跡と呼んでいいような美しさがあった。
まあ奇跡と呼ぶと語弊があるかもしれない。奇跡っつーのは【常識では考えられないような神秘的な現象。神の示す思いがけない力。また、それの起こった場所。】を指すらしいので、「簡単に奇跡という言葉を使うな学派」の人々に「え?水をワインに変えたんですか?」とか怒られてしまう。だし、生命の誕生自体はもちろん生物学的にも医学的にも常識の範囲だろう。しかもあれを「神の示す思いがけない力」なんて言うやつがいたらその場ではっ倒してしまいそうだ。神なんて介在させるか。あの場で一番努力したのは間違いなくおれの妻で、それを正しい知識と精神的なケアで支えてくれた病院の方々の協力があってなされたことだ。どこまでもヒトの、ヒトによる、ヒトのための場だった。だから神なんてひょっこりすらさせたくない。でも、でもよ?赤ちゃんが産道を通ってぬるっと出てきた瞬間、ぶわあって涙が出た。うれしいありがとううつくしい、そしてようやくこの妻の苦しみが終わるのだという安堵、たぶんそんな感情が一気に押し寄せて、ぶわあだった。あれはもう、神秘だったと思う(神を介在させずに類似の表現をしたかったけどおれの語彙にはなかった)。
少し前日譚を話すと、今日は2022 1/8 で、もともとの出産予定日は1/27だった。トツキトオカを待たずして産まれてきた。というよりか、赤ちゃん視点で言うなら強制排出されちゃった感じになるのだろうが、その理由としては、妻が妊娠高血圧症候群になってしまったことがある。
何らかの理由で妊娠中期~後期くらいにこうして血圧が高くなってしまう妊婦さんたちがいるようだ。妻は年末もクリスマスの頃くらいまでバシバシ仕事をしていたから、それが響いたのかもしれない。もっと休ませてあげられればよかったとか、今になって思うが、まあおれも仕事から帰ってきて晩ご飯作ったり家事したり頑張っていたので悔いても仕方がない。おれへのストレスで高血圧になったのではないことを願うばかりだ。
で、母体が高血圧だと母の体に良くないばかりか胎内の赤ちゃんにも悪影響が出るのだそうだ。発育不全とか、酸素が供給できなくなるとか。だからまだ小さいけれど産んでしまった方がいい。という診断結果だった。
それを聞いたのが1/4。おれは仕事始めの会議の直前に「詳しいことは帰ってきてから話すから今日は早く帰ってきて」という妻からのメッセージをもらった。不穏すぎるし、今日は日番だから最後までいなきゃいけないしとか、そもそも一体何が…とかいろいろ考えて全然会議なんか集中できないまま(そもそも会議に集中したことなどないけれど)、終わってすぐに電話した。高血圧症候群であること。最短で明後日の出産になること、状態によってはいまかかってる産婦人科では産めず、大きな病院に移らないといけないかもしれないということ、お腹の子は2500gを下回っており、低体重出生児となること。順調に進んでいると思っていたさまざまが、がらがらと音を立てて崩れていった。ジェンガの塔の上にいて、足場を1個ずつ抜かれていくような、そんな不安を感じた。妻の不安はその比ではなかっただろう。とりあえず事情を管理職に話して、翌日の午後から仕事を休めるようにしておいた。
翌日の診察でとりあえずいまかかってる病院で産みましょうということになった。妻は環境の変化に敏感な人なので、自分で選んで、信頼している医師のもとで産めたのはよかった。
1/6 入院の準備をして産婦人科に向かった。準備を手伝ったり、必要なものを調達することくらいしかおれにはできなくて、出産という営みにおいて夫ができることは本当に少ないんだな、と実感した。
1/7 朝から促進剤を飲んだそうだ。身体に合わないらしい。コロナの関係でおれは病院にいられないこともあり、いつでも連絡が取れるようにしたうえで家の掃除をしていた。結局、その日は促進剤を投与しても状況は変わらず、陣痛は来なかった。このとき子宮口は4cm。膣に手を突っ込んで確認されるらしい。想像しただけで悶絶する。
1/8 朝からまた促進剤を投与。入院している部屋ではなく分娩室にいるということで、行ったら両腕から管が繋がっていてびっくりした。片方は促進剤で、もう片方は降圧剤だそうだ。右手首には針を刺し直したシールが貼ってあって、太い針を刺されたとぷりぷりしていた。20Gと書いてあったので採血用の針ぐらいで何を、とも思ったが、高血圧でむくんでいるせいでゲートがなかなか取れず、刺したうえでグリグリされたらしい。おれは注射嫌いなので想像しただけでウッとなった。
分娩室の天井からはロープが垂れていて、なんかこれに捕まると捗るらしいんだけど(何が?)、見知らぬ天井にこんなロープが垂れていたら処刑用にしか見えんだろ…と1人戦慄していた。
その日のMAX量の促進剤を投与したが所見は変わらなかったそうだ。おれも妻もひきこもり体質なので娘にも遺伝したかもしれない。まだ出たくないよと言っているのかもしれない。
しかし、高血圧の母体を放置するわけにもいかず、破膜といって人工的に破水させる処置をするかどうかの審議になった。破水させるとタイムリミット(羊水がなくなるので感染症のリスクなどが高まる)が生まれるかわりに陣痛が来やすくなるのだそうだ。それで陣痛が来なかったら帝王切開になる。妻はそれならいっそ最初から帝王切開でもいい、と言っていた。
院長の内診があって、破膜させてみましょうということになり、妻は陣痛室へ、おれは分娩室で待機となった。
陣痛は来た。陣痛室に行くと、薄暗い部屋で妻は分娩台に乗っていた。分娩台ってのはあの足を広げて乗っけるとこがあるベッドみたいなやつ。両腕の管の他にも、指にはパルスオキシメーターが、バイタル測定器には140-100と出ていてなるほど血圧が高い。そしてお腹には張りを測定する聴診器みたいなやつと、赤ちゃんの心拍を測る聴診器みたいなやつが2本、ベルトで巻き付けられていて、記録用紙が機械から吐き出され続けていた。
破膜をさせたのがだいたい16時とかだったはず。そこから妻は苦しみ続けた。おれは賢いので、お腹の張りを測定する機械が打つ波の、山のところがどうやら最も痛い時なのだと瞬時に理解した。だからその波が来た時に手を握ったり、お尻を押したり(肛門にクる感じがあり、軽く押すと少しマシらしい)した。血圧が上がるから痛くても叫んではいけないらしい。痛みに集中してしまわないよう少し目を開けて、フーーーッと息を吐いて痛みに耐える。赤ちゃんがお腹の下の方にに降りてくると陣痛の波の感覚は狭く、強くなっていった。それに比例させて降圧剤と促進剤の投与割合も増えていった。17:30、妻は仰向けがしんどいらしく横を向いて痛みに耐えていたのだが、時々仰向けにさせられて、子宮の開き具合を測られていた。血も出ていておれはまじまじとその様子を見ることができなかったのだが、どうやらその触診がえらく痛いらしい。看護師さんが「7 -1(ナナ マイナスイチ)」と言っている。どうやらこれが現在の子宮口の直径で、陣痛が来た時とそうでない時の伸び具合の違いが2つの数字に表れているようだ。これが10cmまで開かないと最後の「いきむ」ってやつにトライできないらしく、もう1時間半痛みに耐えている妻は「まだ続くの!?」とキレていた。
18:50 血圧の上が170,180あたりまで来ており、頭が締め付けられるような頭痛を訴えている。急いでもう一本右手にゲートを取り、多分なんか弛緩剤みたいなものを投与している。看護師さんの内診では「上がまだ硬い」と言っていて子宮口の開き具合の数字がなかなか10に届かない。血圧が高いこともあり、産道も硬くなっているらしい。詳しいことは分からなくても、この数字が1つずつ大きくなることがおそらく妻にとっての希望だったのだろう。陣痛の波が落ち着いた時(多分それでも痛い)に、「10いった!?まだ!?」と聞いていた。汗なのか涙なのかよく分からない液体で顔がびしょびしょだったからちょくちょくタオルで顔を拭いてあげていたのだが、「余計なことをするな」と言われてしまってシュンとした。それから指示されたこと以外はしないことにした。頑張っていることは知っているので、頑張れとも言わず、ただ一緒に痛みに耐える呼吸をした。全集中の常中である。
19時を過ぎて、「よし、準備しよう」という掛け声とともに院長とその他スタッフが呼ばれ、2人体制だった陣痛室が一気に5人になった。いろんな道具も運ばれてきて、おれはいる場所がないので妻の枕元でいっぱい伸びてるコード類を踏まないように小さくなっていた。院長は吸引器の準備をしていて、なんか金属のカップに管が延びていて「スコーッ」って音がしている。多分あれに赤ちゃんの頭をくっつけて引っ張るんだ。「え!?マジで!?そういう感じ!?」とおれは内心ヒヤヒヤした。そのあとはなんかベテランらしきおばあちゃん看護師さんが踏み台と分娩台に昇って上からいきむと同時にお腹を押していた。めちゃめちゃ仕事人感あった。急ににぎやかになった陣痛室ではさまざまな指示が飛び交う。なんか想像してたんと違う、みんなで「ヒッヒッフー!」を唱和するラマーズ少年合唱団が編成されないことを残念に思いつつも、妻には陣痛が来たら2回深呼吸のあとに大きく息を吸い込み、止めていきむという指示が与えられた。4回ほどそれをやってから、院長が「降りてきたねー、次いってみようか」と言った。それから「ちょっと切るよー、痛いけど我慢ねー」と言って会陰切開をした。麻酔なしでだ。男には分からんが、多分、蟻の門渡りと呼ばれるあの金玉の裏から肛門にかけての部分を切られる感じだ。これまた想像しただけでヒュンッてなる。ヒュンッ。
でも多分そんな痛みなど瑣末なことに思えるほど陣痛の痛みの方が激しかっただろう。妻は最後のいきみを行い、カップに吸い付けられた赤ちゃんがヌルッと出てきた。なんかもうめちゃめちゃあの瞬間が何度もフラッシュバックする。本当に真っ赤でヌルヌルで、カップを吸い付けられたものだから頭が変形した赤ちゃんが出てきた。タオルを挟んで妻のお腹の上に乗せられ、おれはへその緒を切らせてもらった。本当に何もできなかったおれへの、参加賞のような感じがした。へその緒はなんかプルプルしていて、クリップとクリップの間みたいな白いところを切った。塩ビのホースの柔らかいやつみたいな感じ。でもこれで、大きくなった時に「あの時はおれもあの場にいて、へその緒切ったのはお父さんなんだよ」と言えるのか、と感慨深くも思った。ありがとうございました。
そうやっておれが赤ちゃんの誕生に感動している間にも妻の戦いは続いていて、胎盤を出したり、切開した会陰を縫ったりという処置が続いていた。胎盤はプラセンタの宝庫なので食べたら滋養にいいしレバーみたいな感じで美味しいらしいのだが、出る瞬間を見たらあれを食べようと思った人間はどういう感覚をしているのだろうかと思った。
おれの役目は一旦終わったので別室で待機し、妻の処置が終わってからもう一度赤ちゃんに会わせてもらった。抱っこした。2178g。想像してたよりずっと軽くて、ずっと重かった。2500g未満は低出生体重児だからということで(この話前にもした気がするわスマンネ)、保育器に入るらしい。生まれてすぐは分からなくても、目や心臓にリスクを負う可能性があるらしくて、とても心配だ。多少小さくたって構わないから、健康に育ってくれたらいいな。そんなわけでおれはお父さんになりました。こんな未熟者ですが。なんか妻はしっかりしてるので守る対象っていうかむしろ一緒に戦ってくれる仲間って感じなのだけど、この子は守らないとな、少なくとも自立二足歩行を覚え、ある程度母語を習得するまでは。お父さん今日もグレートアックス持って山で木を切ってくるね。ティーダ視点で遊んでたFF-Xも、今ならジェクト視点で楽しめるかもしれない。
てなわけで、われわれのちいこ命、爆誕しもいた。これからの活躍にご期待ください。がんばろね。
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