これまで書き落としたことのまとめ,2024年8月15日
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注意
これらの重要な展開を明かします。特に、PG12指定の映画『シン・仮面ライダー』、『仮面ライダー THE NEXT』にご注意ください。
漫画
『真実のカウンセリング』
『マンガで分かる心療内科 うつを癒す話の聞き方』
『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』
『らーめん才遊記』
『ドラゴンボール』
『ドラゴンボール超』
『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE』
『デビィ・ザ・コルシファは負けず嫌い』
テレビドラマ
『相棒』
テレビアニメ
『ドラゴンボール超』
特撮テレビドラマ
『ULTRASEVEN X』
特撮映画
『シン・仮面ライダー』
『仮面ライダー THE NEXT』
小説
『はじめての例』(星新一)
『華やかな三つの願い』(星新一)
はじめに
今回は、「努力と悪事の両立」、「裏切りの是非」が軸になります。
「怠惰が最大の罪」という論理は戦争の努力すら正当化しかねない
『真実のカウンセリング』で、「怠惰が人類最大の罪」という記述がありましたが、何を根拠に話しているのか、努力さえしていれば他で悪いことをしても怠惰よりましなのか、など、様々な反論の余地があります。
その上、それは「あなたが成功しないのは怠けているから」という趣旨のもので、まさしく『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』で言及された、「失業や貧困で苦しむ人間を怠け者というビジネスエリート右翼」の発想がみられます。
さらに今回考えたこととして、そもそも「努力と悪事が両立する」人間も多々いることです。
『ドラゴンボール』の悪役は、鳥山明さんが『ドラゴンボール超』の漫画版で言及したような「絶対悪」ばかりですが、皮肉にも、ほとんどが「努力」をしています。
ドラゴンボールで世界征服を狙うピラフはコミカルな努力家でもあり、レッドリボン軍も総帥のレッドを除けば命を懸けており、多数犠牲になっていることを副官のブラックが指摘しています。天津飯、ピッコロ、ベジータは悪役の頃から修行はしています。フリーザはトレーニングこそ『ドラゴンボール超』までしていなかったものの、組織を管理する努力はしていないとは言えません。セルも修行したかはともかく、痛みを伴う再生による強化はしていますし、何より魔人ブウは、分裂した「善」と「純粋悪」の両方が「よくやった」、「がんばった」と認められています。
『ドラゴンボール』の悪役で「怠け者」と言われたドドリアにしても、そう発言したベジータは悪い意味で「努力家」だったと示されています。
これらの「努力する絶対悪」が、怠け者よりましなどとは言えないはずです。
また、『相棒』の神戸が初登場した回では、障害の代わりに一部の分野で優れた能力を発揮するサヴァン症候群の人間が、普段「現実の動物の絵」しか描かないのが、怯えて帰って来て「人間の遺体の絵」を描いたのが目撃証言として成り立つか議論になりましたが、そのときに「弱者の怠惰」も描かれています。
その目撃者は、ネズミの背景として人間の遺体を描いていただけで、そもそも遺体として認識しておらず、怯えていたのは犯人に追いかけられたためでした。つまり、「他人の危険には鈍感で自分の危険には敏感」で、「目の前の遺体に救急車を呼ぶなどの努力もしない怠惰」な状態の「弱者」だったのです。
しかしこれにしても、直接助けない弱者より、そもそも殺人犯の方がはるかに悪いはずです。
さらに今回考えたこととして、戦争もある意味で、「悪い努力」のはずです。
戦争での戦いを命じる政治家や軍の幹部はともかく、兵士は「現場でがんばっている」はずであり、その兵士が全く悪くないという人は、現代日本にはほとんどいないでしょう。一般基準で戦争の悪さは、「人が人を殺す」ことであり、「がんばっているか」は関係ないはずです。
しかし、『真実のカウンセリング』と同じゆうきゆうさんの『マンガで分かる心療内科 うつを癒す話の聞き方』では、コミュニケーションをテレパシーで行っていた宇宙人が、病気で出来なくなったことで苛立ち「戦争」を始めた、国王がやめろと言っても従わないという、あたかも「国民の怠惰が戦争を起こす」かのような扱いです。
そもそも惑星の宇宙人が、全体を統括する国王の命令にない暴力を互いに振るうのでは、「戦争」ではなく「暴動」が近いはずであり、戦争とは本来、「味方のために、政府の命令で敵国の人間を攻撃する」ことです。その責任は政府にあるのです。
その辺りが見えておらず、政府ではなく国民だけが、怠惰で戦争を起こすかのような『マンガで分かる心療内科』は、「怠惰こそ最大の罪」という根拠のない論理を押し通すあまりに、暴動を戦争に見せかけ、権力者の責任を曖昧にして、努力家こそが戦争の悪を引き起こすという当たり前の論理をごまかしています。
クモオーグの「人間が嫌い」や「努力の罪」
『シン・仮面ライダー』漫画版『真の安らぎはこの世になく』では、展開が本編に追いつき、特にクモオーグの内面や周りの描写が掘り下げられています。
「人間が嫌い」というのは、ゲイとして愛する人を助けられず、差別する周りに合わせてしまった後悔だったようですが、最終的に「私がもっとも葬りたいのは、私という人間なのです」と考えていたようです。
この瞬間の本編の言動では、自らが「人間を捨てたオーグメント」になり、「オーグメントのために人間を殺すのが私の幸福」と言いつつ、人間よりは強化されているらしい、自分の下級構成員を殺した敵のバッタオーグに「あなたも人間を殺す幸せを知りましたね」と言い、そのバッタオーグを殺すことも「幸福」の一部と主張していました。
しかしこれは建前で、本当は漫画版のイチローに「お前はどこまでも人間だよ」と言われたことを、「私という人間を葬りたい」という考えに結び付けていたのが本心だったようです。
ちなみに本編で、バッタオーグの跳躍により、クモオーグが「不利な空中戦」に持ち込まれたことについて、「糸を吐きかける抵抗は出来たのではないか」という指摘も見た記憶がありますが、結局のところ、クモオーグは、ハチオーグがのちに語るように「自分を殺してほしかった」のかもしれません。
しかし、いずれにしても、クモオーグも、漫画版で、イチローよりは鍛錬を続けていたようですし、イチローも戦い以外の努力はしていたものの非合法活動をしながらでしたから、結局、『真の安らぎはこの世になく』でも「努力と悪事」の両立は描かれています。
「裏切り」は絶対悪なのか
また、『真の安らぎはこの世になく』で気になるのは、「裏切り」の是非です。
元々「悪の組織の裏切り者」として始まる要素の多いらしい仮面ライダーシリーズにおいて、「裏切り」を絶対悪とする人物が、「悪の組織」として仮面ライダーを処分するのを正当化することも多いかもしれません。
しかし私が個人的に感じるのが、「裏切られても仕方がないときもあるのではないか」、「裏切りさえしなければ良いのか」ということです。
裏切りとは、約束を破ることなのでしょうが、現代日本では、それを絶対悪として、「約束さえ守れば何をしても良い」というような風潮もみられます。
『ドラゴンボール超』や『デビィ・ザ・コルシファは負けず嫌い』など、人間の命を軽んじる神や悪魔に、何らかの勝負や約束を持ちかけて、その発言を逆手に取り、弱い人間が出し抜く物語もあります。
古くは、星新一さんの『はじめての例』、『華やかな三つの願い』などで悪魔を人間が、悪魔自身に関する願いで困らせるのもそうでしょう。
おそらく、約束を絶対視するのは、価値観の多様化や「何が正しいことか分からない」、周りの人間を信用出来ない不安などから、「相手の心配を一切しない、倫理観の一切ない100パーセントのエゴイスト」でも、過去の自分の発言だけは「エゴの一部」として尊重すると推測して、その「約束」で相手に歯止めをかけたいのでしょう。
古くはそのような複雑な論理で、強者を黙らせる爽快感や痛快さがあったのが、近年は、詐欺のような手口で、弱者をだまして、過去の約束を逆手に取り苦しめるのを、「そう発言した弱者が悪い」と正当化する主張に、『ドラゴンボール超』なども堕ちているかもしれません。
『ULTRASEVEN X』で、地球の人間を侵略のために働かせたりその生命のエネルギーを吸収したりするマーキンド星人は、その目的を知りながら協力する人間にしかそうさせず、嘘はついていないようでした。ウルトラシリーズで珍しく侵略に地球人類が協力し、「私を倒すならこの人間も倒すのか?」と主人公に問いかけるのも、「私は彼らを裏切っておらず、彼らの方が地球人類を裏切っている」ということでしょう。
そして、仮面ライダーシリーズでも、仮面ライダーが完全に操られて、その支配から脱したのを「裏切り」というのは不正確でしょうが、『仮面ライダー THE NEXT』の風見など、自ら陶酔するように従った仮面ライダーが「裏切る」例もあります。
そのときに、「一度でもこちらに従ったからには、こちらが一般基準でどんなに悪くても従うのが約束だろう。裏切る方が悪い」という論理もありそうです。
その論理が極端になったのが、『シン・仮面ライダー』のK.Kオーグの「裏切りは人殺しより悪、敵討ちは人助けより善」という主張かもしれません。
一応「人殺しは悪」という一般倫理を持つ彼が、「それよりも裏切りが悪」という論理になったのも、近年の日本の「約束はどんな倫理より優先だ。過去の発言を何より守れ」という、一見筋が通っているようで、詐欺師などに有利な「堕落」かもしれません。
なお、K.Kオーグは漫画版によると、自分が致命傷を負わせた、そのときまで自分を知らなかったルリ子と同じく、ショッカーに育てられた、「外の世界を知らない」オーグメントだったようです。
ルリ子が「外の世界」を知ったことで、「生みの親の組織や兄を裏切ってでもしなければならないことがある」と認識したこと、K.Kオーグがそうなれなかったことに、何かを見出せるかもしれません。
なお、飲食ビジネスを描き、「シニカル」なところも多い『らーめん才遊記』では、タンメン店の後継者を決めるための模擬営業で、「店主の夫妻は、模擬営業の間は後継者候補の営業の指示通りに行動してほしい」という約束だったのが、2人目の候補者があまりにも客に迷惑をかけるので、その約束を中断し、「シニカル」で通っている芹沢ですらそれに同意しており、「約束は絶対」とは認識していないようでした。
まとめ
多くの物語にあるようである、「努力は良いもの」、「裏切りは何より悪い」という論理の落とし穴を今回扱えたと考えています。
参考にした物語
漫画
ゆうきゆう(原作),ソウ(作画),2020-(発行期間,未完),『真実のカウンセリング』,少年画報社(出版社)
ゆうきゆう(原作),ソウ(作画), 2017,『マンガで分かる心療内科 うつを癒す話の聞き方編』,少年画報社(出版社)
井上純一(著),アル・シャード(監修),2021,『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』,KADOKAWA
久部緑郎(作),河合単(画),2010-2014(発行期間),『らーめん才遊記』,小学館(出版社)
鳥山明,1985-1995(発行期間),『ドラゴンボール』,集英社(出版社)
鳥山明(原作),とよたろう(作画),2016-(発行期間,未完),『ドラゴンボール超』,集英社(出版社)
山田胡瓜,藤村緋二,石ノ森章太郎,庵野秀明,八手三郎,2023-,『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE』,集英社
平方昌弘,2020-2024,『デビィ・ザ・コルシファは負けず嫌い』,集英社
テレビドラマ
橋本一ほか(監督),真野勝成ほか(脚本),2000年6月3日-(放映期間,未完),『相棒』,テレビ朝日系列(放送)
テレビアニメ
大野勉ほか(作画監督),冨岡淳広ほか(脚本),畑野森生ほか(シリーズディレクター),鳥山明(原作),2015-2018,『ドラゴンボール超』,フジテレビ系列(放映局)
特撮テレビドラマ
八木毅ほか(監督),小林雄次ほか(脚本),2007,『ULTRASEVEN X』,TBS系列(放映局)
特撮映画
石ノ森章太郎(原作),庵野秀明(監督・脚本),2023,『シン・仮面ライダー』,東映
田﨑竜太(監督),井上敏樹(脚本),2007,『仮面ライダー THE NEXT』,東映
小説
星新一/作,和田誠/絵,2005,『宇宙のあいさつ』,理論社(『華やかな三つの願い』)
星新一,1985,『夜のかくれんぼ』,新潮文庫(『はじめての例』)