外科医の考察…医学部の性差別
以前、巷を賑わした話題。
そして現在、何かと話題になる性差別。
今日は、この問題について私見を記そうと思う。
私が卒業した底辺私大は、過去のニュースで大々的に話題には上らなかった。けれども勿論、男性の方が多かった。恣意的な人数調整が行われているかは知らない。
世論では、医学部入学者の男女差は、性別差別であり糾弾すべき事として扱われていた。一方で、実臨床で働いている身としては、周囲の女医も含めて、その男女差は当然として受け取っている人間が多い。私自身、『そんなに騒ぐことか?』と驚きを隠せなかった。
それは、医者という職務と、医学部入試の特殊性が挙げられると思う。
医者の職務
まず、医者の仕事であるけれど、ごく一般的なキャリアとして、20代半ばで医師国家試験を受け、2年間の初期臨床研修に入る。その後、専攻医として研鑽を積み、5~8年目くらいに専門医を取得、そこからさらなるスペシャリストとして働いていく。いわゆる独り立ちの時期は、科によって大きく変わり、早いところだと7~8年目で病棟freeとなり、上級医扱いになる科もあれば、私なんかはもう40台だが、規模の小さい高齢化の進む診療科で下っ端として、病棟、緊急の最前線にいる。後輩などいない。
さて、その中で、どのタイミングでプライベートを進めていくか。これは男女共に難しい問題だが、出産というイベントのある女性は特に難しいところだと思う。なんとなくの印象だが、男性より女性の方が早く結婚する印象はある。
これを男女差別だという輩は放っておいて、女性はやはり出産を考えた時に若いということは有利であることは医学的な事実であるので、その辺りを考慮しているものと思う。一方で男性は、安定した経済力というのが一つweightを占める要素になるので、『これで食べていけるな』と感じる専門医をとる前後辺りになってくるのかと推察する。
中にいる人間として、それなりの医者のキャリアを見ているが、男性で育休をとった人間は病院にもよるが、まだ片手で数えられる程度だ。それも1か月そこそこ。育休の制度を否定しているつもりはないが、男が1か月育休をとったところで、どれだけ家庭にコミットできる?巷では、女性からの意見で、男性の育休はむしろ迷惑だという意見まである。子育てで大変な時期はもっと長いし、1か月の育休よりも、長期に家族の求めに応じて臨機応変に対応できるフレックス勤務の方が家庭からは重宝されると思う。
じゃあ、これを医者の業務から考えてみる。
この時期、男性は専攻医から中堅医にかかるくらいで、いわゆる実働部隊の最前線にいる。何でもとりあえず最初に仕事が降ってくる立場。働き方改革とは異次元に存在しており、24時間365日on callである人も珍しくない。
育休1か月という期間限定で穴をあけることは許されても、長期に家庭を優先させられるような立場にはいられない。そもそも能力をのばしていくことにおいては、穴をあけることもデメリットになる。1か月臨床から離れた後の最初の手術、ずっと継続してキャリアを積んできて毎週手術をやっている人の手術、どちらを受けたいですか?男性でもこんな状況。
女性だともっと顕著だ。産休、育休をとると、どうしても男性より長期にキャリアの空白ができてしまう。期間や育児状況では、そのままスムーズにもとのキャリアに戻れない。ある意味“リハビリ”が必要になってしまうだろう。リハビリをしても、育児との兼ね合いで、実働部隊の最前線の働き方が難しくなってしまうことは少なくない。
じゃあ、実働部隊の最前線に立たなくても臨床能力向上が進められる環境にすればいいじゃん!うん、ごもっとも。
でも、どこの科でも出来るわけじゃない。むしろ、僕ら外科は最前線で自身が死にそうな働き方して実力がつく。『穿孔は、緊急なんで、家庭的に無理です。ましてや病院に予定外に泊まるような集中治療はできません。』『PDは終わるころには保育園の迎えがあるので無理です。』これじゃ、能力向上は難しい。結局、そんな科は不人気になっていき、科の偏在が進行するわけだ。
もちろん、女性で出産、育児をしながらも研鑽を積み、専門医どころか、指導医として活躍されている、極めて優秀な医師も数多くいるし、女性という性が利点になる科もある。産婦人科や小児科、その他の科でも女性の患者さんで女医を希望する方はいる。けれども、キャリアという点では、必ずしも有利とはならない。私は初期研修医の際に産婦人科をローテートした。当時は私も元気で、グレードAのC/Sなんて、無責任な癖に真っ先に呼んでもらってた。すんごくサバサバした指導医の女医さんからも、とても可愛がられ、勧誘というか、温かい言葉を頂くことはあった。『先生は男の子だから、うちなら出世しやすいよ。』その先生も相当上だが、男だとさらに有利なのかと思った。とは言っても、以前“医者のキャリアと学歴”で記したように底辺私大卒の私には限界はあるのだが…
医学部入試の特殊性
一方で、医学部入試の特殊性もある。一般大学の入試は“大学”への入試である一方で、医学部、薬学部、看護学部、あるいは航空操縦学科等、一部の学部・学科は“資格職”への登竜門的な位置づけになる。要は、“入職”試験の第1段階に相当する。最低限の学力と共に、将来的に臨床医として、仲間、部下として使えるか、という教授陣の主観判断も入る。これは当然ではなかろうか。
一般企業の入職の試験・面接でも、募集している業務の内容で、若干の性差を考慮することはあるだろう。それを医学部では大学入試の時点で行っているということ。
仮に、男女比イーブンで考えてみる。
専攻医として男2人、女2人がある科在籍している。女性の方が早く、その専攻医の間に結婚し妊娠した。産休に入り、今まで4人いた実働部隊が半分になった。基本的には患者は減らない。男2人は単純に仕事が倍になった。それだけでない。上司の数が変わらなければ、“働き方改革でチーム制?ちょっと待って!!”で記したように、専属奴隷制にもなりかねない。男性の1か月そこそこの育休は耐えられても、産休育休の1年となると、体制変更が必要になる。
まぁ現実的には、専攻医が減った分、多少の患者制限をかけざる得ないだろう。
その産休、育休中の給付金は社会保険や自治体から払われれる。年次にもよるが、医者であり、決して少なくない金額だろう。
問いかけ
さて、貴方が科だけでなく病院の発展、売り上げ、そして医学の発展…というか、もはや発展ではなく医療体制の維持を考えなければいけない、大学病院教授だとします。さて、入学試験の点数で合格最低点で並んでしまった。
① 学生時代運動部で体力ありそう vs 手先は器用そうだけど、体は細く体力はなさそう
② 外科等の不人気でキツイ科志望 vs 比較的定時に帰れる科や“直美”志望
③ 男 vs 女
どう、考えますか?