医者の役職、キャリアについて
教授、診療科長、指導医、講師、専門医、医長、助教、専攻医、医員、研修医などなど。。。
病院のホームページを開き、診療科のスタッフ紹介の欄を見ると、実に様々な役職があることに気付かれると思います。
ドラマで話題になる“医局”のあり方や、“研修医”、“専攻医”などの役職も働き方改革で、しばしメディアから流れる単語になってきたかと思う。
今日は、医者のキャリア、役職について話そうと思います。
早速ですが、これが一般的な病院組織図です。
いわゆる総合病院には、診療科があります。
内科系なら、消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、糖尿病・内分泌内科、腎臓内科、神経内科、膠原病内科等々…
外科系なら、消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、甲状腺外科、乳腺外科、泌尿器科、脳神経外科、整形外科、眼科、耳鼻科等々…
その他にも、救急科、麻酔科、放射線科、感染症科、病理診断科等、種々の診療科があります。
大学病院でも市中病院でも、その診療科の頂点は教授や診療科長で、その上に病院長、副病院長が位置します。病院長や副院長は診療科長を兼任していることもあれば、さらにその上の存在に位置することもあり、これは病院によると思います。
卒後キャリアの時系列で、中堅最下層の私が、これを説明していこうと思います。
一般的には
① 初期研修医→②専攻医→③中堅医→④上級医という流れで、だいたい4つに分けると分かりやすいと思います。
① 初期研修医
大学医学部卒業後2年間は、初期研修医という立場になります。これは研修病院で、種々の診療科を1か月程度ずつ回っていきます。あらゆる範囲で基礎的な診療能力を身に着けるという名目です。
医学部学生時代に、初期研修を行う病院を“マッチング”というシステムで決めます。初期研修病院は定められた範囲で、研修プログラムを組み、学生のリクルートを行います。人気のある病院はブランド病院なんて言われ、高倍率になります。
初期研修医は、外勤…いわゆるアルバイトは認められていません。ネット情報では、平均年収は300~500万程度だそうです。私も…だいたい月25万程度でした。それに若干の当直代が加わる感じでした。ちなみに基本的に残業代は付きません。私が初期研修を行った病院は、当時そもそも申請の方法やタイムカードなんてシステムがありませんでした。その他も、知人、友人、後輩に聞くと、『最初のオリエンテーションで、月30時間までしか残業代は出さないって、言われました。』とか、『当直回数や実働時間は少な目に嘘を書くように言われました。』なんてのはよく聞く話です。
病院側からはそんな対応ですが、我々診療科に属する人間からすると、初期研修医は大切なお客様です。正直staffとしての労働力には数えられないし、教える手間というのもあるけれど、自分の科に興味を持ってもらえることは純粋にうれしい事です。また、自分の科を見てもらうことで、宣伝ができること、逆にどういうところで自分たちが苦労しているのか、どのタイミングでコンサルテーションをすべきなのか、そういう事を学んでもらえると、今後の仕事がやりやすくなります。
また、あくまでも“お客様”なので、過度な労働を強制されることも少ないです。勿論病院で決められた当直や救急外来の当番はありますが、時間外の突然の急患での招集“義務”まではないことが多いです。その科、その科で、急患が来た時の取り決めはあっても、初期研修医を招集しないと急患対応ができないというのは、些かお粗末な印象がありますし、心象に差はでますが、来ないからと言って、それを叱責する気もないです。
私は真っ当に研修医に残業代を払っている病院で働いたことがないので、何とも言えませんが、常識的な時間なら、多くの研修医は自科を研修中ならば『今から緊急来るけどどうする?』『今から緊急手術だけどどうする?』って聞くと、来てくれます。
呼ぶ方としても、正直パワハラと捉えられないかヒヤヒヤしているのも事実です。
あとは、立場が守られているのもいい事です。基本的に責任は持たせられない。だから、上級医がgo sign出せば、色んな処置を怖がらずに出来ます。その分、“判断”を任せることも出来ない所はあるので、医者としてのやりがい・よろこびという部分は、十分に体感できないかもしれませんが…
私が後輩から初期研修先の選定で相談を受ける時、勧めているのはクソ忙しくても兎に角臨床で色々な手技・経験ができて、ちゃんと残業代をもらえるところがいいと答えてます。
② 専攻医
そんな立場的には守られた初期研修医を経て、3年目となり専攻医、専修医、医員、後期研修医と呼ばれる立場になります。自分の診療科を決めて、そこでの専門的な研修が始まります。
以前は大学医局と呼ばれる、大学内の診療科に入局し、とりあえず籍を置くことが一般的でしたが、昨今は直接自分で病院を決めて、そこに属することも増えてきています。
病院を選択すると言っても、専門医を取得するためには指定された修練病院である必要があり、修練病院は一定の要件を満たしている必要があり、多くは一般市中病院以上の規模に限られてきます。
そんな専攻医の最初の目標は、“内科”や“外科”と言った基本領域の専門医をとることです。内科認定医や外科専門医がこれに相当します。内科系の先生は消化器、循環器、呼吸器等々の色々な専門分野の疾患について、規定の臨床経験をこなす。外科系の先生は、消化器、呼吸器、心臓血管等々の色々な専門分野の外科手術に入り、規定の症例数をこなします。自分が籍を置く、医局や病院診療科が、関連病院や診療科に計らって、これらの規定症例をこなせるようプログラムを組んでいます。一方で、いわゆるマイナー科とよばれる診療科は、基本領域がその○○科専門医というものに相当することもあります。
そして、規定の症例数と経験年数、学会発表等を経て、試験を受けます。診療科にもよるけれど、だいたい5~10年目くらいです。
それをパスした後は、サブスペシャリティ…要は専門領域の専門医試験のための修練になります。○○科専門医、××外科専門医なんて名前が付くもので、消化器専門医、消化器外科専門医、循環器専門医、心臓血管外科専門医、呼吸器専門医、呼吸器外科専門医などです。これは先の基本領域資格を取得後にさらに規定経験年数と症例数を稼ぎ、学会発表や論文執筆を経て、受験資格を得ます。試験そのものはそれなりに難易度は高く、科によっては6割ほどの合格率のこともあるようですが、個人的には自分の専門分野であり、系統立てて勉強することもできたので、基本領域ほど苦しくはなかった覚えがあります。
この前後あたりから、限定的な部分はありますが、疾患によっては患者すべての診療マネジメントを行うことができるようになってきます。だいたい7年目以降になってきます。
この3年目以降が、本当に大変で…
実働部隊の最前線です。24時間365日完全なduty freeになることがなく、PHSの音の幻聴が聞こえ始めます。
上の方の先生が『俺が若い頃は…』とか言ってたら、その若い頃はこの辺りの立場の時です。
給料も、外勤や残業ありきで基本給は初期研修医と大して変わらない…むしろ、メインの常勤病院からの基本給は初期研修医より低かったです。なので残業代をちょろまかす病院では、“お医者様”の給料とは程遠い。
そんな中でも、
『今日は日曜日!今日は先輩が当番だ!午前に回診すれば、午後から恋人に会える!』なんて油断してたら、携帯電話が鳴り、
『先輩先生から伝言です。先輩先生、処置中なんですが、もう少しで救急車来るので、対応お願いします。』なんて、心が無になる連絡が来たり…
で、恋人からは『最近、すれ違ってばっかりだね。ここ最近会えてないね。今日も結局会えなかったしね…今日はね、もうそろそろ終わりにしようって言おうと思ってたの』とか、言われる。
それが、3年目以降。いつまでかというと、後輩ができるまで。
③ 中堅医 助教・医長
サブスペシャリティの専門医を取得し、ある程度の事は自分でできる世代。働き盛りと言ってはアレだが、30後半から40台くらい。外来、病棟、手術と一通り自分でマネジメントをしていきます。簡単な治療は後輩に教えながら、高度な技術を要するものは上級医に教わりながら。
そして、症例をこなして、専門医のさらに上の指導医の資格を視野に入れ、修練を続けます。
上司からの無茶ぶりが減る分、自分のペースで仕事ができるようになってくるので、責任は増えるものの、ストレスはだいぶ減る。そして、『俺が若い頃は…』とか言い始める。
給料は、多くの場合ちょっと増えます。けれども、病院によっては、『自分のペースで仕事ができるようになってくる』を逆手に取られて、早々に管理職扱いにされ、時間外手当や残業代がつけられなくなります。下手すると当直代も理由付けて渋る病院もあるみたい。家族や子供も出来て、結果として自分のお小遣いは減ります。
仕事、臨床のストレスが減る分、意味・意義の分からない院内の会議とかそういうのもチラホラ出てきます。
そして、仕方がないことではあるけれど、確実に体力の低下を感じてくる。当直翌日の頭の回転が如実に鈍り、精神が肉体を凌駕出来なくなってくる。気合で乗り切ることが出来なくなってくる。
医者としては、“その後”を考え、実際に準備を始める必要も出てきます。このまま、さらに上の出世コースを目指すのか、開業なども視野に入れるのか。それに応じた勉学も必要になってくる世代です。
④ 上級医~教授・准教授、診療部長・副部長
その診療科において“自分の限界=その病院の限界”になります。
逆に言えば、その診療科に関して、一通り自分で責任を持てる状態でないといけない。
私は外科系で手術を行う科として感じることは、時折見るからに難しそうな症例も来る。挑戦するためには、“自分が無理なら、誰もこの人救えない”と思える実力が必要だし、同じように、自分や自施設の限界を正確に把握する必要がある。
そういう意味では、基幹病院の長はやはりすごいと思う。
また、スタッフの育成、そして新規スタッフのリクルートメント、科の宣伝や売り上げも考えなくてはいけない。
修練施設として、関連病院や関連診療科と掛け合って専門医取得に必要なプログラムを作ったり、必要な時にスタッフの移動も考えなければいけない。
スタッフから尊敬される診療能力に加えて、政治力や強かさも必要になる。
一般的な総合病院では、こんな縦社会になっている。
多くの場合、病院のホームページから診療科のページを開くと、スタッフの紹介があって、そこには卒業年や専門医などの取得資格が載っている。それを見れば、上記のどのあたりの立場の人間か判別がつく。
ネット記事では、取得資格等々で名医か判断する方法みたいなのもあるけれど、実際はそんなのはない。
僕は、もう最前線は辛い、嫌だ!
正月休みもなかった…
どうせ、当番みたいなdutyじゃなくても、私が1st call…
dutyじゃないと、出勤しても時間外手当は付かない。
患者の急変対応してても、緊急手術してても、サービス勤務。
そんな業界です。
次回は、キャリアと学歴についてお話ししようかと思います。
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