「あなた達、何度言ったら分かるわけ? 本当に頭の中に脳みそ詰まってるのかしら?」

ヒールの音を響かせながら、藤堂(とうどう)先生が教室を睨みつける。黒縁メガネをかけた端正な顔立ち、ぴったりとしたタイトスカートが映える長身の美人教師。
 しかし、その美貌とは裏腹に、彼女の授業は鬼のように厳しく、冷酷な言葉が飛び交うことで有名だった。

「こんな簡単な問題も解けないって……ねぇ、小学校からやり直す?」
「くっ……! 先生、もっと罵ってください!」
「その冷たい視線、たまりません……!」

 教室のあちこちから、妙に熱のこもった声が上がる。

(……ほんと、バカばっか。)

 藤堂は内心ため息をつく。なぜかこのクラスの生徒たちは、彼女の罵倒を喜んで受け入れる特殊な集団だった。

 しかし、その中でひとりだけ、異質な存在がいた。

「……いじめないでよぉ……」

 か細い声が教室の隅から聞こえた。

(……ん?)

 声の主は、桜井(さくらい)だった。彼は小柄で、少し中性的な雰囲気を持つ男子生徒。伏し目がちで、細い肩を震わせている。

「……え? 私が…?」

 藤堂は思わず聞き返す。

「だって……先生、怖いよぉ……」

 桜井は泣きそうな顔で、潤んだ瞳を向けてきた。

(……え、なにこれ。)

「……あなた、本気で言ってるの?」

「う、うん……先生、いつもみんなを叱ってるけど、僕は怖いの、嫌だよ……」

(……え、待って、可愛くない?)

 これまで、藤堂は生徒たちに対して“ドS”のスタンスを崩したことがなかった。むしろ、厳しくするほど彼らが悦ぶという地獄のような構図だったのだ。しかし、この桜井という少年だけは違った。

「……わ、分かったわよ。あなたには、少し優しくするわよ」
「えっ……?」
「でも、私の授業はちゃんと聞くこと。いい?」

 桜井は驚いたように目を見開き、こくりと頷いた。

――次の日。

「桜井、ここ分かる?」
「えっと……うーん……」
「じゃあ、こう考えたら?」

藤堂は、いつもの冷酷な口調とは違い、自然と優しく教えていた。すると、桜井はすぐに顔を赤くして嬉しそうにする。

「えへへ……先生、優しいね。」
「ちょっ……あ、あなたがすぐに泣くからでしょ!」「でも、先生が優しいと……なんかドキドキするかも……」

「……え?」

(なにそれ、反則じゃない? 可愛いんだけど)

 桜井の素直な反応が、妙に愛おしく思えてしまう。

「先生、僕だけに優しくしてくれるの?」
「コラ……調子に乗らない」

 そう言いながらも、藤堂は彼に対してどんどん甘くなっていった。

――さらに数日後。

「先生~、ノートのまとめ、難しいよぉ……」
「どれ? 見せてみなさい」
「ここ……」

 桜井は小さな手でノートを指し示す。その仕草が、いちいち愛おしく見えてしまう。

「これはね……こうやって書くと分かりやすいわよ。」
「えへへ、先生、字も綺麗だね……」
「……あなた、甘え上手ね。」
「そうかなぁ?」

彼は嬉しそうに笑う。そんな彼を見ていると、藤堂の中に、これまで感じたことのない感情が湧き上がる。

(……私、この子には甘いかもしれない。)

「先生……ぎゅーってしてもいい?」
「……え?」
「なんか、先生の優しさが嬉しくて……」
「……はぁ。ダメよ」

(だって生徒と先生なんだもの。)

 藤堂は大きく息を吐くと、そっと桜井の頭を撫でた。

「先生、もっと……」
「……あなた、本当に甘えん坊なのね。」

 そう言いながらも、藤堂は桜井の小さな体を優しく抱きしめた。

(……私、完全にこの子に甘くなってるわね。もう理性おかしくなりそう)

こうして、ドS先生はたった一人の生徒にだけ母性を全開にすることになったのだった。そしてメスイキさせる日がそう遠くないのであった。

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