ワンコ映画2本のご紹介
以前から、犬が登場する2本の映画を記事にしたいと考えていました。
それがこちら。
「ミラクル・ニール!」 2016年(イギリス)
「DOGMANドックマン」 2023年(フランス)
まずはコメディの「ミラクル・ニール!」
教師のかたわら小説を書いているニール・クラークは愛犬のデニスと暮らす平凡な男。
もっとも、勤務先の学校には遅刻常習犯で、担任クラスは悪ガキの巣窟。同僚のインド系化学教師レイとは愚痴が絆の親友。
パッとしないニールは、同じアパートメントに暮らすキャサリンに恋しています。
が、しかし! 出版社勤務のキャサリンの周囲にはろくなヤツがおりません。
文学を貶める冷酷なパワハラ女性上司、セクハラ傾向で拝金主義者の編集長、ストーカー野郎のイカれた軍人・グラント大佐などなど。
そんな地球を滅ぼすべきかどうか? と審査しているのは宇宙の果てにいる巨大なエイリアンたち。
表向きは「高等な知的生命体を選別するのは銀河の秩序のため」とかなんとかテーマをかかげていますが、エイリアンらの本心は違います。
「破壊こそ善!」
「惑星の破壊はエンターテインメントだ」
という残酷な思想の持主たち。ある意味、帝国主義?
でも一応、銀河法があります。
それは強大な破壊ビームで惑星を消滅させるためには、
「その惑星に住む知的生命体の一人を無作為に選びだし、『全能の力』を与えて10日間の審査期間をもうけなくてはならない」
選ばれたのはダメ男のニール。
願い事を唱えて右手を振るだけで、「力」を示すことができるようになります。
結果、キャサリンの部屋をのぞいたり、死者をよみがえらせたり、愛犬デニスにヒトの言葉をしゃべらせてみたり……。
愛するキャサリンに『全能の力』を持ったと打ち明けますが、そのときグラント大佐が乱入!
争う二人にあきれ返り、キャサリンは帰ってしまいます。
その後、グラント大佐は犬のデニスともどもニールをタワーマンションに拉致!
グラント大佐は悪魔のような「恐ろしく、くだらない望み」を500項目ほどプリントし、それをニールに読ませて社会を混乱に陥れてご満悦。ニールが逆らえないのは、縛られている上に、デニスを「人質(犬質)」に取られているからです。
キャサリンとレイのおかげで窮地を脱するものの、彼女の気持ちも友情も失い、全能の力を持っていることに疲れ果てたニール。
彼を救ったのは愛犬のデニスでした。
しかし、そのとき宇宙から、「破壊ビーム」が……。地球の運命やいかに!
監督はモンティ・パイソンのメンバー・テリー・ジョーンズ氏。
名犬(?)デニスの声をロビン・ウィリアムズ氏が担当。
ちなみに、デニスはシェパートやポインターのような「デキル外見」を持つ犬種ではありません。たぶん……雑種犬(?)で黒と茶が混じった毛足の長い中型犬。
愛敬があってそそっかしいけれど、実は深い知性を隠し持っている(かもしれない)性格です。
子どもも大人も気楽に楽しめるおバカなSFコメディである一方で、セリフの端々にさり気なく社会的テーマ(あるいは風刺)が隠されているように感じます。
それになにより、名優のロビン・ウィリアムズ氏にとって、
「これが最後の作品……」
と思うと、少し感傷的な気分にもなりました。
さて、もう1本は「DOGMANドックマン」 2023年(フランス)
監督はリュック・ベッソン。
豪雨の中、血まみれの女装の男が運転するトラックが、警察に止められて保護される冒頭シーンで始まります。トラックの荷台には、十数匹の犬たちがあふれていました。
留置所に入れられたその男の名はダグラス。
ダグラスの精神状態をさぐるため、派遣されたのが精神科の女医・エヴリン・デッカー。
デッカーとの会話でダグラスの壮絶な過去と現在が交錯する、カットバック形式で映画が進む構成です。
少年時代、暴力的な父と陰険な兄に苦しめられたダグラス。
父は多くの犬を犬舎で飼っていますが、闘犬に仕立てるためにエサをあたえず虐待。その矛先はダグラスにも向けられ、少年は犬舎に放り込まれてしまいます。
ダグラスを守り切れず家を出る母。
彼女が物置に隠していた婦人ファッション雑誌と、犬たちが注いでくれる愛情を心の糧にして犬舎で時を過ごすうち、子犬を撃ち殺そうとした父親の銃弾を受けてしまいます。
散弾銃の銃弾がダグラスの指と脊髄を損傷。
被弾した位置がとても微妙なので摘出できず、もしも足に装具なしで歩けば、髄液が流れ出して一歩ごとに死に近づく……という車いすの生活に。
保護された養護施設で指導員の若い女性・サルマから、演劇やメイクを指導されて虚構世界の魅力に取りつかれます。
成長するにつれ、通信制の大学で学位を取り、ドック・シェルターを経営。ところが、市の助成金が打ち切られ、シェルターが閉鎖の危機に。
犬たちを連れて廃屋に引っ越し、再就職した先はドラッグクイーンが舞台でショーを披露するキャバレー。ショービジネスに自分の居場所を見つけたダグラス。
その街を牛耳っているのはギャング「エル・ヴェルドゥゴ」
ギャングのために窮地に陥っているクリーニング店の女性を救うため、ダグラスは犬を使ってヴェルドゥゴと交渉し、「二度と手を出さない」と約束を取り付けます。
それとは別に、保険調査員の小悪党アッカーマンが接近。
犬たちを使い、ダグラスが大富豪の家々から宝石類を窃盗している事実をつかんだアッカーマンは、盗品を横取りしようとするのですが……。
女医デッカーはいよいよ事件……ギャング「エル・ヴェルドゥゴ」が約束を破り、手下を引き連れて襲撃した顛末を、ダグラスの口から知ることとなります。
ご紹介したワンコ映画はどちらも「犬が登場する」共通点があるものの、テーマ性もジャンルも、まったく違います。
もともとリュック・ベッソン監督は気に入っていて、「グラン・ブルー」「ニキータ」「レオン」「ジャンヌ・ダルク」と拝見しておりました。
うーん、ところが2000年代に入ると、監督より製作側に回り、過去の自作の焼き直し……みたいな作品を量産。
……この監督さんは、自分の名前が出ていればお金が入るようになったから、監督業から足を洗ったのかな?
と幻滅し、しばらく遠ざかっていたのです。
久しぶりにメガホンを取って脚本も手がけた「DOGMANドックマン」には犬と人間との死闘もあり、好みが別れるかと思いますが……鑑賞後に、代表作「レオン」のような「痛み」を残す作品。(あくまで個人の感想です)
なんといっても印象的な映像、セリフが多いです。シャンソンや「リリー・マルレーン」などの古き良き歌謡曲の使い方も素晴らしい。
映画が音楽と映像、物語の総合芸術エンタメだと再確認させてくれます。
ピンクのとばりがあるベッドに、装具をつけた足を持ち上げる主人公の孤独。
古いハリウッド映画「紳士は金髪がお好き」で主演したマリリン・モンローの扮装で、ピンクのドレスに身を固めて赤ワインを片手に、震えながらもギャングのボスと対峙するダグラスの緊張感。
闇に浮かび上がる大型犬たちの金色の瞳。
十字架の影の中で、倒れたダグラスに寄りそう犬たちの愛。
ダグラスの人生を聞き取るデッカー医師もまた、暴力的な夫と離婚したシングル・マザーで、心に痛みを抱えている人物造形には深みがあります。
犬をモチーフにした2作品。
どちらも製作者たちが「自分が撮りたい映画を撮った! 楽しんでくれ!」と、胸を張って観客に突きつけた印象を受ける作品です。