再びの余市蒸留所から開拓の村へ 〜 2024年・夏 青春18きっぷの旅 その6
毎年、毎シーズン、18きっぷは1枚=5回を使ってきた。
それが今期は、2枚目を使うことにした。
旅がしたい。
旅もしたいが、過去に訪れた好きな場所や、叶えられなかった旅をやり直したい。
15年前の小樽〜余市の思い出
2009年12月、舞鶴から新日本海フェリーに乗船、小樽までの船旅を楽しんだ。
2009年といえば司馬遼太郎「坂の上の雲」がNHKで実写ドラマ化され、自分は小説を読んで「冬の日本海の荒波、体感したい」と思い立ち、真冬の新日本海フェリーに乗ることにした。
冬の日本海の荒波は、全長300mの新造船をも易々と揺さぶる起伏やうねりがある。
そこに、ほかのフェリーの1.5倍の速度に相当する30ノットオーバー(時速56キロ)の速力で突っ込む新日本海フェリー。
斜面を上り船首が持ち上がり、波の谷間に落下する。
重力が増したように体が重くなったかと思えば、ほぼ自由落下で無重力体験、その繰り返しだ。
こんな荒波では食堂も閉鎖、慣れていそうなトラックドライバーも撃沈、食事がろくにとれないという環境で、最高の船旅を味わうことができた。
小樽に到着してからは、小樽運河を撮り歩いたり、積丹へ足を伸ばしたりしていた。
途中、余市に立ち寄っていた。もはや旅程をどう組んだのか想像もつかない…
余市では、ニッカウヰスキー 余市蒸留所を訪ねた。
何も調べず、見学ができることも知らずにただ外観を見に行った。
当然、12月30日ともなると年末年始の閉館期間で入ることはできないのだけれど、写真を撮っていたら守衛さんが門を潜らせてくれた。
雪が積もる施設の中は静かだった。
他に誰もいない、自然と建物の中でウィスキーが熟成されていた。
そんな余市を、15年ぶりに訪ねる。
旅の始まりは、前日にローカル線を36時間乗り継いで到達した小樽から。
小樽・手宮線廃線跡を歩く
小樽観光は、南小樽駅を使うのが良いらしい。
小樽から東側は札幌〜新千歳空港のアクセスのためかなり列車の本数が多い。
南小樽へは気軽に移動できる。
小樽駅で2枚目の18きっぷを購入、そのまま入場。
南小樽まで快速エアポートで移動する。
南小樽から小樽方面へは、線路のどちら側を歩くかで雰囲気が変わる。
前日は線路の南側(山側)を、今日は北側(海側)を歩くことに。
北海道の建物は、古くても現役というのが多くて、その歴史や趣にノスタルジーを感じる。
住んでいる人からすると、変わらない日常なのだと思うと、観光客が物珍しく見ることに違和感があるかもしれない。
小樽に近づくと、観光地らしさが増してくる。
古い石造の蔵や、木造の商店が立ち並ぶエリアを抜けていく。
途中で手宮線廃線跡に入る。
前日にも歩いていた場所を、時間帯を変えて再び歩く。
手宮線は、小樽の観光地の中心部では単線になっている。
しかし北側の末端は多数の分岐があり車両基地のような形になっている。
ここは小樽市総合博物館として整備されており、実態はほぼ鉄道公園だ。
小樽市総合博物館は9:30からの開園なので、南小樽からぶらぶらして開園時刻を少し回ったところで入園。
まず迎えてくれるのは蒸気機関車のC12。
屋外展示は国鉄時代の車両が多いかもしれない。
背景の森の感じが現役時代のように見せてくれる。
こうして見学していると、いま運行されている列車もいずれ廃止される日が来る、廃線がもっともっと進んで、味わい深い鉄道旅ができない日がくるのだろうと感じる。
ここに展示されている車両も、この手宮線も、かつては人々の日常だったはずだ。
園内には転車台があり、周囲に扇川の格納庫がある。
いまでも使われていて、復元車両が並んでいた。
外には歴代のラッセル車が保存されている。
国鉄時代のキハはプラットフォームに停車する形で展示されていた。
案内板がなければ、現役当時そのままのようだ。
国鉄時代の気動車、もう走っているところはわずかだ…
余市蒸留所を見学
小樽から函館本線のいわゆる「山線」に乗り、余市駅を目指す。
本数が少なく、見学時間との調整が難しい。
蒸留所は普通に訪ねるとショップやレストランまでは自由に入れる。
製造工程や歴史的な施設を見学する場合は予約制のツアーを利用することになる。
無料のツアーでは見学の後にテイスティングがあり、有料のセミナーは見学がより充実していて、テイスティングもキーモルトを試したりハイボールの作り方講座だったりと、一歩踏み込んだ内容になっている。
今回は無料ツアーということで、製造工程を順に見学した。
あいにく、気温が安定しない夏と冬には製造を止めているそうだ。
春と秋には原料の香りが場内に漂うらしく、次は季節を選ぼう。
ポットスチルは原液からウィスキーを蒸留するための設備。
原液を熱していくわけだが、火入れの際の着火剤は古いウィスキー樽をばらした木材だそうだ。
まさにここに焚べられている黒い板が、もとはウィスキー樽だった。
ポットスチルにはしめ縄と紙垂がかけられている。
創業者の実家が造り酒屋だったことに由来していて、自然の神様への思いが込められているそうだ。
ツアーの後半はウィスキーを熟成させる樽が積まれた蔵へ。
見学用のこの場所では熟成はしていないそうで、敷地内の他の施設に保管しているとのこと。
ツアー後半は製造施設のエリアから、レストランの方へと歩いていく。
途中には研究開発に使われていた「リタハウス」や、りんご農園から移築されてきた竹鶴夫妻の家がある。
最後にテイスティングへ。
この日は「シングルモルト 余市」に「スーパーニッカ」それに「アップルワイン」のテイスティングに。
水、炭酸水、氷も自由に使えるので、ストレート、ロック、ハイボールで試せる。
アップルワインはニッカが創業した当時、ウィスキーが出荷できるまでの繋ぎで扱っていた林檎果汁を思わせる。
スーパーニッカは先述のリタハウスで生まれ、シングルモルト余市はいまや入手困難… 余市蒸留所ならではのチョイスだなと楽しませていただいた。
続いて、有料のテイスティングコーナーへ。
メーカーなので一通り揃っていて、なかなか店頭で入手できないものもテイスティングできる。
蒸留所限定のキーモルトシリーズも、お土産用に買う前に試せた。
10月に発売される「ニッカフロンティア」もテイスティングが始まったそうだ。
帰りの列車の時間が近づいてきた。
場内で来た道を戻る。
15年ぶりに余市蒸留所を訪ね、創業者の思想、いま働く人たちの情熱、余市という場所の特徴など、理解や共感の多い見学ができた。
またこよう。
ほろ酔いで札幌方面へ。
開拓の村でタイムスリップ
札幌近郊に「開拓の村」という公園があることを知った。
こんなにフォトジェニックな建物群が、こんなにアクセスのいい場所にあったのに、何度も北海道を旅していながら今まで全く知らずに札幌を素通りしていた…
この施設を知ったのは、ゴールデンカムイのロケ地が気になったから。
道内だろうか、東北や信越だろうか、などと調べていたら、
なんだ、ほぼ全部一箇所にあんのか、となった。
この日の朝、南小樽から散策をはじめ、余市蒸留所を見学し、新千歳を20時半に発つ飛行機で羽田に帰るので、夕方少し時間ができた。
飛行機には余裕があるのに、開拓の村の閉園が17時なので余市からの移動、特に森林公園駅へのアクセスとそこからの徒歩は少し焦った。
原作を読んでいないので、実写映画のロケ地ということでしか知識がない。
どちらかというと、北海道の開拓から徐々に作られてきた建物、その時代の面影を感じる建物群の中に入るということ、そこで撮ってみたいというのが先行している。
手稲で乗り換えて森林公園駅へ。
そこからひたすら坂を登り、博物館と開拓の村のある方へ森の中の大きな道路を歩く。
木々が少し色付き、秋の気配を感じる。
園内で最初に迎えてくれる大きな建物は旧開拓使札幌本庁舎。
白と緑のコントラスト、てっぺんの旗は開拓使が北極星をデザインした北辰旗というものだそうだ。開拓のシンボル。
開拓の村の目抜通りは馬が引く鉄道がある。
線路を挟んで両側に歴史的建造物群が並ぶ。
それぞれの建物の中も見学できるようになっている。
しかし…夕方1時間やそこらで見学できる規模ではない。
丸一日かける規模だ。(にしん蕎麦を出す食堂も園内にある)
開拓の村は、保存されている建物の数も凄まじいけれど、
ここの建物の規模が大きいところも特徴かもしれない。
移築して保存したり、保守するだけでもなかなか大変な工数なのではないだろうか。
商業施設のほか、民家、教会、学校のような生活に関わるあらゆる施設が保存されている。
その一つ一つが内部まで丁寧に保存されていて、時代が閉じ込められている。
カメラが好きな自分が最も気になったのは写真館!
今ほど機材が開発されていない当時、いまほど高感度な感材がない当時、どのようにライティングしていたのだろうか。
このガラス張りの屋根。
ここで光を取り入れるようだ。
内部には白と黒の布が掛けられている。
これで光を調節していたようだ。
これをみて思ったのは、時間帯によって太陽の位置が変わり、陰影のつき方も変わるだろうということ。
ホワイトバランスも刻々と変化するし、雲の出方にも影響されるだろう。
そしてここは北海道、黒い雪雲、白銀の反射、たくさんの光のパラメータがある。
雪を通した光で撮るポートレイトとはどんなものだろう。
園内を歩くと、実に様々な建物を間近に観察できる。
森の中にも建物や吊り橋が点在している。
時折、ベルの音がして馬車鉄道が通り過ぎる。
ゴールデンカムイが好きな人たちの聖地巡礼で取り上げられていたテーブル。
原作の中には、開拓の村の建物と完全一致するシーンがたくさんあるそうだ。
日が傾き、閉園時刻が近づく。
帰りはバスで新札幌へ。
新札幌からエアポートで新千歳へ移動した。
新千歳空港は久しぶりで、最近まで混雑の話題が多かったので2時間前に保安検査を通過した。
ところが…
保安エリアの飲食店は臨時休業、ワンオペ(での提供遅れを告知)、20時半閉店、という条件で、選択肢も少なくなかなか食べるものに悩んだ。
そんななか、機材繰りの都合でフライトは大幅な遅延…
やむなく航空会社のラウンジで時間を潰した。
遅れたもののフライトは無事出発。
直前に窓側最前列が空いたのでゆったり空旅を終えることができた。
今回の旅ではマニュアルフォーカスレンズだけを使用した。
やむなくiPhoneを使ったところもあるが…
35mmと85mmでおよそ事足りると実感。
ただ、28mm欲しいシーンと、どうしても近接撮影が足りないと思うこともあった。
Nokton 35mmから、Vintage Lineの28mmに移行しようかと悩む。
いずれにせよ、天候にも恵まれ、体験の機会も多く、
とてもいい旅ができた。
秋か冬にまた訪れたい。