メ酒'23所感 #11(伝説と伝統と革新)
・haccoba × 野沢温泉蒸留所 vert
-haccoba(福島県南相馬市)
今年拠点を拡大し、特約店が爆発的に増えたhaccoba。クラフトサケの中でも屈指のクオリティを誇る醸造所である。
野沢温泉蒸留所の野沢ジンの蒸留粕を共に醸造した一本。複数種のボタニカルを使用し、ここまで味わいにまとまりを出せるのは非常に素晴らしい。九日含むと感じるのは、''森林''。ジュニパーベリーだけでなく、杉のニュアンスも素晴らしく群生した木々を思わせる。青さ一つとってもさまざまな表情を魅せる。凝縮された柑橘系の甘み・酸味も心地よい。
haccobaは極まりつつある。
・旭興 発泡性貴醸酒
-渡邊酒造(栃木県大田原市)
私が愛してやまない旭興・渡邊酒造。今年は「百 おりがらみ生」に続き、念願の「千」も飲むことができ、非常に充実した一年であった。「発泡性貴醸酒」は昨年買い逃し、これまた念願の一本であった。
おそらく旭興の定番貴醸酒「百」のスパークであるこちら。肌理細かい泡に、泡がはじけるたびにとろける甘み。テクスチャはどこかとろりとしていて、下に染み渡る甘みと、登っていく泡が心地よい。しばらく口に含んでも泡や甘みが収まることはなく、のど元過ぎても素晴らしい存在感である。泡田中2022の後に飲んだせいもあって泡のクオリティに尚のこと驚いた。まさにシルキーである。
長く長く続く余韻は、口に含んでいた時よりも確かな甘みを湛える。上品で高級感のある、しかしカジュアルに楽しめる一本だ。
・新政 瑠璃(ラピスラズリ)2020
-新政酒造(秋田県秋田市)
2022年11月、2021年VTをもって終売した「新政ラピス」。
当時存在すら知らなかった私は、日本酒を好きになるにつれ、新政そしてラピスの存在に惹かれるようになった。運よくラピスを手に入れる間に、見えピン2018や農民芸術概論2019、エクリュ2017などが私の胸を打つには程遠い存在であることを知る。人気絶頂のうちに解散したバンドが半ば伝説のように語られるように、カラーズシリーズの中でもラピスは特に熱をもって語られることが多い印象だ。
香りは穏やかで広い華やかさが凝縮されている。口当たりは柔らかく、とろみがある。甘さはあるが甘いと感じる直後に酸味が押し寄せて来る。
後味はすっきりとしている。常温に戻ると、メロンのような甘味と香りが増す。人肌燗ほどで、とろみや甘みは抜群に増し、蜂蜜に類似したポテンシャルを発揮する。ラムネのようなカジュアルさとメロンアイスのような心地よい甘みが表出する。確かに美味しい。教材として、遺産として価値のある一本だ。
・泡田中 / D zero K65 2022
-白糸酒造(福岡市糸島市)
1年ぶり二回目の泡田中。鳥肌の立ちそうなラベルは健在である。
ガス充填式(恐らく)の強烈な荒い泡に、不透明な薄濁りの外観。
香りは華やか、生酛由来の酸の漢字。舌を刺す泡は心地よいが、泡は持続しない。液体のテクスチャは柔らかく、終始ドライ。酸味と苦みが主体となり、長い余韻にも苦みがしっかりとある。非常に食中酒としてふさわしい味だが、酒単体のクオリティは高くない。生酛故3,000円弱の値段なのだろうか。
・鍋島 New Moon(23BY)
-富久千代酒(佐賀県鹿島市)
鍋島で唯一好きなNew Moon。こちらも1年ぶり2回目だが、昨年の造りとはかなり印象が異なる。柔らかいガスとテクスチャ、苦みと酸味が主体で昨年感じた芳醇な甘みが抑えられている。昨年の方が好みだが、こちらも良い。
鍋島はその多くが生酒でないのに、2日目以降が楽しめないのが最大の弱みであるが、New Moonも例外でない。来年にも期待である。