30日の米中通商協議では重要な合意は得られない、英国EU離脱のシナリオ
米中通商協議、重要な合意は得られない
カドロー米国家経済会議(NEC)委員長は26日、来週に上海で再開する米中通商協議について、重要な合意が得られるとは予想していないとしながらも、米交渉団は貿易障壁の引き下げに向けた建設的な交渉を改めて開始する地合いを整えたいと考えていると述べた。
カドロー委員長はCNBCのインタビューで、「来週に上海で協議が再開されるが、重要な合意はないとみている。ただ交渉団は5月の協議中断時に戻り、交渉をリセットしたいと考えているもようだ」と述べた。
その上で「知的財産権の保護、強制的な技術移転、サイバー問題、非関税障壁を含む構造問題のほか、履行メカニズムなどについて取り組みを続けている」とし、「90%が済んでいて、残りが10%となっている場合、米交渉団は残りが10%となっている時点に立ち返りたいと考えている」と述べた。
米ホワイトハウスは24日、米中の通商交渉担当者が30日から上海で協議を再開すると発表。米交渉団はムニューシン財務長官とライトハイザー通商代表部(USTR)代表、中国交渉団は劉鶴副首相が率いる。
トランプ米大統領は26日、中国政府が来年11月の米大統領選までに通商協議で合意しない可能性があるとして、交渉妥結に悲観的な見方を示した。
ホワイトハウスで記者団に対し、中国が時間稼ぎをしており、早期に合意できるかは疑わしいと述べた。米中は来週に上海で協議を再開する。
トランプ氏は、民主党候補が来年の大統領選で勝利することを望んで、交渉を遅らせている可能性があると述べた。
英国EU離脱のシナリオ
英国の政治を3年間まひさせている欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)問題を解消するためにジョンソン新首相が取り得る主な選択肢は(1)総選挙(2)EUとの再合意(3)合意なき離脱の3つしかない。
ジョンソン氏は、EUと新たな合意を結んで10月31日までに離脱できると明言しているが、EUが再交渉を拒否すれば合意なき離脱をためらわないとも述べている。
想定される主なシナリオをまとめた。
(1)総選挙
EUはメイ前首相との間で昨年11月に合意した離脱協定の見直しを拒否している。英国が合意なき離脱に向かえば議会が阻止し、ジョンソン氏は総選挙に踏み切る。合意なき離脱を巡り保守党内に造反者が出ると、ジョンソン氏は議会を解散。造反議員や野党・労働党は「国民が求めた離脱」の敵だと訴えるだろう。
ジョンソン氏はEU離脱の是非を問う2016年の国民投票で離脱派の運動を率いたドミニク・カミングス氏をシニアアドバイザーに起用し、選挙を重要課題に位置付けていることが読み取れる。
JPモルガンは顧客向けノートで最も確率の高いシナリオとして「EUとの協議が行き詰まり、ジョンソン氏がナイジェル・ファラージ氏率いるブレグジット党と組んで総選挙に向かう」という展開を挙げた。公式であれ非公式であれ、保守党とブレグジット党の連携はジョンソン氏にとって実現可能な最も魅力的な選択肢だという。
総選挙の引き金となり得るのは(1)議員の3分の2が賛成(2)議会が内閣不信任案を過半数で可決し、新たな政権発足で合意できない─の2つのケース。
議会が9月に再開すると労働党は内閣不信任案を提出する見込み。不信任案が可決され、14日以内に新たな政権の樹立で合意できなければ総選挙となる。内閣不信任案が9月3日に可決されれば、早ければ10月24日に総選挙が行われる。
(2)EUとの再合意
ジョンソン氏の主張通りとなり、EUの最大勢力であるドイツとフランスが合意なき離脱を恐れて離脱協定の大幅な見直しに合意する。つまりEU側が折れて離脱協定が仕切り直しとなる展開だ。
また、英国とEUが離脱協定の小幅な修正で合意しながら、それぞれの国と地域に向けては大きな進展があったようにみせかけるという道もある。
ゴールドマン・サックスは「ジョンソン政権がEUから獲得できる離脱協定見直しは比較的小さいだろう」としている。
大幅譲歩があるとすれば期限間際の首脳会談だろう。
ゴールドマンは合意ある離脱の確率を45%と踏んでおり、ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領およびアイルランドからの支持取り付けが不可欠としている。
再合意は英議会での承認が必要。保守党は議席が過半数を割っており、離脱の方法を巡り党内で意見が割れている。
(3)合意なき離脱
EUがジョンソン氏の離脱協定見直し要求を拒否してジョンソン氏が離脱期限の延期を拒否し、英国は10月31日に合意のないままEUを離脱する。
投資家の多くは、合意なき離脱の衝撃は世界経済に波及し、英経済が景気後退に陥って金融市場は大混乱し、金融センターとしてのロンドンの地位は大きく傷つくとみている。
ゴールドマンはジョンソン氏の首相就任後に合意なき離脱の確率を15%から20%に引き上げた。
合意なき離脱に議会の批准は不要。ただ、議員の間からは憲法を柔軟に使えば合意なき離脱を阻止する手段は見つかるとの声もある。
一方、ジョンソン氏はこうした動きに対抗して、10月31日以降まで議会を閉鎖する可能性がある。ジョンソン氏は議会閉鎖の可能性を排除しないと公言しているが、閉鎖は望ましい選択肢ではないとも述べている。
保守党の一部議員は合意なき離脱を阻止するため、党を抜けて内閣不信任案に賛成すると示唆している。保守党議員が数人でも造反すれば、政権は崩壊し得る。
(4)ジョンソン氏が辞任
ジョンソン氏が離脱を実現できず、総選挙も望まなければ、残された道はほとんどない。メイ氏と同じように首相を辞任することになる。
議会が内閣不信任案を投票を呼び掛けることにより政権転覆を図ったり、保守党内でジョンソン降ろしの動きが起こる可能性もある。
(5)離脱延期か離脱撤回
ジョンソン氏あるいは次の首相が、合意なき離脱は影響が大きすぎるため延期せざるを得ないと判断する。反離脱派は以前から、2016年の国民投票結果が最終的に覆されるのを期待して、離脱期限の延期を求めている。
期限延期に当たり、EUは英国に国内の政治的な行き詰まりをどう打破するのか具体的なプランを提出するよう求めるだろう。その場合、英国が国民投票のやり直しや総選挙を持ち出す可能性はある。
総選挙により、EU残留を支持する政権が発足するかもしれない。その場合は国民投票が再度行われるだろう。
ゴールドマンはジョンソン氏の首相就任を受けて離脱中止の可能性を40%から35%に引き下げた。
総括
米中貿易は今年5月の追加関税発動時に、英国EU離脱は期限だった今年4月に市場を一度揺さぶった。
両問題ともに、今は一時休戦状態であるが、今年中に再びホットになる可能性が高い。
米中貿易は第4段の追加関税かがトランプ大統領から発言されるか、英国EU離脱は英国とEUとの交渉が進展するかにかかっている。
英国EU離脱は、その期限である10月末にかけてホットにあると予想できるが、米中貿易については予想は難しい。
引き続き、トランプ大統領のツイートに注意するしかない。
出典
米中通商協議、来年の大統領選までに妥結困難か=トランプ氏
来週の米中協議、重要な合意予想せず 交渉リセット=NEC委員長
アングル:ジョンソン英首相、EU離脱に向けた主な選択肢