日銀は躊躇なく緩和措置の姿勢も、不透明な世界情勢が重しに

日銀、躊躇なく緩和措置も不透明な外部要因

日銀は30日の金融政策決定会合で、物価2%目標に向けたモメンタム(勢い)が失速するおそれが高まる場合は「躊躇(ちゅうちょ)なく」追加緩和措置を講じると表明し、米欧の中央銀行と足並みをそろえて緩和バイアスを強めた。
30日の会見で黒田東彦総裁はモメンタム失速の最大のリスク要因に海外経済動向を挙げた。
海外経済の回復が一段と後ずれする場合、日銀が「予防的」な対応に出るかが当面の焦点になりそうだ。

決定会合では、現行の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)付き量的・質的金融緩和政策の継続を決める一方、声明文で「物価上昇のモメンタムが損なわれるおそれが高まる場合には、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」ことを表明した。

これまでも同様の見解を繰り返してきた黒田総裁だが、会見では従来の発言よりも「一歩前進」した表現で明文化したと強調。
「緩和に向けてかなり前向きになったといえる」と述べるとともに、「モメンタムが損なわれるおそれ」と明記したことは「予防的と言ってもいい」と踏み込んだ。
今回の日銀の対応について、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト(元日銀審議委員)は同日のリポートで「追加緩和のハードルは、今までよりも一段下がったとの印象がある」と述べている。

実際に追加緩和措置を講じるのか、カギを握るのが海外経済の動向だ。
黒田総裁は物価のモメンタムを判断する要素として「1つは需給ギャップのプラスが続いていくかどうか。
もう1つは物価上昇率が上がっていった時に、企業や家計の物価上昇予想がどう上がっていくかをチェックしていく」と説明。
特に需給ギャップの動向について、米中貿易摩擦などが長引いて「世界経済の回復テンポがさらに遅れると、日本経済を支えている内需にも影響出るおそれがある」と警戒感をにじませた。

その海外経済は帰すうが見えない米中貿易摩擦に加え、ジョンソン英首相の就任で、10月末までに英国が欧州連合(EU)から合意なき離脱を決断する可能性が高まるなど一段と先行き不透明感が強まっている。
国内では10月に消費税率の引き上げを控えており、日銀内でも「仮に10月時点で海外経済が減速を続けている場合、わが国経済を下押しする影響が大きくなる可能性がある」(桜井真審議委員)など、内需の息切れを警戒する声もある。
海外経済の下振れリスクの高まりをにらみ、安倍晋三首相は22日の会見で「下振れには躊躇なく、万全の対策を講じる。これまで以上に積極果敢な経済政策に取り組む」と表明している。
この日の会見で黒田総裁も、そうした政府の考えとは「平仄があっている」と発言。
政府・日銀が歩調を合わせ、10月ごろを念頭に追加経済対策のパッケージとして、日銀の追加緩和を含んだ財政・金融政策の「協調」を図る可能性も出てきたと言えそうだ。
それでも、超低金利政策の長期化による金融機関経営への影響など、金融緩和の副作用が拡大する中で、日銀に残された手段が少ないのも事実。

黒田総裁は会見で、あらためて長短金利目標の引き下げや資産買い入れの拡大などを挙げて「追加的手段はいくつもあり得る」と強調する一方、緩和策を講じる場合には「その時の経済や物価、金融情勢を考慮して、副作用不に十分目配りして適切な措置を取る」とも語った。
追加緩和手段は金融システムへの影響にも配慮した新たな領域が模索される可能性もある。

米中通商協議はファーウェイと中国による米国産農産品の購入が議題か

中国の通信機器大手であるファーウェイは5月、米政府の禁輸措置対象リストに追加された。トランプ氏は6月末の米中首脳会談で通商協議の再開に合意するとともに、ファーウェイに対する制裁を緩和する方針を表明。中国は米国産農産物の購入拡大に合意した。

しかし、1カ月を経過しても米国は許可の詳細を示しておらず、中国は米国産農産物の購入を拡大した形跡がない。

ムニューシン財務長官とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は30日から中国の劉鶴副首相と協議を実施する。協議に詳しい関係者の多くはファーウェイと中国による米国産農産品の購入が主要議題になると予想している。 

英国、10月末に是が非でも離脱

もう一つの懸念である英国EU離脱も先行きが明るくない。

ジョンソン英首相は30日、アイルランドのバラッカー首相と電話会談し、英国が「是が非でも」10月31日に欧州連合(EU)から離脱するというスタンスを改めて表明した。

ジョンソン首相の瀬戸際政策が世界経済や金融市場に影響を及ぼす「合意なき」離脱を引き起こすとの懸念が強まる中、ポンドは急落した。

総括

日本はアベノミクスにより大胆な追加緩和を講じてきた。
追加緩和は良いことだけでなく、副作用もある。
この副作用を一番受けるのが銀行だ。超低金利は銀行収益に大きく影響する。

これ以上の緩和を銀行が耐えられるか。
外国各国が追加緩和に積極的であるにも関わらず、日本が動けない要因の一つである。

もう一つの要因が、円高である。
各国が追加緩和を高ずると円高が進む。アベノミクスでは物価上昇のため、円安に向かっていた。しかし、ここに来て円高圧力が高まっている。

世界的に緩和の流れにあるなかで、日本の追加緩和が、先程の副作用含めて効果があるのかがわからないのだ。

とはいえ、急激に円高になれば日銀も手を出すしかないだろうが、そうなったときの世界状況はかなり悪い状況となったときと想定する。

理想的なのは上記2つの懸念が晴れることだ。

なお、7/31は米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策発表を予定している。
利下げをするか、またどれくらい利下げをするか注目である。

出典

ロイター 7/30 焦点:物価勢い、海外起点の失速警戒 日銀総裁「予防的」に言及

ロイター 7/30 ファーウェイ輸出許可巡り米企業の混乱続く、米中通商協議に影響も

ロイター 7/30 英首相、10月末に「是が非でも」離脱と再表明 ポンド急落

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