日商簿記範囲外のEX論点【退職給付会計⑤】~退職給付制度の終了~

日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。

今回は、棚卸資産の論点から「退職給付制度の終了」を紹介します。




1.退職給付制度の終了

概要

退職給付制度の終了とは、制度を廃止する場合か、制度間の移行または制度の改定によって、退職給付債務が減少額相当分の支払いを伴って減少する場合を指します。

ここでいう減少額相当分の支払いとは、

  • 年金資産からの支給、または分配

  • 事業主からの支払い、または現金拠出額の確定

  • 確定拠出型への資産の転換

の3つが該当します。

制度廃止の具体例として、

  • 退職金規程の廃止

  • 厚生年金基金の解散

等が挙げられます。

また、制度移行・改定の具体例として、

  • 確定給付年金制度から確定拠出年金制度へ一部、または全部移行

  • 退職一時金制度から、減額分を従業員に支払って退職拠出年金制度へ移行

等が挙げられます。

なお、大量退職が発生した場合は、退職給付制度の終了に準じた処理を行います。


終了に該当しないケース

退職給付債務が減少額相当分の支払いを伴わない減少であれば、制度の終了に該当せず、過去勤務費用として処理を行います。

具体的に、以下の場合は退職給付制度の終了には該当しません。

  • 給与体系、支給率の変更といった給付設計の変更

  • 確定給付年金制度から他の確定給付年金制度への変更

  • 将来の勤務に係る債務を減額し、その将来分を確定拠出年金制度へ移行


仕訳

終了時の仕訳

≪減少分の支払を行った場合≫

退職給付引当金  XXX / 現金預金  XXX
            / 終了損益  XXX

≪年金資産の移換を行った場合≫

退職給付引当金  XXX / 終了損益  XXX

終了損益  XXX / 退職給付引当金  XXX

退職給付制度を終了した場合、終了した部分の退職給付債務減少分相当額の支払等額差額で、終了損益(特別損益)勘定を計上します。

確定拠出年金制度への年金資産の転換がある場合は、現金の支払いは行われず、当該額で退職給付引当金を増額させます。

※大量退職が発生した場合、早期割増退職金が支給されることがあります。
その場合は、早期割増退職金勘定を計上することになります。


未認識数理計算上の差異の損益認識時の仕訳

≪不利差異≫

終了損益  XXX / 退職給付引当金  XXX

≪有利差異≫

退職給付引当金  XXX / 終了損益  XXX

未認識過去勤務費用、および未認識数理計算上の差異の内、終了部分に対応する金額は、終了時の退職給付債務の比率等で算定した金額をもって、終了損益勘定で計上します。


2.例題

<1>退職給付制度の一部終了
 (退職一時金制度→確定拠出年金制度)

以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:千円)

  • 当社は、退職一時金制度を採用していたが、退職金規定の変更により、一部を確定拠出年金制度へと移行することになった。

  • 退職給付に関する資料は、以下の通りだった。
    退職給付債務:600,000千円
    移行後の退職給付債務:450,000千円
    数理計算上の差異:30,000千円(有利差異)

  • 移行に伴い、確定拠出年金制度へ80,000千円の移換が確定し、現金で支払った。

  • 終了部分に対応する未認識の差異は、終了した退職給付債務の比率で損益として認識している。

①移行時の仕訳を示しなさい。

退職給付引当金  150,000 / 現金預金  80,000
             / 終了損益  70,000

退職給付引当金  7,500 / 終了損益  7,500

①退職給付債務減少額150,000 = 移行前退職給付債務600,000 - 移行後退職給付債務450,000
②終了損益70,000 = 退職給付債務減少額150,000 - 移換額80,000
③移行時に認識した差異7,500 = 数理計算上の差異30,000 × 退職給付債務減少額150,000 / 移行前退職給付債務600,000

※退職給付引当金額:移行後退職給付債務450,000 + 移行後未認識差異22,500 = 472,500
※ 移行後未認識差異: 数理計算上の差異30,000 - 移行時に認識した差異7,500 = 22,500


<2>退職給付制度の一部終了
 (確定給付年金制度→確定拠出年金制度)

以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:千円)

  • 当社は、確定給付年金制度を採用していたが、退職金規定の変更により、一部を確定拠出年金制度へと移行することになった。

  • 退職給付に関する資料は、以下の通りだった。
    期首退職給付債務:800,000千円
    期首年金資産:580,000千円
    移行後の退職給付債務:650,000千円
    数理計算上の差異:60,000千円(不利差異)

  • 移行に伴い、年金資産から90,000千円が確定拠出年金制度へ移換された。

  • 終了部分に対応する未認識の差異は、終了した退職給付債務の比率で損益として認識している。

①移行時の仕訳を示しなさい。

退職給付引当金  150,000 / 終了損益  150,000

終了損益  90,000 / 退職給付引当金  90,000

終了損益  11,250 / 退職給付引当金  11,250

①退職給付債務減少額150,000 = 移行前退職給付債務800,000 - 移行後退職給付債務650,000
②移行時に認識した差異11,250 = 数理計算上の差異60,000 × 退職給付債務減少額150,000 / 移行前退職給付債務800,000

※退職給付引当金額:移行後退職給付債務650,000 - 移行後年金資産490,000 - 移行後未認識差異48,750 = 111,250
※ 移行後未認識差異: 数理計算上の差異60,000 - 移行時に認識した差異11,250 = 48,750


<3>大量退職

以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:千円)

  • 当社は、退職一時金制度を採用している。

  • 当年度に、事業所の閉鎖による大量退職が生じている。
    その際、退職一時金110,000千円と早期割増退職金2,000千円が発生している。

  • 退職給付に関する資料は、以下の通りだった。
    退職給付債務:600,000千円
    数理計算上の差異:45,000千円(有利差異)
    大量退職後の退職給付債務:400,000千円

  • 終了部分に対応する未認識の差異は、終了した退職給付債務の比率で損益として認識している。

①大量退職時の仕訳を示しなさい。

退職給付引当金  200,000 / 現金預金  110,000
             / 終了損益  90,000

早期割増退職金  2,000 / 現金預金  2,000

退職給付引当金  15,000 / 終了損益  15,000

①退職給付債務減少額200,000 = 退職給付債務600,000 - 大量退職後退職給付債務400,000
②終了損益90,000 = 退職給付債務減少額200,000 - 退職一時金支払額110,000
③移行時に認識した差異15,000 = 数理計算上の差異45,000 × 退職給付債務減少額200,000 / 退職給付債務600,000

※退職給付引当金額:大量退職後退職給付債務400,000 + 大量退職後後未認識差異30,000 = 430,000
※ 大量退職後未認識差異: 数理計算上の差異45,000 - 大量退職時に認識した差異15,000 = 30,000


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