日商簿記範囲外のEX論点【連結会計⑤】~子会社の支配喪失~
日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。
今回は、連結会計の論点から「子会社の支配喪失」を紹介します。
※この論点は、一部日商簿記1級の範囲を含みます。
1.子会社の支配の喪失
概要
子会社株式を売却することによって、子会社の支配が喪失した場合は、当該子会社は関連会社(持分法適用会社)、もしくは連結の範囲から除外(原価法適用会社)となります。
この場合、貸借対照表は合算を行わず、それ以外の書類(損益計算書、キャッシュ・フロー計算書、株主資本等変動計算書)は支配が喪失した時点までの取引を合算します。
仕訳
一部売却時の連結修正仕訳 (売却)
≪売却時の連結修正仕訳≫
関係会社株式 XXX / 非支配株主持分 XXX
関係会社株式売却益 XXX / のれん XXX
関係会社株式 = 取得原価 × 売却割合 / 売却前の持分比率
非支配株主持分 = 資本合計 × 売却割合
関係会社売却損益 = 貸借差額
もしくは、(取得後に増加した剰余金 × 売却前の持分比率 - のれん償却額 × 年数)
× 売却割合 / 売却前の持分比率
≪売却時の個別上の取引≫
現金預金 XXX / 関係会社株式 XXX
/ 関係会社株式売却益 XXX
売却によって子会社株式の支配を喪失した場合は、のれん未償却額のうち、
売却持分相当額を取り崩す必要があります。
子会社から関連会社への移行に係る連結修正仕訳
諸負債 XXX / 諸資産 XXX
関係会社株式 XXX / のれん XXX
非支配株主持分 XXX /
関係会社株式 = 未売却分の持分法評価額
非支配株主持分 = 資本合計 × 売却後の非支配持分比率
子会社の支配を喪失している為、貸借対照表項目の残高を全て消去する必要があります。
評価差額を計上している場合は、当該金額で消去します。
このとき、持分法評価額で関係会社株式(関連会社株式)勘定を計上します。
なお、取得関連費用が発生している場合は、関連会社株式の原価には含めません。
連結除外時の連結修正仕訳
諸負債 XXX / 諸資産 XXX
関係会社株式 XXX / のれん XXX
非支配株主持分 XXX /
利益剰余金 XXX /
関係会社株式 = 取得原価
非支配株主持分 = 資本合計 × 売却後の非支配持分比率
利益剰余金 = (取得後剰余金 - のれん償却額) × 売却後の持分比率 / 売却前の持分比率
子会社の支配を喪失している為、貸借対照表項目の残高を全て消去する必要があります。
評価差額を計上している場合は、当該金額で消去します。
また、連結除外に伴う減少額は利益剰余金勘定で計上します。
このとき、取得原価で関係会社株式(関連会社株式)勘定を計上します。
2.例題
<1>子会社の支配喪失 (子会社→関連会社)
以下の資料に基づき、次の問に答えなさい。 (単位:千円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
P社は、X1年3月末にS社株式の70%を420,000千円で取得し、S社を連結子会社とした。
X1年度末のS社資本勘定は、以下の通りであった。
資本金:500,000千円
利益剰余金:60,000千円X2年度末のS社資本勘定は以下の通りであった。
資本金:500,000千円
利益剰余金:100,000千円P社は、X4年3月末にS社株式の40%を300,000千円で売却した。
その際、売却益60,000千円を計上している。X1年度のS社が保有する土地(簿価:90,000千円)の時価は120,000千円であった。
のれんは、発生年度の翌期から10年、定額法にて償却する。
税効果会計は考慮しない。
X3年度のS社貸借対照表には、以下のものが計上されている。
諸資産:850,000千円
土地:90,000千円
諸負債:300,000千円
資本金:500,000千円
利益剰余金:140,000千円
①X1年度の連結修正仕訳を示しなさい。
資本金 500,000 / 子会社株式 420,000
利益剰余金 60,000 / 非支配株主持分 177,000
評価差額 30,000 /
のれん 7,000 /
②X1年度資本合計590,000千円 = 資本金500,000千円 + 利益剰余金60,000千円
+ 評価差額30,000千円
②X3年度の関連会社への移行に係る連結修正仕訳を示しなさい。
≪のれんの償却≫
のれん償却額 700 / のれん 700
※償却累計額:700 × 2年 = 1,400千円
≪一部売却≫
関係会社株式 240,000 / 非支配株主持分 268,000
関係会社株式売却益 31,200 / のれん 3,200
②関係会社株式240,000千円 = 取得原価420,000千円 × 売却比率40% / 70%
③非支配株主持分268,000千円 = X3年度資本合計670,000千円 × 売却比率40%
④関係会社売却損益31,200千円 = 貸借差額
⑤X3年度資本合計670,000千円 = 資本金500,000千円 + 利益剰余金140,000千円
+ 評価差額30,000千円
≪子会社から関連会社への移行≫
諸負債 300,000 / 諸資産 850,000
関係会社株式 203,400 / 土地 120,000
非支配株主持分 469,000 / のれん 2,400
②のれん2,400千円 = (のれん7,000千円 - 償却累計額1,400千円) × 売却後比率30% / 70%
③関係会社株式203,400千円 = 貸借差額
もしくは、 (取得原価420,000千円 + 取得後剰余金合計56,000千円 - 償却累計額1,400千円)
× 売却後比率30% / 70%
④非支配株主持分469,000千円 = X3年度資本合計670,000千円 × (1 - 売却後比率30%)
⑤取得後剰余金合計56,000千円 = (X3年度利益剰余金140,000千円 - X1年度利益剰余金60,000千円)
× 70%
<2>子会社の支配喪失 (連結除外)
以下の資料に基づき、次の問に答えなさい。 (単位:千円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
P社は、X1年3月末にS社株式の60%を390,000千円で取得し、S社を連結子会社とした。
X1年度末のS社資本勘定は、以下の通りであった。
資本金:550,000千円
利益剰余金:50,000千円X2年度末のS社資本勘定は以下の通りであった。
資本金:550,000千円
利益剰余金:80,000千円P社は、X4年3月末にS社株式の50%を350,000千円で売却した。
その際、売却益25,000千円を計上している。
なお、当期末において、P社はS社株式をその他有価証券として保有しており、取得原価を65,000千円で計上している。X1年度のS社が保有する土地(簿価:80,000千円)の時価は100,000千円であった。
のれんは、発生年度の翌期から10年、定額法にて償却する。
税効果会計は考慮しない。
X3年度のS社貸借対照表には、以下のものが計上されている。
諸資産:900,000千円
土地:80,000千円
諸負債:320,000千円
資本金:550,000千円
利益剰余金:110,000千円
①X1年度の連結修正仕訳を示しなさい。
資本金 550,000 / 子会社株式 390,000
利益剰余金 50,000 / 非支配株主持分 248,000
評価差額 20,000 /
のれん 18,000 /
②X1年度資本合計620,000千円 = 資本金550,000千円 + 利益剰余金50,000千円
+ 評価差額20,000千円
②X3年度の連結除外に係る連結修正仕訳を示しなさい。
≪のれんの償却≫
のれん償却額 1,800 / のれん 1,800
※償却累計額:1,800 × 2年 = 3,600千円
≪一部売却≫
関係会社株式 325,000 / 非支配株主持分 340,000
関係会社株式売却益 27,000 / のれん 12,000
②関係会社株式325,000千円 = 取得原価390,000千円 × 売却比率50% / 60%
③非支配株主持分340,000千円 = X3年度資本合計680,000千円 × 売却比率50%
④関係会社売却損益27,000千円 = 貸借差額
⑤X3年度資本合計680,000千円 = 資本金550,000千円 + 利益剰余金110,000千円
+ 評価差額20,000千円
≪連結除外≫
諸負債 320,000 / 諸資産 900,000
関係会社株式 65,000 / 土地 100,000
非支配株主持分 612,000 / のれん 2,400
利益剰余金 5,400 /
②のれん2,400千円 = (のれん18,000千円 - 償却累計額3,600千円) × 売却後比率10% / 60%
③関係会社株式65,000千円 = 取得原価65,000千円
④非支配株主持分469,000千円 = X3年度資本合計680,000千円 × (1 - 売却後比率10%)
⑤利益剰余金5,400千円 = (取得後剰余金36,000千円 - のれん償却額3,600千円)
× 売却後比率10% / 60%
⑥取得後剰余金合計36,000千円 = (X3年度利益剰余金110,000千円 - X1年度利益剰余金50,000千円)
× 60%
3.余談
取得関連費用の扱い
連結財務諸表上に、費用処理を行った取得関連費用がある場合、個別財務諸表上の売却原価に含まれている付随費用のうち、売却した部分に対応する額は、支配の喪失を伴わない一部売却と同様に、子会社株式売却損益の修正として取り扱います。
引き続き保有する部分に対応する額は、当該子会社が連結範囲から除外される際に、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に、"連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)"などの、その内容を示す名称で計上することとなります。
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