日商簿記範囲外のEX論点【退職給付会計③】~退職給付会計の簡便法~

日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。

今回は、棚卸資産の論点から「退職給付会計における簡便法」を紹介します。




1.退職給付会計の簡便法

概要

退職給付債務の計算において、一定の要件を満たしている場合簡便法での計算が認められています。

一定の要件とは、

  • 従業員数が300人未満の小規模企業の場合
    ※ただし、300人以上であっても年齢や勤務期間に偏りがある等の理由で、原則法による計算結果一定の信頼性が得られないと判断された場合も適用可能

  • 高い信頼性をもって数理計算上の見積もりが困難な場合

  • 退職給付に係る財務諸表項目の重要性が乏しい場合

を指します。

なお、連結子会社の場合であっても、小規模企業にあたる場合は簡便法を適用することができます。


算定方法

退職一時金制度と企業年金制度で異なります。

退職一時金制度では、

  1. 期末自己都合要支給額の金額

  2. 期末自己都合要支給額に割引率係数昇給率係数乗じた金額
    ※いずれの係数も、適用指針の資料1・資料2に記載されていますが、下記の方法で算定が可能です。

  3. 期末自己都合要支給額に比較指数を乗じた金額
    ※比較指数は、原則法による退職給付債務自己都合要支給額の比を指します。
    そのため、一度は原則法によって退職給付債務を計算する必要があります。

のいずれか3つを適用することができます。

一方、企業年金制度では

  1. 年金財政計算上の数理債務の金額

  2. 数理債務に比較指数を乗じた金額
    ※比較指数は、原則法による退職給付債務年金財政計算上の数理債務の比を指します。
    そのため、一度は原則法によって退職給付債務を計算する必要があります。

  3. 受給者および待機者に関しては数理債務の金額を、在籍者に関しては退職一時金制度上記1.か2.の算定方法で得られた金額

のいずれか3つを適用することができます。

なお、退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している場合は、

  1. 未移行の部分は退職一時金制度のいずれか3つの算定方法を、移行済みの部分は企業年金制度のいずれか3つの算定方法で得られた金額

  2. 在籍者の場合は在籍者に関しては退職一時金制度上記1.~3.の算定方法で得られた金額、受給者および待機者は数理債務の金額

のいずれか2つを適用することができます。


計算方法

割引率係数は、以下の方法で算定が可能です。

割引率係数 = 1 / (1 + 割引率) ^ 平均残存勤務期間

また、昇給率係数は以下の方法で算定が可能です。

昇給率係数 = 1 × (1 + 割引率) ^ 平均残存勤務期間


仕訳

退職給付費用計上時の仕訳

退職給付費用  XXX / 退職給付引当金  XXX

退職給付費用時の仕訳は、原則法適用時と同様です。


2.例題

(1)退職給付会計の簡便法(退職一時金制度)

以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)

  • 当社は、退職一時金制度を採用している。
    従業員は300人未満であり、数理計算上の見積もりを行うことが困難であるため、退職給付費用の計算に関して簡便法を適用している。

  • 退職給付に関する資料は、以下の通りだった。
    期首自己都合要支給額:225,000円
    割引率:年4%
    昇給率:年2%
    期末自己都合要支給額:250,000円

  • 平均勤続年数は10年であり、割引率係数は0.68、昇給率係数は1.48である。

①簡便法による退職給付費用の算定方法を、期末自己都合要支給額の金額にしている場合の仕訳を示しなさい。

退職給付費用  22,500 / 退職給付引当金  22,500

退職給付費用22,500 =期末自己都合要支給額250,000 - 期首自己都合要支給額225,000

②簡便法による退職給付費用の算定方法を、期末自己都合要支給額に割引率係数と昇給率係数を乗じた金額にしている場合の仕訳を示しなさい。

退職給付費用  25,160 / 退職給付引当金  25,160

①退職給付費用25,160 =期末退職給付引当金251,600 - 期首退職給付引当金226,440
②期首退職給付引当金226,440 = 期首自己都合要支給額225,000 × 割引率係数0.68 × 昇給率係数1.48
③期末退職給付引当金251,600 = 期末自己都合要支給額250,000 × 割引率係数0.68 × 昇給率係数1.48


(2)退職給付会計の簡便法(企業年金制度)

以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)

  • 当社は、従業員非拠出型の確定給付企業年金制度を採用している。

  • 退職給付に関する資料は、以下の通りだった。
    期首数理債務:300,000円
    期首年金資産:220,000円
    当期掛金拠出額:15,000円
    年金資産運用益:10,500円
    期末数理債務:345,000円
    期末年金資産:245,500円

①簡便法による退職給付費用の算定方法を、数理債務の金額にしている場合の仕訳を示しなさい。

退職給付引当金  15,000 / 退職給付費用  15,000

退職給付費用  34,500 / 退職給付引当金  34,500

①退職給付費用25,160 =期末退職給付引当金99,500 - (期首退職給付引当金80,000 - 掛金拠出額15,000)
②期首退職給付引当金80,000 = 期首数理債務300,000 - 期首年金資産220,000
③期末退職給付引当金99,500 = 期末数理債務345,000 - 期首年金資産220,000


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