日商簿記範囲外のEX論点【引当金①】~訴訟に関する引当金~
日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。
今回は、投資信託の論点から「訴訟・法令違反に関する引当金」を紹介します。
※今後、取り扱いが変わる可能性があります。
1.訴訟・法令違反等に関する引当金
概要
訴訟や法令違反等に関して、引当金の計上要件を満たした場合、それらに関して引当金を設定する必要があります。
これらに該当する引当金は、
訴訟損失引当金
独占禁止法等の違反に関連する引当金
といったものがあります。
なお、これら訴訟等は、重要性の乏しいものを除き、偶発債務としてその訴訟等の内容及び金額を財務諸表に注記する必要があります。
訴訟損失引当金
訴訟損失引当金とは、訴訟事件等によって相手から損害賠償を請求されている場合に、損害賠償の支払等の損失に備えて計上される引当金のことです。
訴訟が進行中であっても、敗訴の可能性が高まっており、損害賠償等の金額を合理的に見積ることができる段階に至った際に、引当金の計上要件を満たすことができれば、訴訟損失引当金等の勘定科目で計上されます。
引当金の計上要件に訴訟損失引当金を当てはめると、下記のようになります。
将来の特定の費用又は損失である
⇒損害賠償は、将来において訴訟に敗訴することで支払うその発生が当期以前の事象に起因する
⇒訴訟事件等は、当期以前において原告と被告との間で生じた問題を巡って提起される発生の可能性が高い
⇒敗訴の可能性が高まった(損害賠償を支払う可能性が高い)場合は、発生の可能性が高いと考えられる金額を合理的に見積ることが可能
⇒損害賠償の請求金額等から、損失の見込額を合理的に見積もることができるか検討する
独占禁止法の違反に関連する引当金
独占禁止法等の違反に関連する引当金とは、独占禁止法等に関連した課徴金等の支払いや、その原因となった違法行為に関連して提起された訴訟等における損害賠償金等の支払いに備えて計上される引当金のことです。
引当金の計上要件に、独占禁止法等の違反に関連する引当金を当てはめると、下記のようになります。
将来の特定の費用又は損失である
⇒課徴金等は、将来において当局の決定等により支払うその発生が当期以前の事象に起因する
⇒当局の調査等が契機となって、当期以前の違反行為が認定される発生の可能性が高い
⇒当局の立入調査等が事前に行われており、調査の内容等が把握できる場合に、発生可能性が高いか検討する金額を合理的に見積ることが可能
⇒当局の立入調査等が事前に行われており、調査の内容等が把握できる場合に、金額を合理的に見積ることができるか検討する
仕訳
引当金計上の仕訳
引当金の計上要件を満たした際に、合理的に見積もられた金額で引当金を繰り入れます。
2.例題
(1)訴訟・法令違反等に関する引当金
以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:千円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
A社は、X2年2月に、ある技術の特許権の侵害を理由に、B社から提訴された。
A社は、訴えの対象となっている技術が当社独自のものであると考えているが、敗訴する可能性は不明である。B社の提示した損害賠償請求額は、6,000千円であった。
X2年3月、第一審が地方裁判所で行われ、B社の主張を全面的に認める判決を下した。
この結果を受け、A社は訴訟による損失の発生可能性が高まっていると判断した。A社の訴訟による損失の発生可能性の判断は、弁護士の見解を踏まえたものであり、合理的なものであった。
①X2年3月の仕訳を示しなさい。