日商簿記範囲外のEX論点【インセンティブ・プラン⑥】~株式の無償交付(事前交付型)~
日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。
今回は、インセンティブ・プランの論点から「株式の無償交付(事前交付型)」を紹介します。
1.株式の無償交付(事前交付型)
概要
従来、取締役や執行役等の報酬として株式を交付する場合、払込価額を定める必要がありました。
2021年から、会社法の改正によって無償で株式の交付が可能になりました。
これらは、自社株式を用いる点でストック・オプションと類似しており、費用の認識・測定はストック・オプションの基準に準じることとされています。
また、これらは事前に交付するもの(事前交付型)と事後に交付するもの(事後交付型)に分けられます。
事前交付型に当たる制度として、
リストリクテッド・ストック(Restricted Stock)
パフォーマンス・シェア(Performance Share)
があります。
リストリクテッド・ストックとは、一定の譲渡制限が設けられた株式を取締役等に交付し、勤務条件の達成に応じて制限が解除される株式報酬制度です。
事前交付型譲渡制限付株式とも呼ばれます。
株式をそのまま交付するため、投資家としての立場を得ることができますが、勤務条件を達成できなかった場合は、企業へ没収されることとなります。
パフォーマンス・シェアとは、リストリクテッド・ストック同様に、一定の譲渡制限が設けられた株式を取締役等に交付し、業績目標の達成度合いに応じて制限が解除される株式報酬制度です。
初年度発行型パフォーマンス・シェアとも呼ばれます。
こちらも株式をそのまま交付するため、投資家としての立場を得ることができますが、業績目標が達成できなかった部分は、企業へ没収されることとなります。
計算式
権利が確定するまでの間、株式の無償交付にかかる費用を各期に配分する必要があります。
各期に配分される費用計上額の計算式は、以下の通りです。
ただし、株式数が退職や条件未達成等によって失効することが確定している場合、株式数は、
付与日:株式数 - 失効の見積数
見積数に重要な変動が生じた場合:株式数 - 変動後の見積数
権利確定日:株式数 - 実際の失効数
で計算することとなります。
仕訳(新株発行)
付与時の仕訳(新株発行の場合)
新株を発行する場合は、株式の株は増加しますが、資本を増加させる財産等の増加は無いため、仕訳は不要です。
決算時の仕訳
権利確定日前の決算整理仕訳として、各期に配分される費用計上額(上記参照)で、報酬費用勘定等の適当な勘定を計上します。
相手勘定は、資本金勘定で計上しますが、資本金等増加限度額の2分の1を超えない額は、資本金として計上せずに資本準備金として計上することができます。
没収時の仕訳
権利確定条件が達成されず、没収によって株式を獲得した場合は、自己株式の数のみ増加する為、仕訳は不要です。
権利確定時の仕訳
権利確定日では、株式数を権利確定した数に一致させる必要があります。
その他は、決算時の仕訳と同一です。
戻入時の仕訳
失効数の重要な変動によって、報酬費用の戻し入れが発生した場合は、対応する金額で、その他資本剰余金を減額させます。
仕訳(自己株式処分)
付与時の仕訳(自己株式処分の場合)
自己株式を処分する場合は、処分した自己株式の帳簿価額で、その他資本剰余金を減額させます。
決算時の仕訳
権利確定日前の決算整理仕訳として、各期に配分される費用計上額(上記参照)で、報酬費用勘定等の適当な勘定を計上します。
没収時の仕訳
権利確定条件が達成されず、没収によって株式を獲得した場合は、新株発行時と異なり、無償取得した部分に相当する金額で、自己株式勘定を計上します。
自己株式の増加として扱う理由として、無償取得が生じたのは、条件を満たすサービスの提供を受けられず、当初意図した交換取引が成立しなかったことによるものと考えられる為、とされています。
権利確定時の仕訳
権利確定日では、株式数を権利確定した数に一致させる必要があります。
その他は、決算時の仕訳と同一です。
戻入時の仕訳
新株発行時の仕訳と同一
2.例題
<1>株式の無償交付(事前交付型)
(新株を発行する場合)
以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
A社は、X1年6月の株主総会において、取締役8名に対して、報酬等として新株の発行を行うことを決議し、X1年7月に株式を付与した。
この株式はX3年6月まで譲渡が制限されており、取締役が自己都合で退任した場合は、当該取締役に割り当てた株式は全てA社が無償取得することとした。報酬等に関する情報は以下の通りであった。
株式数:取締役1名あたり300株
権利行使期間:X3年7月から2年間
1株当たり公正な評価単価:@3,000付与時点において、3名の自己都合による退任による失効を見込んでいる。
実際の退任者数は、
X2年3月末まで:1名
X3年3月末まで:1名 (合計2名)
であった。報酬費用に対応して計上する払込資本は、全て資本金とする。
①付与時の仕訳を示しなさい。
②X1年度の決算整理仕訳を示しなさい。
≪費用計上≫
≪没収による取得≫
③X2年度の決算整理仕訳を示しなさい。
≪費用計上≫
≪没収による取得≫
④権利確定日の仕訳を示しなさい。
≪費用計上≫
≪没収による取得≫
<2>株式の無償交付(事前交付型)
(自己株式を処分する場合)
以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
A社は、X1年6月の株主総会において、取締役12名に対して、報酬等として自己株式の処分を行うことを決議し、X1年7月に株式を付与した。
この株式はX3年6月まで譲渡が制限されており、取締役が自己都合で退任した場合は、当該取締役に割り当てた株式は全てA社が無償取得することとした。報酬等に関する情報は以下の通りであった。
株式数:取締役1名あたり400株
権利行使期間:X3年7月から2年間
1株当たり公正な評価単価:@2,500
自己株式の帳簿単価:@2,000付与時点において、3名の自己都合による退任による失効を見込んでいる。
実際の退任者数は、
X2年3月末まで:1名
X3年3月末まで:2名
X3年6月末まで:2名 (合計5名)
であった。
①付与時の仕訳を示しなさい。
②X1年度の決算整理仕訳を示しなさい。
≪費用計上≫
≪没収による取得≫
③X2年度の決算整理仕訳を示しなさい。
≪費用計上≫
≪没収による取得≫
④権利確定日の仕訳を示しなさい。
≪費用計上≫
≪没収による取得≫