日商簿記範囲外のEX論点【連結会計①】~子会社の増資~
日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。
今回は、連結会計の論点から「子会社の増資」を紹介します。
※この論点は、一部日商簿記1級の範囲を含みます。
1.子会社の増資
全体概要
子会社の増資には、無償増資と有償増資の2種類あり、このうち有償増資は
株主割当増資
第三者割当増資
公募増資
の3種類に分けることができます。
無償増資は、準備金や剰余金等の、会社の財産を資本金に組み入れる方法です。
剰余金等を資本金に振り替える場合、株主総会の普通決議が必要になります。
株主割当増資は、既存の株主に対して、持株比率に応じて新株を割り当てる方法です。
株主の構成や持株比率が変わることはありませんが、大規模な資金調達には適していません。
第三者割当増資は、特定の第三者(役員、金融機関等)に、新株を割り当てる方法です。
株式を付与する相手を選ぶことができ、引受先との関係強化を図ることができますが、既存株主の持株比率は減少します。
公募増資は、不特定多数の投資家を対象に、新株を割り当てる方法です。
大規模な資金調達に向いていますが、企業にとって望ましくない投資家(短期的に利益を追求する投資家)が株主になる可能性があります。
2.持分比率が変動しない子会社の増資
概要
持分比率が変動しない増資の方法は、
無償増資
株主割当増資
の2種類です。
仕訳
無償増資の連結修正仕訳
≪連結修正仕訳≫
資本金 XXX / 資本剰余金 XXX
≪個別上の取引≫
資本準備金など XXX / 資本金 XXX
無償増資の場合、資本の増加は生じず、持分比率も変動することはありません。
よって、連結修正仕訳で、個別上で行われた無償増資の仕訳を取り消す処理を行います。
株式割当増資の連結修正仕訳
≪連結修正仕訳≫
資本金 XXX / 子会社株式 XXX
資本剰余金 XXX / 非支配株主持分 XXX
非支配株主持分 = 増資による資本増加額 × 非支配持分比率
≪個別上の取引(親会社)≫
子会社株式 XXX / 現金預金 XXX
≪個別上の取引(子会社)≫
現金預金 XXX / 資本金 XXX
/ 資本準備金 XXX
株主割当増資の場合、持分比率に変更はありませんが、子会社の資本は増加し、親会社は引受分を子会社株式として計上します。
よって、連結修正仕訳で、原始取得に準じた投資(子会社株式)と資本の相殺消去を行います。
なお、個別上で行われた仕訳は以下の通りです。
3.持分比率が変動する子会社の増資
概要
持分比率が変動する増資の方法は、
第三者割当増資
公募増資
の2種類です。
仕訳
持分比率が変動する場合の連結修正仕訳
資本金 XXX / 子会社株式 XXX
資本剰余金 XXX / 非支配株主持分 XXX
資本剰余金 = 追加取得・一部売却時の貸借差額
非支配株主持分 = 増資額 × 増資前の非支配持分比率 - 増資後の資本合計 × 増減分の持分比率
増資によって持分比率が変動する場合、まず増資前の持分比率に応じて株主割当増資を行ったものとみなして処理を行います。
その後、比率が増加した場合は追加取得、減少した場合は一部売却を行ったものとみなして処理を行います。
4.例題
<1>持分比率が増加しない子会社の増資
以下の資料に基づき、次の問に答えなさい。 (単位:千円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
P社は、X2年3月末にS社発行済株式総数の70%を取得し、S社を連結子会社とした。
なお、のれんは発生していない。S社は、X3年3月末に80,000千円の増資を行い、全額を資本金とした。
X3年度3月末の資本勘定は以下の通りであった。
資本金:880,000千円
資本剰余金:120,000千円
利益剰余金:250,000千円税効果会計は考慮しない。
①X2年度の連結修正仕訳を示しなさい。
資本金 80,000 / 子会社株式 56,000
/ 非支配株主持分 24,000
②非支配株主持分24,000千円 = 増資額80,000千円 × 30%
②仮に、増資を行わず、80,000千円分の資本剰余金を資本金に繰り入れた場合の連結修正仕訳を示しなさい。
資本剰余金 80,000 / 資本金 80,000
<2>持分比率が増加しない子会社の増資
以下の資料に基づき、次の問に答えなさい。 (単位:千円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
P社は、X2年3月末にS社発行済株式総数の70%を取得し、S社を連結子会社とした。
なお、のれんは発生していない。S社の発行済株式総数(増資前)は450,000株である。
S社は、X3年3月末に第三者割当増資を行い、発行価額1,800円(資本金計上額@1,200)で50,000株発行し、うち80%はP社が、残りはそれ以外の株主が受け入れた。
X3年度3月末の資本勘定は以下の通りであった。
資本金:960,000千円
資本剰余金:80,000千円
利益剰余金:150,000千円税効果会計は考慮しない。
①X2年度の連結修正仕訳を示しなさい。
資本金 60,000 / 子会社株式 72,000
資本剰余金 27,100 / 非支配株主持分 15,100
②子会社株式72,000千円 = 増資額@1,800 × 50,000株 × 80%
③非支配株主持分15,100千円 = 増資額@1,800 × 50,000株 × 30%
- 増資後の資本合計1,190,000千円 × みなし取得比率1%
④資本剰余金27,100 = 貸借差額
(新株発行分30,000千円 - 増資による持分増減額2,900千円)
⑤増資後の資本合計1,190,000千円 = 資本金960,000千円 + 資本剰余金80,000千円
+ 利益剰余金150,000千円
⑥みなし取得比率1% = 親会社持分株数355,000株 / (発行済株式総数450,000株 + 新株50,000株) - 70%
⑦親会社持分株数355,000株 = 発行済株式総数450,000株 × 70% + 新株50,000 × 80%
②仮に、P社が新株50,000株を60%分受け入れた場合の仕訳を示しなさい。
資本金 60,000 / 子会社株式 54,000
資本剰余金 32,900 / 非支配株主持分 38,900
②非支配株主持分38,900千円 = 増資額@1,800 × 50,000株 × 30%
+ 増資後の資本合計1,190,000千円 × みなし売却比率1%
③資本剰余金32,900 = 貸借差額
(新株発行分30,000千円 + 増資による持分増減額2,900千円)
④みなし売却比率1% = 親会社持分株数345,000株 / (発行済株式総数450,000株 + 新株50,000株) - 70%
⑤親会社持分株数345,000株 = 発行済株式総数450,000株 × 70% + 新株50,000 × 60%
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