日商簿記範囲外のEX論点【インセンティブ・プラン⑦】~株式の無償交付(事後交付型)~
日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。
今回は、インセンティブ・プランの論点から「株式の無償交付(事後交付型)」を紹介します。
1.株式の無償交付(事後交付型)
概要
事後交付型に当たる制度として、
リストリクテッド・ストック・ユニット(Restricted Stock Unit)
パフォーマンス・シェア・ユニット(Performance Share)
等があります。
リストリクテッド・ストック・ユニットとは、事前にユニット(ポイント)と呼ばれる単位を付与し、勤務条件の達成によって、ユニット数に応じた数の株式が付与される株式報酬制度です。
事後交付型譲渡制限付株式とも呼ばれます。
パフォーマンス・シェア・ユニットとは、リストリクテッド・ストック同様に、事前にユニットを付与し、業績目標の達成度合いによって、ユニット数に応じた数の株式が付与される株式報酬制度です。
業績連動発行型パフォーマンス・シェアとも呼ばれます。
いずれも、事前にユニット(ポイント)と呼ばれる単位を付与し、条件達成後に株式を付与する株式報酬制度となります。
事前交付型の制度と比較して、一部を現金で支給し、残りを株式で支給というように、報酬制度を自由に設計できます。
計算式
事前交付型と同様、権利が確定するまでの間、株式の無償交付にかかる費用を各期に配分する必要があります。
各期に配分される費用計上額の計算式は、以下の通りです。
ただし、株式数が退職や条件未達成等によって失効することが確定している場合、株式数は、
付与日:株式数 - 失効の見積数
見積数に重要な変動が生じた場合:株式数 - 変動後の見積数
権利確定日:株式数 - 実際の失効数
で計算することとなります。
仕訳
付与時の仕訳
事前交付型と異なり、付与日における仕訳は不要です。
決算時の仕訳
権利確定日前の決算整理仕訳として、各期に配分される費用計上額(上記参照)で、株式引受権勘定(純資産)を計上します。
権利確定時の仕訳
権利確定日では、株式数を権利確定した数に一致させる必要があります。
その他は、決算時の仕訳と同一です。
戻入時の仕訳
失効数の重要な変動によって、報酬費用の戻し入れが発生した場合は、対応する金額で、株式引受権を減額させます。
新株発行時の仕訳
割当日において、新株を発行した場合は、株式引受権の金額を資本金勘定で計上しますが、資本金等増加限度額の2分の1を超えない額は、資本金として計上せずに資本準備金として計上することができます。
自己株式処分時の仕訳
割当日において、自己株式を処分した場合は、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額の差額で、その他資本剰余金を増減させます。
2.例題
<1>株式の無償交付(事後交付型)
以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
A社は、X1年6月の株主総会において、取締役9名に対して、一定の条件を満たした場合に、報酬等として新株の発行を行うことを決議し、X1年7月に契約を締結した。
報酬等に関する情報は以下の通りであった。
株式数:取締役1名あたり400株
権利確定日:X3年6月末日
権利行使期間:X3年7月から2年間
1株当たり公正な評価単価:@3,500割当の条件は、X1年7月1日からX3年6月30日までの期間、取締役として業務を行うこととした。
達成ができなかった場合、契約は失効する。付与時点において、2名の自己都合による退任による失効を見込んでいる。
実際の退任者数は、
X2年3月末まで:なし
X3年3月末まで:2名
X3年6月末まで:1名 (合計3名)
であった。報酬費用に対応して計上する払込資本は、全て資本金とする。
①付与時の仕訳を示しなさい。
②X1年度の決算整理仕訳を示しなさい。
③X2年度の決算整理仕訳を示しなさい。
④権利確定日の仕訳を示しなさい。
⑤新株発行時の仕訳を示しなさい。
⑥仮に、新株発行ではなく、自己株式の処分を行うことを決議していた場合の、処分時の仕訳を示しなさい。
なお、自己株式の取得原価は8,000,000円とする。