日商簿記範囲外のEX論点【インセンティブ・プラン⑧】~株式の現物出資~

日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。

今回は、純資産の論点から「株式の現物出資」を紹介します。
※今後、取り扱いが変わる可能性があります。




1.株式の現物出資(事前交付型)

概要

取締役や執行役等の報酬として、従来通りの方法である現物出資方式で株式の発行を行うことも可能です。

事前交付型のインセンティブ・プランの場合、株式付与時に払い込みが必要となります。

なお、会計上の処理は現時点で明確に定められていませんが、「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」には、インセンティブ・プランの会計処理が列挙されています。
その為、下記に示す仕訳は、それを参考とします。


仕訳

付与時の仕訳

前払費用  XXX / 資本金  XXX

株式付与時、役員等からの払込金額で、前払費用勘定を計上します。

なお、上記仕訳は

前払費用  XXX / 金銭債務  XXX
金銭債権  XXX / 資本金   XXX
金銭債務  XXX / 金銭債権  XXX

を省略したものです。

決算時の仕訳

報酬費用  XXX / 前払費用  XXX

権利確定日前の決算整理仕訳として、現物出資額の償却を行います。

現物出資額を権利確定期間で除した額で、報酬費用勘定を計上します。

没収時の仕訳

損失  XXX / 前払費用  XXX

権利確定条件が達成されず、没収によって株式を獲得した場合、現物出資額を取り崩します
没収による株式の取得は、自己株式の増加として処理されます。

なお、相手勘定は現時点で明確に定められておらず、便宜上損失としています


2.株式の現物出資(事後交付型)

概要

事後交付型のインセンティブ・プランの場合、条件達成時に払い込みが必要となります。

なお、会計上の処理は現時点で明確に定められていませんが、「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」には、インセンティブ・プランの会計処理が列挙されています。
その為、下記に示す仕訳は、それを参考とします。


計算式

事後交付型の場合、権利が確定するまでの間、現物出資額を各期ごとに算定し、費用として計上する必要があります。

各期に配分される費用計上額の計算式は、以下の通りです。

費用計上額 = 株式数 × 期末株価 × 当期末までに経過した対象勤務期間 / 対象勤務期間 - 前期までの費用計上額


仕訳

付与時の仕訳

仕訳不要

事前交付型と異なり、付与日における仕訳は不要です。

決算時の仕訳

株式報酬費用  XXX / 株式報酬引当金  XXX

権利確定日前の決算整理仕訳として、各期に配分される費用計上額(上記参照)で、株式報酬費用勘定を計上します。

なお、相手勘定は現時点で明確に定められておらず、便宜上株式報酬引当金勘定にて計上しています。

現物出資時の仕訳

株式報酬引当金  XXX / 資本金  XXX

条件達成後、株式等が付与され、直ちに現物出資を行った場合、積み立てた株式報酬引当金の額を、資本金等へ振り替えます。

なお、上記仕訳は

株式報酬引当金  XXX / 金銭債務  XXX
金銭債権     XXX / 資本金   XXX
金銭債務     XXX / 金銭債権  XXX

を省略したものです。

条件未達時の仕訳

株式報酬引当金  XXX / 株式報酬費用  XXX

権利確定条件が達成されなかった場合、株式の発行は行われない為、株式報酬引当金を取り崩します


3.例題

<1>株式の現物出資(事前交付型)

以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。

  • A社は、X1年6月の株主総会において、取締役12名に対して、報酬等として新株の発行を行うことを決議し、X1年7月に取締役からの現物出資を受け、株式を付与した。
    この株式はX3年6月まで譲渡が制限されており、取締役が自己都合で退任した場合は、当該取締役に割り当てた株式は全てA社が無償取得することとした。

  • 報酬等に関する情報は以下の通りであった。
    株式数:取締役1名あたり400株
    現物出資額:45,000,000円

  • 報酬費用に対応して計上する払込資本は、全て資本金とする。

①付与時の仕訳を示しなさい。

前払費用  45,000,000 / 資本金  45,000,000

②X1年度の決算整理仕訳を示しなさい。

報酬費用  16,875,000 / 前払費用  16,875,000

報酬費用16,875,000 = 現物出資額45,000,000 × 9ヵ月 / 24ヵ月

③X2年度の決算整理仕訳を示しなさい。

報酬費用  22,500,000 / 前払費用  22,500,000

報酬費用22,500,000 = 現物出資額45,000,000 × 21ヵ月 / 24ヵ月
- X1年度報酬費用16,875,000

④権利確定日の仕訳を示しなさい。

報酬費用  5,625,000 / 前払費用  5,625,000

報酬費用5,625,000 = 現物出資額45,000,000
- X1年度報酬費用16,875,000 - X2年度報酬費用22,500,000

⑤仮に、12ヵ月経過後に権利不確定によって株式を無償取得することとなった場合の仕訳を示しなさい。
なお、報酬費用は9ヵ月分が計上されており、残額は一括で損失勘定として処理するものとする。

報酬費用  5,625,000 / 前払費用  5,625,000

損失  22,500,000 / 前払費用  22,500,000

①報酬費用5,625,000 = 現物出資額45,000,000 × 12ヵ月 / 24ヵ月
- X1年度報酬費用16,875,000
②損失額22,500,000 = 現物出資額45,000,000
- X1年度報酬費用16,875,000 - 3ヶ月分の報酬費用5,625,000


<2>株式の現物出資(事後交付型)

以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。

  • A社は、X1年6月の株主総会において、取締役10名に対して、一定の条件を満たした場合に、現物出資方式にて新株の発行を行うことを決議し、X2年4月に契約を締結した。

  • 報酬等に関する情報は以下の通りであった。
    X2年度の見積交付株式数:3,000株
    X3年度の見積株交付式数:3,200株
    X2年度の期末日レート:@2,500
    X3年度の期末日レート:@2,800

  • 割当の条件は、X2年4月1日からX4年3月31日までの期間、取締役として業務を行うこととした。
    達成ができなかった場合、契約は失効する。

  • 報酬費用に対応して計上する払込資本は、全て資本金とする。

①付与時の仕訳を示しなさい。

仕訳不要

②X2年度の決算整理仕訳を示しなさい。

株式報酬費用  3,750,000 / 株式報酬引当金  3,750,000

株式報酬費用3,750,000 = X2年度の見積交付株式数3,000株 × X2年度の期末日レート@2,500
× 12ヵ月 / 24ヵ月

③X3年度の決算整理仕訳を示しなさい。

株式報酬費用  5,210,000 / 株式報酬引当金  5,210,000

引当金等  5,210,000 / 資本金  5,210,000

株式報酬費用7,500,000 = X3年度の見積交付株式数3,200株 × X3年度の期末日レート@2,800
- X2年度株式報酬費用3,750,000


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召古帯
微力ですけども、走らさせていただいてます。 ┗(^o^ )┓三┗(^o^ )┓三