日商簿記範囲外のEX論点【インセンティブ・プラン⑩】~株式交付信託②~
日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。
今回は、インセンティブ・プランの論点から「株式交付信託(従業員持株会型)」を紹介します。
※今後、取り扱いが変わる可能性があります。
1.株式交付信託(従業員持株型)
概要
従業員向け株式交付信託のうち、従業員持株型とは、従業員持株会を設立し、そこから自社株を取得する株式交付信託です。
従業員持株会は、加入した従業員等から給料・賞与を一部天引きし、それにより自社株を購入した後、天引きされた額の割合に応じて従業員等に自社株を交付する制度です。
信託終了後、株価上昇により信託財産が残っている場合は、それらを換金して従業員持株会の加入者に分配します。
株価下落により借入金が残っている場合は、債務保証をしている会社が弁済します。
仕訳
※信託会社側の仕訳は割愛します。
信託拠出時の仕訳
信託の設定時、信託の設定及び運営の諸費用等が発生した場合、信託口勘定を計上します。
保証料受け取り時の仕訳
信託会社が借入を行った際、委託者側が債務保証を行うことがあります。
信託会社から、保証料を受け取った場合は、受取手数料勘定等の適当な勘定で計上します。
自己株式処分時の仕訳
自己株式処分差損益は、信託への自己株式処分時に認識します。
決算時の仕訳
株式交付信託が総額法(株式交付信託①の4.余談を参照)を適用できる場合、信託の決算を企業側の決算へ取り込む必要があります。
その際、信託に係る損益は従業員に帰属する為、諸費用等は相殺されます。
なお、この決算時の仕訳は下記の仕訳を省略したものであり、本来行われている処理は以下の通りとなります。
≪総額法の適用≫
≪信託口への振替≫
≪自社株式の振替≫
信託会社の元本返済時の仕訳
信託会社側が借入金を返済した場合、本来は委託者側の仕訳は不要です。
ただし、株式の売却損が発生したことにより、債務保証の履行が必要になった場合は、以下の仕訳を行う必要があります。
拠出額の費用処理時の仕訳
信託終了時、当初に拠出した諸費用の額を福利厚生費勘定等の適当な勘定で計上します。
※なお、信託期間にわたって按分する処理も考えられます。
2.例題
<1>株式交付信託(従業員持株会型)
以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
A社は、委託者として、一定の要件を満たした当該企業の役員を受益者、信託銀行を受託者とする信託契約を行うことを決め、株式給付規程を設定した。
なお、A社側は信託の変更をする権限を有している。信託に関する情報は以下の通りであった。
信託会社側の借入金:450,000円
信託の設定及び運営の諸費用:20,000円
年間受け取り保証料:6,000円
株式付与数:1ポイントにつき1株
信託の期間:X1年4月から2年間A社株式に関する情報は以下の通りであった。
A社株式の帳簿価額:1株当たり@2,500
A社株式の4月時点の時価:1株当たり@3,000
X1年度のA社株式の売却時点の時価:1株当たり@3,100
X2年度のA社株式の売却時点の時価:1株当たり@2,800A社はX1年4月に、自己株式150株の処分を行う。
また、信託会社はX1年度にA社株式を70株、X2年度に80株を処分する。信託に係る損益は、上記項目および株式の売却損益を除き、考慮しない。
また、信託会社の資産および負債は、簡略化の為、現金預金・A社株式と信託元本のみ考慮するものとする。
①信託の拠出時の仕訳を示しなさい。
②X1年度の保証料受け取り時の仕訳を示しなさい。
③自己株式処分時の仕訳を示しなさい。
④X1年度の決算整理仕訳を示しなさい。
≪総額法の適用≫
⑤X2年度の保証料受け取り時の仕訳を示しなさい。
⑥信託会社は、X3年3月に借入金を返済したが、その際に損失が発生した。
A社側の仕訳を示しなさい。
⑦X2年度の決算整理仕訳を示しなさい。
≪前期末分の振り戻し≫
≪拠出額の費用処理≫