日商簿記範囲外のEX論点【インセンティブ・プラン②】~ストック・オプション①~
日商簿記3級から1級の範囲外の論点、および範囲内ではあるものの出題率の極めて低い論点を紹介します。
基本的に、公認会計士・税理士等で紹介されるような論点となります。
なお、論点に対しての適用指針等は紹介しません。
今回は、インセンティブ・プランの論点から「ストック・オプション」を紹介します。
※この論点は、一部日商簿記1級の範囲を含みます。
1.ストック・オプション
概要
ストック・オプション(Stock Option)とは、自社の株式を原資産とするコール・オプション(購入する権利)のうち、企業が従業員等に対して、報酬として付与される新株予約権のことです。
権利確定条件達成後、権利を行使できる期間(権利行使期間)中に、権利行使があれば株式を発行することになります。
ストック・オプションは、
有償ストック・オプション
無償ストック・オプション
信託型ストック・オプション
の三種類に分けることができます。
※ここでは無償ストック・オプションを紹介します。
計算式
権利が確定するまでの間、ストック・オプションにかかる費用を各期に配分する必要があります。
各期に配分される費用計上額の計算式は、以下の通りです。
ただし、ストック・オプション数が退職や条件未達成等によって失効することが確定している場合、ストック・オプション数は、
付与日:付与数 - 失効の見積数
見積数に重要な変動が生じた場合:付与数 - 変動後の見積数
権利確定日:付与数 - 実際の失効数
で計算することとなります。
仕訳
付与時の仕訳
付与時は、対価の払い込み等が発生しないため、仕訳は不要です。
決算時の仕訳
権利確定日前の決算整理仕訳として、各期に配分される費用計上額(上記参照)で、株式報酬費用勘定(販売費および一般管理費等)を計上します。
相手勘定は、新株予約権勘定で計上します。
権利確定時の仕訳
権利確定日では、株式数を権利確定した数に一致させる必要があります。
その他は、決算時の仕訳と同一です。
権利行使時の仕訳
権利失効時の仕訳
権利行使時、および権利失効時の仕訳は、新株予約権の処理に準じます。
2.例題
<1>ストック・オプションの権利確定
以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
A社は、X1年6月の株主総会において、従業員80名に対してストック・オプションを付与することを決議し、X1年7月に付与した。
このストック・オプションは他社に譲渡できず、また一部行使はできないものであった。ストック・オプションの条件は以下の通りであった。
付与数:従業員1名あたり100個 (合計8,000個)
1個当たり株式数:3株 (合計24,000株)
1株当たり行使時の払込金額:6,000円
権利確定日:X3年6月末日
権利行使期間:X3年7月から2年間
1個当たり公正な評価単価:@800ストック・オプションの権利行使時の払込金額は、全額を資本金とする。
付与時点において、3名の退職による失効を見込んでいる。
X3年6月末までに実際に退職をしたのは4名であった。
なお、X3年3月末に、失効見込みを5名に修正している。ストック・オプションを行使した人数は、以下の通りであった。
X4年3月末:行使25名
X5年3月末:行使40名
X6年3月末:行使8名、失効3名
①X1年度の決算整理仕訳を示しなさい。
②X2年度の決算整理仕訳を示しなさい。
③権利確定日の仕訳を示しなさい。
④X3年度の権利行使時の仕訳を示しなさい。
⑤X4年度の権利行使時の仕訳を示しなさい。
⑥X5年度の権利行使時および失効時の仕訳を示しなさい。
<2>複数の権利確定条件
以下の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。 (単位:円)
会計期間は、4月1日~3月31日とする。
B社は、X1年6月の株主総会において、従業員60名に対してストック・オプションを付与することを決議し、X1年7月に付与した。
このストック・オプションは他社に譲渡できず、また一部行使はできないものであった。ストック・オプションの条件は以下の通りであった。
付与数:従業員1名あたり200個 (合計12,000個)
1個当たり株式数:2株 (合計24,000株)
1株当たり行使時の払込金額:6,000円
権利確定日:X3年6月末日
権利行使期間:X3年7月から2年間
1個当たり公正な評価単価:@900権利確定の為に、以下の条件をいずれも達成することが必要である。
勤務条件:X1年7月からX3年6月まで在籍している
業績条件:行使する会計期間の直前会計期間の利益が、X1年3月期の利益に比して 120%以上である
なお、業績条件に関して、X3年3月期に達成できると見込まれた。付与時点において、5名の退職による失効を見込んでいる。
X3月6月末までに退職した人数は5名だった。
①X1年度の決算整理仕訳を示しなさい。
②X2年度の決算整理仕訳を示しなさい。
③権利確定日の仕訳を示しなさい。
3.余談
未公開企業におけるストック・オプション
証券取引所に株式を公開していない企業であっても、ストック・オプションの発行は可能です。
ただし、未公開企業は自社の株価情報を得ることができない為、ストック・オプションの公正な評価単価を信頼性をもって見積もれない場合があります。
そこで、未公開企業に関しては、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値で算定することも認められています。
本源的価値の計算式は、以下の通りです。
この行使価格が株式の評価額よりも高く設定されている場合は、本源的価値は0(マイナスになる場合は、0として算定)となります。
本源的価値が0である場合は、株式報酬費用は発生しません。
なお、本源的価値は、付与日時点で計算され、その後の見直しは行われません。
株式報酬型ストック・オプション
株式報酬型ストック・オプションとは、株式を報酬として受け取ることを目的としたストック・オプションのことです。
権利行使価格を1円などの非常に低い価格に設定することが多いため、1円ストック・オプションと呼ばれています。
この株式報酬型ストック・オプションは、一般的に退職金の代替として利用されています。