⑧転生ゴブリン、食べ物チートで国を作る
第8話 救出
兄君の案内で洞窟の奥へと入っていく。
思えば、洞窟の奥には行ったことがなかった。洞窟の奥は、枝分かれが多くあった。恐らくその先の一つ一つが部屋のようになっているのだろう。きっと、上位のゴブリン達はそういった部屋に住むことができて、下位のゴブリン達は追い出されるようにして入り口近くにすまざるを得ない。そんな状況だろう。
洞窟を進んでいくと、ふと灯りが見えた。
誰かいる。そう警戒したが、兄君は「ダイジョウブ」と言って先に進んだ。
その灯りは、照明だった。壁につけられた、土でできた燭台。燭台にはたっぷりの油と、そこから頭を出した芯があり、それが燃えている。
変だ。
この灯りの仕組みは、ゴブリンには不似合いなほど高度だ。だとすると。この巣穴の主は、ただのゴブリンではなさそうだった。
どんな敵かわからない。
オレは気合いを入れ直した。
大丈夫だ。
こちらは食べ物を食べさせれば勝ち。
そのことだけに集中すればいい。
そんなことを考えていると、不意に兄君が立ち止まった。
その先は分かれ道になっている。
「兄君、どうした?」
「コノサキ。オウ、イル」
兄君はそう言って、右の道を指差した。
ん? じゃあ、左は?
その疑問を口にする前に、兄君は言った。
「コッチニ、イモウト、イル」
なるほど。
兄君はきっと、妹ちゃんをできるだけ早く助け出したいんだ。
でも優先すべきは、妹ちゃんの救出よりも、王を倒すこと。
それが分かっているから、迷っているんだ。
オレは、兄君の肩に手をのせた。
「行こう」
そう言って、妹ちゃんのいる方の道を進んだ。
その先は、物置になっていた。
と言ってもほとんどガラクタで、使えそうなものはなかった。そんなごみごみした場所に、両手両足を縛られ、布で猿轡を噛まされたゴブリンが転がっていた。兄君が駆け寄る。きっと妹ちゃんだ。
兄君は妹ちゃんの縄をほどく。
妹ちゃんは、兄君に抱きついた。
よっぽど怖かったんだろう。声を殺しながら泣いている。
兄君も妹ちゃんと一緒に泣いている。
何はともあれ、よかった。
オレは兄君の肩に手をおいて、言った。
「あとはオレたちがなんとかする。妹ちゃんと一緒に、ココから出るんだ。あと、弟君もいるだろ。みんなで一緒にココから出るんだ」
兄君は頭に「?」を浮かべてこちらを見ている。
「ん? なんか変なこと言った?」
「オトウト、イナイ。イモウト、ダケ」
いやいや。いたやん!
はじめて会ったときに弟君、一緒にいたじゃん!
あれ? もしかして。
「弟君は、妹ちゃんだった?」
兄君は不思議そうにうなずいた。
──そうか。なるほどね。
ゴブリンは見た目では、性別が分かりにくい!
「まぁ、それはそれでいいよ。二人で早くここから出な」
兄君は妹ちゃんに、言い聞かせるように話す。
妹ちゃんはイヤイヤをしていたが、最後はウンと頷いて、兄君に抱きついた。そして、二人は離れた。
「イッショニ、イク」
「いや、妹ちゃん危ないだろ。一緒にいてやれよ」
「イモウト、ツヨイ。オレヨリ、ツヨイ。ヒトリ、ダイジョウブ。オレ、ヤクダツ、ダカラ、イク」
「いや、妹ちゃんがさ」
妹ちゃんが、オレの前に歩いてきた。
オレの手を握り、言った。
「わたしは、だいじょぶです。お兄ちゃんを、つれてってください」
思わず、苦い顔をしてしまう。
でも、もう答えは決まっている。
2人とも同じ想いだ。
オレが言えることは、ひとつだ。
「わかった。絶対に王を倒して帰ってくる。だから妹ちゃんも、絶対に安全にして、ココを出るんだぞ」
妹ちゃんは笑顔でうなずき、それから外に走っていった。
オレは兄君を見た。
「ここから先は、もう案内役じゃない。一緒に戦う、仲間だ」
そう言って、手を差し出す。
兄君はその手を、しっかりと握り返してきた。
あれ。兄君、握力強くない?