①転生ゴブリン 食べ物チートで国を作る
第1話 生まれて初めて空を飛ぶ
彼女にするなら、絶対に顔の良い子だ。
だから俺は、幼馴染みの友美が彼女でよかったと思っている。
友美は顔も良いし、それに性格も良かった。
だから、どんな時にでも絶対に守ろうと思うし、優しくしようと心に決めていた。
それを言ったら、友美は笑いながら聞いてきた。
「じゃあ、私の顔が綺麗じゃなくなったら、英雄はどうするつもり?」
そんなの、考えたこともなかった。
あんまり考えずに答えた。
「それでも一緒にいるよ」
「──うれしい」
そういって、俺の腕を抱き締めた。
友美の頭をなでる。
直後に、俺たちはトラックに轢かれた。
生まれて初めて飛んだ空は、ぐるぐるにまわっていた。
■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇
§1
「──……っ」遠くから声が聞こえる。
「──デ」その声はだんだん大きくなって。
「──ヒデっ!」俺の名前を呼んでいた。
「んあ?」
目を開けると、目の前には緑色の肌で、三角形に尖った鼻と尖った耳、ギョロリとした目の生き物がいた。それの醜悪な生き物の名前が、頭に浮かんだ。──ゴブリンだ。
声をあげながら、その伸ばされた手を払った。
それから、尻もちをついたまま、後ずさりをして距離をあけた。
襲われないように警戒していると、そいつは下を向いた。
「……ごめん」
確かにそういった。
そこで、まさか、と思った。
「トモミ、なのか」
「……ごめん」
生きていて良かった。そう思って、トモミに抱きつこうとして。──やめてしまった。
気持ち悪い。そう思ってしまった。
どうにもできずにただ立っていると、トモミは不意に背中を向けて、走って行ってしまった。
トモミの後ろ姿に手を伸ばした。緑色の枯れ木のような腕が視界に入った。それは、間違いなく、自分の体から伸びている腕だった。身体を見て、顔を手で触った。
鏡がなくて良かった。もし今の自分の姿を自分で見れたら、考えただけで頭がおかしくなりそうだった。
こうしてオレは、自分がゴブリンになってしまったことを、理解した。
§2
オレは辺りを見回した。ここは洞窟の中らしい。そういえば、ゴブリンは洞窟に巣を作ると聞いたことがある。たぶん、ここがそうなのだろう。入り口から近いみたいで、向こうではわずかに明かりが漏れている。
暗いけれども、それでも周りのようすはハッキリと分かった。
小さく細いゴブリンが、5、6体ぐらい、壁でうずくまっている。そのなかで、母親らしいゴブリンとその乳首に吸い付いている小太りなチビゴブリンを見つけた。
急にお腹が減ってきた。ゴブリンに吸い付くなんて考えたくもなかった。でも、空腹には勝てない。オレは、チビゴブリンの横に立った。
──ちびゴブに殴られた。痛い。
ちびゴブは、コレは全部自分のものだと態度で示していた。母ゴブリンは止めずにただ見ていた。周りを見渡した。うずくまって動かないゴブリン達を見てわかった。
弱肉強食だ。
強い奴は食事にありつける。弱いやつらは死んでいく。そうして強いやつらだけが残っていく。それが、この世界のルールみたいだ。
オレは自分の身体を見た。それは弱者の側の身体だ。力では小太りチビゴブリンには絶対に勝てない。──詰みだった。
このまま、最後はゴブリンとして死ぬのか。
そんなことを考えていると、友美の顔が浮かんできた。
──私の顔が綺麗じゃなくなったら。
そうか、あれは。見た目じゃなくて中身を見て、って。そう言ってたんだ。そんなこともわからなかったのかぁ。トモミには、悪いことしたな。
トモミはトモミだったのに。
──頭の中で、なにかが弾けて、繋がった。
トモミはトモミだ。トモミはゴブリンじゃない。たとえ、見た目がゴブリンでも。
オレも同じだ。見た目はゴブリンでも、中身は違う。オレには、ゴブリンにはないものがある。
オレは立ち上がった。小太りチビゴブリンを一度だけ見る。
今はあいつには勝てない。でも、必ず勝って見せる。人間だった時の知識を使って、生き延びる。
そのためには、ここにいてはいけない。
オレは、先の見えない暗い洞窟に背を向けた。
洞窟に差し込む光に、思わず目を細めた。
それから、外へ向かって歩き出した。