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雪がふったら…


「ちさとちゃん、この雪のなかをそんなに走ってどこにいくの?」
「駅!とうちゃんがかえってくるの」
「そりゃあ よかったねぇ」
 やおやのおばさんのこえが、ちさとのせなかをクイッと、おします。
 ばあちゃんとふたりぐらしのさびしさを ちさとがいっしょうけんめいにがまんしていることを、やおやのおばさんは、よくしつているのです。
 この冬はじめての雪は、大みそかのよるからふりはじめ、お正月をしろ一色でむかえました。


 ちさとのとうちゃんは、三年連続のでかせぎです。かあちゃんは、ちさとをうむとすぐに、星になって空にのぼったそうです。
 夜道をいくとき、ばあちやんはよく、
「かあちゃん星がわらっているからあかるい、あかるい」
と、夜空をみあげます。
 でも、ちさとは、くらくってもいいから、かあちゃんには星ではなく、かあちゃんのままでいてほしかったとおもうのです。
 クリスマスがすぎても、とうちゃんは、かえつてきません。
「給料をはらってもらえないんだって」
 コタツでせなかをまるめたばあちゃんが、とうちゃんからの手紙をまえに、ポツンとつぶやきました。
 まいにち、まいにち、とうちゃんのかえりをまちわびて「いつ、かえるの」と、きく ちさとに手をやいたばあちゃんは、
「とうちゃんは、雪がふったらかえってくる」
と、いいきかせました。
 あたたかいちさとのすむ町では、めったに雪がふることはありません。
 ちさとのとうちゃんのでかせぎさきは、不況のあらしをうけて つぶれかかっていました。半年ぶんの給料どころか、かえる汽車ちんさえありません。かえるあてのないまま、闘争をつづけるとうちゃんのことをおもうと、ばあちゃんは、ふるはずのない雪を承知で、「雪がふったら」と、こたえるしかなかったのです。
 大みそかの夜、除夜のかねにさそわれるように ふりだした雪は、ばあちゃんのきもちも しらぬげに、十年ぶりの大雪になりました。
「うそつき!雪がふったんだよ。ばあちゃん、とうちゃんがかえってくるっていったじゃない!」
 朝の光りをあびて、ちさとの目には、いまにもこぼれそうな涙がゆれています。
 そのときです。電話のベルがなったのは……。
 電話をとったばあちゃんの顔がパッと、かがやきました。
「あした、かえる」という とうちゃんからの電話でした。
 正月だけは、ふるさとでむかえたいというとうさんたちのねがいが、会社がわの最低のじょうけんをのませたのです。
でも、とうさんたちにとって それは まけたのではなく、出発でした。おかねではなく、家族の愛をもとでに やりなおすことをきめたのですからー。

                     おわり

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