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【投資銀行】【FAS】両者を経験したからわかる、投資銀行とFASの違いの解説

はじめに

 こんにちは、めるです。
 先日、以下の通りFASと比較したときの投資銀行の良いところを書こうかなとツイートしましたが、当初想定を上回る反響があったため投稿してみたいと思います。

 ここでの投資銀行はFASへの入社を検討するうえで比較的バッティングしやすい日系証券会社の投資銀行部門(以下、便宜的に"日系IB"と呼称)を想定しております。日系IBやFASは会社によっては色々で、さらに部署まで細分化するときりがないので、あくまでも業界全体で見たときのざっくりした比較となります。


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日系IBの良いところ(組織面・制度面)

①福利厚生が手厚い

 当方がFASに転職して強く実感したのが、日系IBは福利厚生が手厚いということです。家賃補助、社食制度(食費補助)、保養所、提携している事業会社(ジム、ホテル、旅行会社、エンターテイメント)での格安利用券…等、すべてを挙げるときりありませんが、日系IBは各社とも日本有数の大企業なため、やはり一流の福利厚生がそろっています。

 一方、FASは基本的にコストを節約する傾向にあるため、日系IBと比較するとどうしても福利厚生が限られてしまいます(しかも他社の話を聞くと、元々そこまで手厚くなかった福利厚生が年々削られていることころもあるとか)。 

②未経験若手の教育体制が確立

 日系IBは各社とも新卒採用を開始して久しく、そのため各社とも未経験若手の教育ノウハウを蓄積しております。

 一方で、以下のツイートでも触れておりますが、FASは日系IBと比較すると新卒の採用実績が浅く、Big4 FASを例にとっても新卒採用の人数を大幅に増やしたのは私が知りうる限りここ3-4年程度です。それまで、FASは各社とも基本的に経験者を中心に採用し、自社で若手未経験者を育てるということを大々的に行ってきませんでした。

 そのため、未経験の若手を一人前の金融マンに育てるノウハウの蓄積という点においていえば、現時点では日系IBはFASより一日の長があると言えます。

③コンプライアンスに対する感度の高さ

 FASと比較すると日系IBはコンプライアンスに対する感度がとても高いです。以下は2023年1月8日時点のOpenworkの「法令順守意識」に関する得点ですが、日系IBが平均して4.5あるなか、FASは全体的にそれよりも劣り、独立系FASに限定すると3.7と相対的な低さが目立ちます。Openworkは口コミをベースとした点数となるため正確性は担保されていませんが、個人的にはこの点数は大枠では間違っていないと思っております。

(出典)Openworkより著者作成

 もちろん、FASもコンプライアンス教育は各社ともしっかりと行っておりますが、率直に申し上げてコンプライアンスに対する意識は日系IB程ではないと感じており、日系IBからFASに転職された複数の方に聞いたところ皆さん同じように仰っておりました。

 そして、私見ではありますが、このコンプライアンスに対する意識というものは若手時代にしっかりと教育を受けて身につけないとその後なかなか得るのが難しいと感じております。そのため、若手時代に無料でコンプライアンスの重要性を一から学べることは日系IBで働く隠れた魅力だと思っております。

④社内サポートが充実

 日系IBはバックオフィスに費やしている人員や予算がFASとは段違いです。例を挙げると、FASでは一部大手でないと備えていないパワーポイント作成支援チーム・公表案件統計管理チーム・印刷支援チーム等が日系IBでは一通りそろっており、これらのチームは業務をするうえでとても頼りになる存在です。加えて、当方は日系IB・FASでそれぞれ業務を依頼したことがありますが、納期や成果物のクオリティの面でも日系IBは優れていると感じました。

 また、先日以下の通りツイートしたように、ベンダーにしても使える種類やアカウントの数は日系IBの方が勝っていると感じております。

日系IBの良いところ(M&Aアドバイザー業務の観点)

 次に、M&Aアドバイザー業務の観点から日系IBとFASを比較してみます。日系IBはプロダクトのM&Aアドバイザー部署、FASはFAチームを想定しております。

⑤様々なスキームの案件を担当できる 

 既知の方も多いと思いますので詳細な記載は省略しますが、日系IBでは取り扱う案件規模が大きく様々な案件の引き合いも来るので多様なスキームの案件を取り扱います。一方で、FASではカーブアウトが多少あるくらいで、複雑なスキームの案件や上場企業案件(TOB案件含む)にかかわることは少ないです。

 M&Aアドバイザーとしてスキルを磨きたいのであれば、日系IBでM&Aアドバイザーとして働き様々なスキームへの対応実績を持つことはメリットになると考えます。

⑥注目度の高い案件を担当できる

 基本的なことなので⑥と同様に詳細な記載は省略しますが、日系IBはラージキャップが中心となりFASはミッドキャップの案件が中心となります。世間からの注目を集めやすい案件は得てして案件規模も大きくなりやすく、そのため注目を集めるM&A案件のFAは大体日系IBや外銀が務めております。

 「新聞の一面に載るようなM&A案件を担当してみたい」という思いがあるのならFASへの入社はあまりお勧めできません。

⑦提案業務の比重が低い

  日系IBではプロダクトとカバレッジは組織体制として分かれているので、基本的にM&Aアドバイザーチームに配属されたらM&Aのエグゼキューションが仕事のメインとなります。

 一方で、FASのFAチームはオリジネーション・エグゼキューションを両方とも担当することが基本となるため、エグゼキューション業務だけをやっていれば良いというわけにもいきません。特に、シニアになるとオリジネーションで評価される傾向が強くなるため、昇格するほどオリジネーション業務の比重が高くなります(要は客を取ってこれるか)。

 上記を踏まえて、「営業活動が苦手」「エグゼキューターとして活躍したい」等の思いがあるのならば日系IBが向いていると言えるでしょう。

⑧(ジュニア時代は)案件執行経験が豊富なシニアの下で修業ができる

 「②未経験若手の教育体制が確立」「⑦提案業務の比重が低い」にも関連しますが、日系IBはエグゼキューションメインの部署となるため、案件執行にかかるノウハウがたまりやすく、(当然ながら)シニアのエグゼキューションの知見も深まります。そして、シニアはその知見を基にエグゼキューション業務を行いつつ、ジュニアの教育に臨むというシステムが確立されています。

 FASにおいてもジュニアの教育はシニアの担当というのは変わりません。他方で、先述したようにFASのシニアはオリジネーション業務に稼働の大部分を割く必要もあるため、案件の業務経験が一定程度あるジュニアが案件にかかわっていると獲得して自身が主任を務めることになった案件のエグゼキューション業務をジュニアに丸投げして、自身は他案件のオリジネーション活動に勤しむ、、、という事例が多数見受けられます。

 「ジュニアのうちはエグゼキューション業務の足腰をしっかりと鍛えたい」という思いがあるのならば、やはりオリジネーションとエグゼキューションの体制が組織として分けられている日系IB M&Aアドバイザーチームで経験豊富なシニアに師事をして修行をするのは魅力的と考えます。

FASの良いところ(組織面・制度面)

①働き方に裁量が認められている

 上記のツイートでも触れておりますが、FASにおいて特に素晴らしい点はやはり働き方に柔軟性が認められていることです。日系IBもコロナの影響で一時は在宅勤務を取り入れたが情報管理の観点などから結局はオフィス出社に戻していると聞いております。

 一方で、FASは多くの会社で引き続きリモートワークを取り入れており、フルリモートかどうかは会社によりますが、少なくとも日系IBよりかなり裁量があると感じております。
 それを証拠に、ご結婚やご出産などのライフイベントを背景にこれまでの働き方を見直して日系IBからFASに転職を検討される方も一定数おります。逆に、実力的にはFASから日系IBに転職することが可能で年収がアップすることも分かっているが、現状の働き方を手放したくないためにFASで働き続けることを選択する方もいらっしゃいます(もちろん、クライアントMTGや往訪があればスーツ着装や出社の必要性が出てきますが)。

②(日系IB対比で)異動リスクや配属リスクが比較的低い

 現場の声や評価は十二分に考慮されているとはいえ、日系IB(というより日系証券会社)では基本的に配属や移動などの人事権は人事部にあり、ある日突然、上長や自分にとって思いもよらない辞令が言い渡される…なんていうのも珍しくありません。

 一方で、FASは人事権に関しては基本的にフロントチームにあり、フロントチームが感知しない人事異動というのはありません(少なくとも私は存じ上げません)。また、会社によっては入社後一定期間用意されているローテーション期間を除けば、そもそも部署に本配属された後は異動というものが組織設計として考えられておらず、本配属後に別部署に異動させられる…というのも一部の例外を除いてはありません。
 
 このような点を踏まえると、少なくともスタッフレイヤーにおいては、FASは日系IBより配属リスクや異動リスクが限定的なため比較的キャリア設計をしやすい環境にあると言えます。

③サービスライン間の垣根が低い

 日系IBは情報管理の観点から部署ごとのやり取りを制限しており、仕事上の付き合いや同期の繋がりなどがなければ他チームと交流を持つことは限られております。

 一方で、FASに関して言うと、部署間毎のやり取りを日系IB程には厳密には統制しておらず、サービスラインやセクター関係なく人材交流は行いやすい状況です。そのため、コンサルチームやFDDチームなど、チームに拠らず個人的な関係性を築いて独立をされた後にその人脈を活かしている方々も見受けられます(かく言う私も、案件で一緒になった他サービスラインの方々とは定期的にランチを共にして情報交換するなどして交流を個人的に深めています)。また、FAチームは金融関連のキャリアを持っている方々が太宗ですが、特にコンサルチームには異色の経歴を持つ方々も多数おり、そのような方達と個人的に飲みに行ったりすると新しい発見があり、かなり刺激的な経験になります。
 
 このように、サービスライン間の垣根が低いことで人材交流を行いやすい環境にあるのは、FASの隠れた魅力の一つと考えております。

④ドライな人間関係

 先日も日系IBのお土産文化に触れましたが、リテール部門や(銀行系証券であれば)銀行の影響からか、日系IBはどちらかというとウェットな人間関係の部署の方が割合多いと感じています。

 一方で、FASは基本的に職場はドライな人間関係で、案件が終わった後のチーム打ち上げや会食がある程度でそれ以外のオフィシャルな飲み会はなく、あったとしても出席は強制されず欠席しても評価に特に影響しません。
 
 もちろん、ウェットな人間関係が好きという方もいらっしゃるかと思いますが、周りを見ているとそういったドライな人間関係を好かれている方はM&Aアドバイザーの方に多いと感じておりますので、あえてFASの良いところとして取り上げました。

⑤ハラスメントに対する感度の高さ

 FASでは全体的にハラスメントに対しては厳しいスタンスで臨んでおり、当方が直接確認できる範囲ではパワハラやセクハラなどのハラスメント行為は確認できず、他会社や他部署でもハラスメント事案には厳粛に対処していると伝え聞いております。

 当方が在籍していた日系IBの部署は体育会気質が強く、FASだとかなり微妙なハラスメント行為も程度の差こそあれど多少は黙認されておりました。また、ハラスメント相談室も設置はされておりましたが、それが機能している例を終ぞ確認できず、会社全体としてハラスメントに対して厳しいスタンスで臨もうという雰囲気は感じられませんでした(もちろん、ハラスメント研修は用意されており、対外的にハラスメントに対して厳しく対処することは公表しておりましたが)。

 そのため、現職の雰囲気は入社当初はとても新鮮であり、かつ私個人にはとても好ましいものでした。

FASの良いところ(M&Aアドバイザー業務の観点)

⑥チームメンバーが限られているため経験できる業務範囲が広い

 これは既に広く知られた話ではありますが、日系IBは案件が大きい分一つの案件に複数のメンバーをアサインするため、担当業務が細切れになってしまう点を指摘されています。

 一方で、FASはそもそも人数をそこまで抱えてはおらず、基本的に国内の中規模案件(~100億円)程度であればP/MDを除くと3-5名で回します。そのため、細切れにするほどの余力もなく、(担当者としては幸いなことに)結果的に網羅的な経験を得ることができます。
 
 無論、網羅的な経験を得られると言っても結局は中規模案件までなので得られる経験にも限度はあります。とは言え、M&Aアドバイザーとしての足腰を鍛える分には中規模案件の執行経験を網羅的に積むことも将来的には十分役立つと思うため、こちらに記載させていただきました。 

⑦アサイン案件に(ある程度)希望が出せる

 日系IB M&Aチームの場合、基本的には部署のマネジメントクラスやアサイン担当が決めた割り当て案件にアサインされる形が主流で、アサイン案件に希望は出せない、もしくは出せても一応考慮される程度と認識しております。

 一方で、FAS FAチームはそもそもが投資銀行ほど明確なトップダウンではないため、割とアサイン希望は出しやすい環境にあります(もちろん例外もありますが)。実際、当方もFAS入社1年後にどうしても関与したい案件があり、アサイン担当に打診したうえで同僚とアサインに関して融通しあうことで調整して最終的に当該案件に無事アサインしてもらうことができました。

⑧(日系IBと比較すると)自分の所属チーム以外の仕事にもチャレンジしやすい

 日系IB M&Aチームの場合、当然ながらM&Aの案件執行を担う部署であるためFA業務およびその関連業務を主業務とします。そしてウォールが引かれているため、M&Aチームに在籍中は他チームの業務(極端な例で、ECM業務やDCMなどのキャピマ業務)には関与することはできません。

 一方で、FAS FAチームの場合もM&Aの案件執行を担う部署であるためFA業務が主業務となりその点は日系IBと変わりません。しかしながら、前述のとおりサービスラインの垣根が低いことも影響してか、現場レベルでは割とサービスライン間での人の融通が行われており、コンサルやVAL主担当のスタッフがFA業務を一時担当する例を直接拝見しております。また、当方を例に挙げても、所属はFAチームなのでFA業務とVAL業務は当然行うのですが、それ以外にも希望して他業務を担当させていただいたことがあります。

 FA業務だけを経験したい人にとってはあまり必要ないことかもしれませんが、FA業務をやっているとFDDレポートやBDDレポートがどのように作られるのかなどを知っておくことは有益なので、幅広い業務にチャレンジできることをメリットの一つとして取り上げました(もちろん、会社やチームの事情次第ではこのようなチャレンジができない可能性もあるので、この点はご留意ください)。

まとめ

 日系IBとFASは近しい業界であるため、ともすれば内情もほとんど変わらないと思いがちですが、仕事はともかくカルチャーは少なくない点で異なる業界です。入社してくる新人の方を見ても、「この人はFASに合いそうだ」と思った人は自分のやりたい分野でぐんぐん成長する傾向にあり、そのような人を見ると個人的にはとてもうれしく感じます(なお、当方は日系IBとFASはそれぞれに善し悪しがあると考えており、前提も考えずに「どちらに入社すべき」というポジションは取らない姿勢を原則的には取っております)。

 ブランド価値やキャリアとしての箔という点も大事ですが、是非それ以外の点も考慮したうえでキャリアをご検討いただければ幸いです。そして、公表した一連のnoteがその一助になれば望外の喜びでございます。


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